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探偵による大詰め 3

「いやいやいや、そういうわけじゃあない。まだこの時点では――」


 言いかけている時にノックの音。探偵士が顔を出す。


「失礼します。例の、調査結果が出ましたので――」


「ああ、どうも」


 ヴァンは紙を受け取ると、


「はいはい……はっはあ、はっはっは」


 読みながら途中でげらげらと笑いだす。


「ど、どうしたんですか?」


「いやいや、想像通りだったから――いや想像以上だったからだよ。なるほどね、そういう――」


 ヴァンが笑っている間に、その探偵士はかなり言いにくそうな様子でアオイに近づいて何事か耳打ちする。


「うええ!」


 悲鳴とうめき声の中間をあげてからアオイは頭を抱えて、


「あー、でも、そうっすよねえ……」


「どうしたんですか?」


 こっちもこっちで気になるので今度はそっちに質問する。


「オーキがホテルを出たらしいんす。一応、うちの部下も止めたらしいんですけど、相手は大物だし、そもそも今回の事件の関係者なのかって話じゃないっすか。ただ近くのホテルに泊まっていただけで、かなり昔に一度だけ被害者と接点あっただけですし。それもあって、あんまりきつく止められなくて……」


「ということは、これからオーキさんが事件の関係者だと判明すれば、法的に強制的に追いかけてとっ捕まえることができるわけだ」


 まだにやにやと笑ったままヴァンが言い、紙をひらひらと揺らしながら内容を発表し出す。


「まず、時系列について――ショウトウは指名手配はされていたけれど、何分かなり昔の話だから現場は混乱したみたいでさ。話が俺のところにくるまでにそこそこ時間がかかったみたいだ。だから実際に時系列で言うと、ショウトウの出頭の翌日、イワンの死体が発見されて、そうして同時に俺のところに知らせが来た、と。こういう流れらしい。さっき話題に出たオーキさんは、ははん、なるほど――あの大会の後、議員にね。更に大物になって、今では議員を辞めているみたいだけど、影響力はかなりでかい。まあ、そういう権力者にありがちな怪しい金の流れ、みたいな話はかなりあるみたいだね」


 ぺらぺらと楽しそうに話すが、どこがどう事件に関係あるのかは分からない。


 まだしっかり全部を読んではいないらしく、ヴァンは紙に再び目を落とす。


「ホージョウは――あの大会にかなり入れ込んでいたらしい。どうも、ソラの優勝にほとんど全財産を賭けていたような状況だったってさ。で、それが失敗してから落ちぶれて犯罪組織の食い物にされた、と。ソラのことを恨んでいるだろうね。対照的にビンチョルはイワンのスポンサーだったけど、そこまで入れ込むこともなく、あの大昔の大会も名前を売るためと人脈づくりと割り切っていたみたいだね。それもあって順調に事業を発展させていったみたいだ。表も、裏もね。で、裏の方の事業の関係で今では例の組織の大幹部、と。なるほど、もう少しで最高幹部に手がかかる状況なのか。そこまでの立場なら、そりゃあ、マサカドさんも真剣になるはずだね。ビンチョルからうまくいけば芋づる式に組織を全部引きずり出せる」


 ホージョウのソラへの恨み。少し、今回の事件と関わりつつある事柄が出てきた気がする。だが、まだよく分からない。


「ケイブは、昔めった刺しにされたのに助かったから『死にぞこない』ってところまでは知っていたけど、その詳しい理由は知らなかったな。ケイブってのは、内臓の配置が常人と違うんだね。内臓逆位ってやつだね、話に聞いたことがあるけど――じゃあ、完全に運よく助かっただけか。別にすごい能力を持っているとか、そういうわけじゃないんだね」


「ああ、そうっすよ。あいつは本当に多少腕っぷしが強いだけで頭の足りない、暴力に頼ってばかりの小物っす。無駄に裏でのキャリアは長いんで、組織で一応幹部っぽい扱いにはなってるらしいんすけどね」


 心底馬鹿にしきった顔でアオイが言う。


「で、後は、『歪杯の会』だけど……大体、ギンジョ―の言った通りみたいだね。例の大会後はかなり苦渋を舐めて放浪して、ここに根を下ろして例の杯を掘り出してから、ようやく運が向く。いや、運って言ったら怒られるかな。ともかく、失せもの探しや予言なんかでずばりと奇跡を起こしてどんどん話題になっていく、と。おお、評判とかも書いてくれてるね」


 ふむふむと読みながら、またヴァンの顔がにやけていく。


「なるほど、なるほど、杯の前で祈って杯の声を聴く、と。それから、語ることは、誰にも言っていない秘め事や悩みをばっちりと言い当てる。ふんふん、多分間違いないね」


 それから、一転して眉をひそめる。何かが目に留まったようだ。


「……ん? これ、どういうこと? ハヅキが凶器を準備した可能性って?」


「ああ、それですか。例の発見された埋められていた剣――あれは最近は儀式では使用されず、あの屋敷の物置のような場所に置きっぱなしになっていたことが分かったんです。ギンジョーは黙っていましたが、他の一般の信者から詳しい話が聞けまして。つまり、ハヅキは衝動的にイワンにそばにあった剣を使ったのではなく、それを物置から取り出して準備していたことになります。それに深夜にわざわざ鍵を持ち出したことも分かりました」


「鍵?」


「例の現場――聖域への鍵です。あの場所への鍵を元々彼女は自室に置いていたらしいのですが、それを深夜に部屋からわざわざ持ち出している姿がギンジョーに目撃されています。その時の態度が少しだけ妙だった、と。ずっと口を堅く閉ざしていましたが、事情聴取で絞りに絞ったらようやくそれだけギンジョーがぽろっとこぼしてました。おそらく、彼女を庇う意図で今まで黙っていたのでしょう」


 これは、決定的だ。つまり、完全な殺意を持ってハヅキがイワンを殺したという証拠だ。

 だが、黙ったヴァンはしばらく考えた後、


「……なるほど、つまり――『最初から鍵がかかっていた』と考えた方がいいね。なるほど、ようやく分かった。最後のピースがはまったよ。ハヅキは、イワンを殺していない、か」


 訳の分からないことを言って頷くヴァンは、紙を持ってきた探偵士の方に顔を向けて、


「ありがとう。もう、これで大体は見えてきたよ。あとは例のディガーの手配、それからマジックアイテムの血痕の調査かな。これで確信がつかめれば、身体検査と徹底的な取り調べで――」


「あっ、そうでした」


 オーキが去った報告をして気が緩んでいたのか、少しだけぼうっとして突っ立っていた様子の探偵士は飛び上がる。


「申し訳ありません、ご報告が遅れまして。ディガーの手配ですが、ちょうど近くにいたので早速――」


「えっ、もう掘ったの?」


「はい、ただ、あそこはご存知のように崩れやすく、またこの季節は凍り付いていることもあって難儀しておりましてほんの少しずつですが」


「ああ、それでもいいよ。で、何か分かった?」


「い、いえ……そのディガーが言うには、確かに一度掘られた痕跡があるということしか。ああ、あとそれから、今回の事件とは関係ありませんが……ひょっとしたら、遥か以前にもあのあたりは掘られているかもしれない、と」


 事件にあまり関係なさそうなその報告に、傍目から分かるほどにヴァンは目を開かせる。


「へえ、面白いね」


「あとは何も……ああ、何かの破片のようなゴミは土中より見つかりましたが。一応、お見せしようと」


 そう言って探偵士が取り出したのはペンほどのサイズの土色に薄汚れた金属の棒のように見える。元々は長かったものが千切れたようで、両端は醜くねじくれており、棒自体も歪んでいる。


「――ちょっといい?」


 ヴァンは手を伸ばして、受け取る。それを少しだけ振る。


「……軽い」


 そう言って、ヴァンはお前も持ってみろとばかりにそれを僕に渡してから目を閉じる。


「えっ」


 僕も一応持ってみると、なるほど確かに軽い。金属の棒とは思えない、木の棒よりも少し重いかくらいのものだ。いや、軽いのは当然だ。この棒は、


「中身が、空洞?」


 僕が分かったことをそのまま口に出した時には、既にヴァンは目を開き立ち上がっている。


「さて、じゃあこれで終わりだね」


 いきなりの発言に、僕、アオイ、そしてその探偵士がぽかんとする。


「あのお、何がですか?」


 おずおずと僕がそう質問すると、


「何って、事件の総ざらいが、だよ。あとは、もう、解決するだけだ。答えは出たからね。あー、そうだね、結局のところポイントは――胃の中の鍵だね」

読者への挑戦に続きます。

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