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ココアのまとめ

 部屋に戻ってから僕はメモ帳を広げる。

 色々とあって疲れた、が、とりあえず話を絞ってみよう。イワンの殺人についてだ。

 メモに、まずは思いつくままに情報を書いていく。


・イワンの死体がハヅキに発見される。

・死体発見現場は、歪杯の会の本部の地下トンネルの奥(聖堂)、特注の鍵のかかった扉の奥。

・死体には複数の傷。どれが致命傷なのかは分からない。寒さのため、死体も血も凍りかけてしまっており、詳しい情報を得るのは難しい?

・死体の傍には壁にくっついた箱、その中にはご神体の地面に埋まった杯と、ナイフもどき。ナイフもどきについては元々なかったもの。この箱にも鍵がかかっていた。


「ううん」


 思わず唸る。冷静に考えれば、この事件は謎というほど謎はない。思ったことを書き加えてみる。


・聖域は密室だが、扉は常識的なもの。つまり、内側からは施錠できるし、なによりも鍵を持っていれば何の問題もなく施錠できる。つまり、鍵を持っている教団幹部の三人――ソラ・ハヅキ・ギンジョ―についてはまるで密室になっていない。

・朝集会の後、信者の去った後は、ソラは部屋で祈り、ギンジョ―は屋敷の見回り、ハヅキは何度かに分けて少しずつ本部の清掃をしていたと証言。そしていたのはこの三人だけ。つまり、このうち誰かが抜け出してイワンを殺し、人目がないのを見計らってその死体を聖域まで運んでいくのも不可能では――


 そこまで書いて手が止まる。

 待てよ。

 そもそも、イワンをどこで殺したのか、という問題がある。もしも本部――あの屋敷の外で殺したのだとしたら、朝の集会から死体が見つかるまでの間、つまり真昼間に死体を運んだことになる。だが、先程試したように裏口ルートは通るのは不可能、となると、正面から死体を持って入ることになる、が。


「中はともかく、なあ」


 本部には三人しかいない――というよりそのうち一人が犯人だったら二人――から見つからずに死体を聖域に運び込むことは可能だろうが、問題は外だ。昼間、人通りもある。死体を運ぶのがばれないわけがない。そうなると、やはり。


「……本部で殺された」


 というより、一番分かり易いのは聖域で殺された、つまり発見された場所が殺害現場だというパターンだ。そうなると、


・犯人はイワンを聖域に呼び出す。そこでイワンを殺害し、死体をそこに置いて、扉に鍵をかける。


「いやー、うーん」


 そうなると、根本的な疑問が出てくる。つまり、どうして犯人は鍵を閉めたのか。わざわざ密室にしている理由は……?


「あっ」


 思いつく。別に大したアイデアではない、が。


・犯人はイワンに致命傷を負わせる。だが死んでいなかったイワンが内側から扉に鍵をかける。


 つまり、犯人にとどめをさされるのを防ぐためにイワンが自分で扉に鍵をかけたのだ。この場合、犯人は鍵を持っていないことになるので、外部の人間が犯人になる。


 いや、いや、待てよ。自分で自分の書いたものに突っ込みを入れる。


・外部の犯人とイワンがわざわざ本部の聖域に忍び込んでそこで殺人事件が起きたことになる。


 そうなると、犯人とイワンが共犯で本部から何かを――例えばあれ、ご神体を盗み出そうとしていた。そして、そこで仲間割れをしてイワンが致命傷を負う……よさそうな気がする。これ、結構いけるんじゃあないだろうか?

 今思いついたことをどんどんメモに書き込んでいく。これは、なかなか。

 そうなると、今日ホテルにいた連中――特にホージョウ、ビンチョル、それからケイブとかいう連中が一気に怪しくなってくる。イワンと組んで窃盗、いかにもやりそうだ。


 となると今現在アオイがやっているであろうホージョウ締め上げが結構重要になってくるかもしれない。この推理をアオイに伝えてもいい。おいおい、これってヴァンが来る前に事件解決してるんじゃないの?


 そう悦に入ったところで、多少喉が渇いてくる。アオイが呼びに来るまで部屋で待っていた方がいいのだろうが、ちょっと一杯コーヒーくらい、と部屋を出る。


「あ」


 部屋を出たところで、どこかで見覚えのある男とばったり廊下で出くわす。向こうはよかったよかった、と笑顔になるがこっちには何のことか分からない。この人誰だっけ?


「いやあ、よかった。これを、アオイさんにお願いします。どこに行ったのか分からなくなって」


 そう言って書類を手渡してくる。ああ、そうか、事件現場のところで会った、探偵士の一人だ。でも、こんなものを僕に渡していいんだろうか? そう思ったが、探偵士はじゃあ、と言ってさっさと遠ざかっていく。


 まあ、いいか。どうせこの後アオイと会う。その時に渡せば。


「……うーん」


 コーヒーを飲む気が失せて、部屋に戻った後、手にある書類を見つめる。


 イワンの遺体の調査報告だ。一体、何が書いてあるのだろう。気になる。先に読んでもいいだろうか? いいか、多分。大体、記者の自分に渡してきたあの探偵士が悪い。


 意を決してめくる。色々と書いてあるが、とりあえず関係ありそうなところだけを拾い読みしてやろう。


 そして、目に入ってきたのは。


・被害者の死体にある傷のうち、頭部と首の傷は死後のものと判明。

・被害者の胃の中に小さな鍵あり。この鍵はおそらく現場にあった備え付けの箱のものと推定。要検証。


「……なにこれ?」

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