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過去 オーキの推理

 さすがにオーキはナムト国の重要人物だけあって、彼が喋りだすと係員もウーヘイも傾注の姿勢をとる。


「さっき言ったように、ウーヘイの鍵を使わんとすると、わしらの鍵を使うしかない。それも、すり取って、それをすり戻して、というのをせにゃならん。かなり難しい話や」


 一度咳をしてから、オーキは続ける。


「ただ、そこのソラお嬢ちゃんが言うように、可能性の話をするなら不可能ではないわ。ありえない話じゃあない。ただその中でもかなり不可能に近いのは――イワンがさっき言ったように、わしとイワンの鍵やろうな。試合の後、そのままここに集められて、そして今正しい鍵を持っとる。すられて元に戻されたとしたら、そのタイミングがほとんどない。これはかなり不可能に近い」


 ただ、とオーキはイワンをちらりと見て、


「わし、もしくはイワンが犯人だとしたら、それはかなり話が変わってくる」


「えっ、あ、おいおい、何を言って」


 文句を言うイワンに向かってにやとオーキは笑顔だけで口を止めさせ、


「あくまでも可能性の話、と言うとるだろ。わしが犯人の可能性も言っとるんだから察してくれ。ともかく、わしらのどちらかが犯人なら、まず試合の場ですり取らなければならない鍵は一本だけになるんじゃからのお。その時点で楽になる。そして、試合で対戦しているなら、試合中のいずれかのタイミングで相手の鍵をするなり戻すなりするのも楽にできるじゃろう」


 少し考えて、疑問の余地が出てきたのでヴァンは口を挟むことにする。


「ちょっと待ってくださいよ。そうなると、今度は一体いつ、鍵を四本揃えて金庫を開けて宝石を盗んだのか、そのタイミングの話になりますよ。犯人は試合が始まる前に鍵を全部集めて盗んで、それからソラと俺には鍵を返して、それから試合に出て相手に鍵を返して……時間的にかなりきつい気がするんですけど」


 細かくタイムテーブルの検討をして詰めていったら、結局不可能、という話になりそうだ。


「わしとイワンのすり替えが不可能に近い、という話に対して可能性を言ったまでのことや。そんなところまで考えてない。それに、共犯者が一人おったらそれでかなり話は簡単になる気もするしのお」


 共犯者、か。


「例えば、わしとそこのソラお嬢ちゃんが共犯だとすれば、ヴァンとイワンから鍵をすり取ればそれで済む。それでソラお嬢ちゃんが金庫を開けて宝玉を盗んだ後、試合中のわしに何とかしてイワンの鍵を渡して、わしがそれをイワンに戻す。これだったら何とかできそうじゃろう?」


「オーキ様。お戯れはそれくらいに……」


 へりくだった態度ながら、ソラの前に立つハヅキが声に怒気を込める。


「可能性、あくまでも可能性の話じゃよ」


 かかか、とオーキは鷹揚に笑う。


「実際、この話には無理がある気がするしのお。どうじゃ、ヴァン」


「また俺ですか……そうですねえ。やっぱり、ただの可能性の話に過ぎないっていうのがネックですかねえ。動機の面で、まずナムト国側であるオーキさんはさっきの話と同じになりますから。そうなると」


 全員の視線がイワンに集中する。


「ちょ、ちょっと待てよ、僕が――」


「ただ、それにしてもさっき指摘した時間的に難しいって話があります。共犯がいればって話になりますけど、それだって……イワンが仮に犯人だとすると、一番共犯として疑わしいのは、えっと」


 皮肉な笑みを浮かべ、イワンとは対照的に落ち着いた様子でこれまでずっと黙っていたビンチョルが、


「確かに、そうなりますね」


「だとしたら、犯人はイワン・ビンチョル組なのかって話になると――」


「どうもしっくり来ないな。あくまでも可能性の話としてはありえるが、しかし……そもそも」


 そこでウーヘイは、全員に対して改めて『セイバー』の予告状の話をし出す。ヴァンは知っている話だが、係員の中にも知らなった人間がいるようで、驚愕の表情をしている者もいる。その面々の表情を確認しながら、ヴァンは考えをまとめていく。黙ったまま。


「そうなると、やはり『セイバー』などという奇妙な名を名乗り、予告状を送ってまで、この状況下で宝玉を盗み出すという酔狂な真似をする者が共犯、つまり複数人いるとは思いにくいし――」


 ウーヘイは言葉を切って、少しだけ視線を彷徨わせる。おそらく、言葉を捜しているのだろう。


「気を遣わないでいいですよ。ああ、確かに、自分が自他ともに認める――ああっと、実利的な人間だということは今更だ」


 スポンサーをやっているビンチョルもホージョウも、その本質は商売人のはずだ。隠れた動機とやらが見つからない限り、彼らが怪盗となって予告状を出して困難な盗みに挑戦するというのは想像しにくい。


「実際、どれくらいあの宝玉に価値があるのかいまいち分からないけど、今この場にいる、ある程度の地位も名誉も富もある人間が危険を冒してまで盗み出すのは釣り合っていないはずでしょ」


 考えをまとめ終わったのでヴァンは口を開く。


「そう考えると、基本、リスクリターンが釣り合っていないのに予告状まで出して困難な盗みに挑戦するような奴らが複数いる――つまり共犯っていうのはありえない気がするんだよね。そう考えると、はっきり言うけど――」


 ウーヘイ、そしてその後ろに控えている係員たちを見回して、言う。


「基本、単独犯だと思っているんだ、俺は。あるいは――」


 今度は、ちらりとソラたちに目をやって、


「絶対的に命令に従わざるを得ない関係性ができている上での共犯関係か。いくら酔狂な犯行だとしても、その犯人の言うことは絶対だから協力するしかないって形ができあがっているかだね」


「……なるほどなあ」


 さっき恥をかかされた恨みなのか、イワンがそこでにやにやと意味ありげに笑いながら同じようにソラの一団を見る。


「ちょっとちょっと、いい加減にしてくださいよ」


 そこでスポンサーであるホージョウがへらへらと笑いながら、目だけは冷たくヴァンを止める。


「いくらうちのソラたちの信頼関係が強いからって、それだけで疑わしい、って話にされちゃあ困りますよ。へへへ。最初の話に戻りますけど、結局どうやったって鍵を四本集めるのは難しいんじゃないですか? オーキ様やイワン様以外にはなおさら。だったらやっぱり、ねえ、その、ウーヘイさんの鍵が使われて……」


「ちょっと待て」


 自信を顔にみなぎらせて、イワンがずい、と止めるビンチョルを振り切って一歩前に出る。


「分かったぞ、犯人はソラだ」

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