推理4
「次に妥当性で思いつくのは、ハルルだ」
「あら、あたし?」
意外なのかハルルは目をぱちくりとさせる。
「当然の話だけど、もしも彼女がセイバーなら例のプロットのことを俺たちに伝える必要がない。あれは相当なヒントだからね。それから、そもそも分かりにくかったプロットを分かり易く、と脚本家に伝えるはずがない」
そりゃそうだ、と納得しかけたところで、
「別に団長が犯人だと言っているわけではないけど」
と、マカロンがカットインしてくる。
「あたしが犯人だって難癖つけられているところだから、反論させてもらうわよ。あのさ、そもそも団長の言ったことが全部本当だって保証はないじゃない。そのプロットだって、本当に脚本家が書いたって保証はないんでしょ?」
「いや、偽物のプロットを脚本家のものだって嘘をついたら、脚本家がぶちぎれてもう仕事を――ああ、そっか」
反論の途中で気付いて、ハルルは舌打ちして、
「つーか、あたしがセイバーだったらそもそも戻ったら全部捨てて逃げ出す可能性もあるから、それは別にいいのか。ううん、じゃあ、あんたの意見への反論はできないのか、なあ?」
首を捻って最後にはヴァンに問いかける。
「何だ、弱気だな。ええと、俺が代わりに弁護してやるとだね、もしもハルルがセイバーだったら、たとえ間違った方向に誘導するために中身を嘘で固めたとしても、『脚本がセイバーの正体のヒントになる』という内容のプロットを持ってくるはずがない。セイバーはそもそも第三部の脚本を盗み出し処理するほどに脚本の内容を隠蔽したいんだ。脚本の内容に注目を集めることは絶対に避けたい」
「脚本がセイバーの正体に繋がる。それ自体が嘘だという可能性は?」
横からルイルイが口を出す。本気で疑っているというよりも、ヴァンの考えを確認するかのような言い方だ。
「そうなると、今回の脚本が盗まれた別の動機を考えなきゃいけないじゃない。正直、セイバーが自分の正体に繋がると気付いたから、以外に動機を思いつかないんだよ。劇の題名が怪盗セイバーであることや、劇中に不自然にセイバーの名が挙がっていることも合わせて考えるとね。それも含めて全部が全部、脚本家が仕組んだ悪ふざけだとすると、それこそ全ての手掛かりが仕込みで、推理が不可能になる。想定するだけ無駄だよ」
もしそうならお手上げだ、とヴァンは本当に両手を挙げる。
「それでもなお、ハルルがセイバーだって主張する人は、せめてセイバーが脚本に手を出した別の納得できる動機を考えてから言って欲しいね」
全員黙る。
「まあ、そういうわけでプロットを出して脚本とセイバーの正体との間につながりがある、と補強したハルルがセイバーである妥当性は低い。次に、そうだね、ルイルイの話にしようか」
「私? 私を犯人から外してくれるのかしら?」
冷静さを保ったままのルイルイが皮肉気に言う。
「外すというか、犯人だとするのは妥当じゃあないって話だよ。これに関しては、すごい簡単な話なんだ。誰もこのことについて指摘しないし――ルイルイ自身が自分が犯人じゃあない理由として主張しないのもおかしい。普通、気付きそうなものなんだけどね」
ヴァンがそう言うが、ルイルイ自身を含めてその場の全員が首を捻っている。
僕もそうだ。よく、意味が分からない。
「そんな難しい話じゃあないよ。想像してみてくれればいいんだ。もし自分がルイルイで、なおかつセイバーだとしたら、この事件を起こす?」
更にそう言われるが、それでもぴんとこない。もし自分がルイルイで、なおかつセイバーだったら? どういう意味だろうか?
「いいか、想像してみるんだ。自分がルイルイで、そしてセイバーだ。よく分からないけれど、劇をやっているうちにその劇が自分の正体に繋がる内容じゃあないかと疑わしくなってきた。念のために夜に忍び込んで第三部の脚本を確認してみると、なんと本当に自分がセイバーだと脚本に書いてある。ほら、どうする?」
まだ分からない。僕も、僕以外も。だって、そうなったら結局その脚本を盗み出して捨てるなり焼くなりするしかないんじゃないだろうか? そりゃあ、それをしたら大騒ぎになるだろうけれど、主催者でも団長でもない一介の役者であるルイルイには、他に脚本が世に出るのを防ぐ手段が――
「あっ」
思わず、声が出る。
そうか。そういうことか。
「盗むわけがない。いえ、盗んだことになるはずがない。そういうことですね?」
僕の答えに、ヴァンは満足そうに頷く。