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過去5

前々話のタイトルが間違ってました。過去5⇒過去4です。そしてこれが本物の過去5です。すいません。

 犯人だ、と名指しされたウーヘイは眉一つ動かさず、動揺ではなくむしろ辟易したようにため息をつき、


「そうだろうな」


 と言う。


「あれ、自白?」


「そんなわけがないだろう。だが、状況を整理すれば、一番怪しいのが自分だというのが分かっているくらいには冷静だ」


 もたれかかっていた壁から背を離し、ウーヘイはふと顔をしかめる。


「歓声だ」


「え?」


 耳をすませば、確かにわずかながら壁を震わせるようにして声が聞こえる。


「決着がついたな」


「ああ、オーキ対イワンか」


 そう言えばそれをやってたんだよなあ、と思い出す。


「どっちが勝ったんだろ」


「オーキ老だろうな。テーマが造形では……」


「この後、俺とソラって娘の試合だよね。その前に休憩時間ってある?」


「もちろんある」


「じゃあ、そこで全員集めようよ、関係者」


「何故だ?」


「とりあえず四本の鍵の確認と、それから事件のことを話しておいた方がいいんじゃない? 最悪の場合、関係者で話し合わせておいて、偽物の『黄金の瞳』で大会続行すりゃあいいし」


「……確かに、必要最低限の範囲には話を通しておかなければならないか」


 ウーヘイはまたため息をつき、手を挙げる。


「分かった。早急に出場者と関係者を集めよう」


 それから、みたびため息をついて、


「とはいえ、イワンは荒れるだろうな」


「あの、生意気そうな……ええと、クソガキっぽいやつ?」


「言葉を選んでそれか。ああ、奴は負けただろうからな……そこで試合の運営側のトラブルを伝えるとどうなるか……考えただけでも頭が痛いよ」


 まあ、分かるけど。





「なら、全部無効だ! さっきの試合も含めて!」


 完全に予想通りに、ぎゃあぎゃあとイワンが騒ぎ出す。横のビンチョルはまあまあ、とイワンを宥めながらも、ちらちらとウーヘイの反応を窺っている。スポンサーのビンチョルからすれば、確かにこの話が通った方がいいだろう。ゴネるだけゴネたいはずだ。


 ただでさえ、大勢の係員、そして関係者が全員集まっているのにイワンが騒ぐせいで狭い部屋がかなり暑い。


「さっきも言ったが、その話は後だ。まずは鍵の確認だ」


 ウーヘイがそっけなく言うと、まずはオーキが二本の鍵を出す。


「これやな。最初からあるわしのと、そこのイワンのやわ」


 やっぱりイワンは負けたのか。それで、鍵の受け渡しがあった、と。


「ヴァン」


 ウーヘイに促されて、無言で頷いて懐から鍵を取り出す。


「ソラ」


 少女はさっきから一言も喋っていない。無言で立っているだけだ。


 横に立っているハヅキ――ソラと同い年くらいの少女が代わりに頷いて鍵を取り出す。これで四本。全て、揃っている。だが。


「偽物とすり替えられている可能性も、あるよね?」


 分かっていると思うが一応、確認と他の連中にも聞かせるためにあえて声に出す。


「ああ」


 短く答えたウーヘイは四本の鍵を閉じている金庫に差し込む。あっけなく金庫は開いて、がらんどうが露わになる。


 ヴァンは金庫の前にかがんで覗き込む。確かに、何もない。金庫の底を指でなぞる。


「……綺麗なもんだね」


 呟いて立ち上がる。


「ああ、トリックや何か仕掛けがある様子はない。さっき確認した」


 ウーヘイが鍵穴を改めながら言う。


「おい、どうするんだ、この責任問題は……」


 何か喚こうとするイワンを無視して、


「ちょっといいですか?」


 ソラ、ハヅキ、そしてギンジョ―の後ろに隠れるようにしていたホージョウが一歩前に出て、遠慮がちな口調で、しかし目つきだけはぎらついたままで言う。


「へへ、ってことは、出場者の鍵は使われていない。それなのに中の宝石が奪われたってのは、ちょっと納得できないですねえ」


 いやらしい言い方だが、正論だ。そして、それはつまり。


「そうなると、使われたのはウーヘイさん、あんたのスペアキーってことになる。あんたのスペアキーがすり替えられてたってことはないんですか?」


「……そもそも、確認のために金庫を開けたのは俺のスペアキーを使ってだ」


「だとしても、ほら、例えば偽物とすり替えられて、盗まれた後、今度はすり戻されたってこともありうるでしょう?」


 あまりありえそうには思えない。だが。


「四本セットの鍵がどちらも今ある。だったら、金庫が開けられたとしたらすり取って開けてすり戻す、しかない。だったら、出場者四人から一本ずつそんなことをするよりも、ウーヘイさん、あんた一人からって方がまだ現実味がある。でしょ?」


 これもまた正論だ。

 そして、そうでないとしたら。


「もしくは、あんたが犯人とか、ね」


 ねちっこい目で上目遣いに睨みながら、声だけは卑屈なままでホージョウがウーヘイを追い詰めていく。


 冷静さを崩さないウーヘイだが、場の雰囲気はいつしかウーヘイを糾弾するものに変わっている。ただでさえ責任者としての立場があるのに、誰よりも状況的に疑わしいとなればこうもなる。


 説明責任はウーヘイにあるだろう。とはいえ、知らぬ存ぜぬでいるのも目覚めが悪い。


「あー、ちょっといい?」


 助け舟を出す。


「これしか手がないって決める前にまずはさ、どうやって金庫の中身を盗むことができたか、この場にいる全員で検討しようよ」

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