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三日目 上演前

「ペテン師は静かに眠りたい4」が4/30に発売されます!

もう予約は始まっているようです。


3まではプライムノベルの文庫版だったのですが、今回は完全に新刊です。新しい話はかなり久しぶりになってしまいます。お待ちいただいていらっしゃった方には申し訳ございません。


あらすじを読んでいただければ分かるように、内容はこれまでより一層web版からは変わり、もはや完全にオリジナルとなっております。


是非是非何卒よろしくお願いいたします。

 実際には、予想外にヴァンと僕は劇団員と喋ることができた。ホテルでの朝食時にはさすがに姿が見えず、やはり今日の劇が終わるまでは会うこともできないかと思っていたところで、僕とヴァンとで町中にある、これまたブルらしい歴史を感じさせるたたずまいのカフェでお茶をしていたところ、ひょっこりと町を連れだって歩いているマカロン・ルイルイのペアを見つけたのだ。


 歴史の町の散策をお楽しみ中に声をかけるのはさすがにまずいかと思って躊躇っていると、向こうが僕とヴァンの姿を見つけて寄ってきて、結局同じテーブルでお茶をすることになった。


「いやでも、お二人って仲がよろしいですね」


 二人でいる姿をよく見るので、僕がそう言うと、


「いや、別にそういうわけじゃあないんだよね、これが」


「そうね。劇団の中で特別仲がいいということでもないわ」


 と、二人揃ってドライな返し。


「ああ、勘違いしないでよ。別に仲悪いわけでもないから。ただほら、今回は劇団員四人だけで、それで団長とムニルは姉妹だからセットじゃん。そうすると、自然と二人で動くことが増えちゃって。ルイルイは一緒にいてよく喋る奴でもないんだけどさ」


 ははは、とマカロンはルイルイに遠慮する素振りを見せずに言う。

 ルイルイは黙ってじろりと睨んでいる。やっぱり、いいコンビに見える。


「それで、二人はどうしてここに?」


 リハーサルで必死になっているんじゃあないのか?


「午前中のリハーサルでようやく形になったから。一度リセットして、午後からもう一度やって、それで本番の流れね。休憩をもらったの」


 カップに口をつけてルイルイがそう教えてくれるが、途中で苦笑して、


「もっともスムーズにいったわけじゃあなくて、午前も大変だったけど」


 と付け加える。


「ああー、あれね、大変よねー」


「何かあったんですか?」


「うちのお姫様がね、逃げ出してさ」


 笑いながらマカロンが言うそのお姫様とやらが、ムニルのことだとはすぐに見当がつく。


「昨日はマカロンさんが抜け出してましたよね」


「そう。で、お姫様にとっ捕まったんだけど、あのお姫様もあの人はあの人でよく抜け出すからね。あの人に狙われると、まあ元冒険者のあたしでも逃げ切れるのは二回に一回ね」


 見かけによらずやるのよ、とマカロンはけらけらと笑う。


「風の魔術だな。確かに大したものだった。あれは、なかなか使えるもんじゃない」


 ずっと黙っていたヴァンが魔術の専門家としての分析を口にする。


「でしょ。魔術師として、冒険者で食っていけるくらいのものよね。しかも、双子だけあって、団長の方も風の魔術得意なのよ、実は」


「へー、血統で魔術の才能が決まるかどうかについて、いろんな研究者が試行錯誤しても、まだ明確な答えが出てないはずですけど、そんなこともあるんですね」


 これはこれで記事にできそうなネタだ。思わずメモしてしまう。


「ふうん、あの劇の中では元医者ってことだったけど?」


 何故かヴァンは身を乗り出して質問している。


「ええ、そうよ。ムニルは医者をやっていたこともある。かなり意外だけど」


 ルイルイの答えに、ヴァンは目を光らせて何度も頷く。


「なるほどなるほど。多才なんだな、ああ見えて」


「どうかなあ。医術、風の魔術、それから演技と美貌。そう考えると確かに多才とは言えそうな気がするけどねえ……うーん」


 苦笑いして首を傾げるマカロン。


「ええ。生活力が著しく欠けている。多才というより、能力が歪といった方が正しいわ。ある部分が欠けているから、ある部分が過剰なだけ」


 ルイルイも厳しい批評をする。


「で、あの双子の姉妹はそろってお留守番か? 姉が妹に説教を食らって」


「まあ、そういうことね。いや、団長はマジで怖いけど、姉に対しては他の団員の数倍厳しいからね。まあ、そうじゃないと他の団員にしめしがつかないっていうのもあるんだろうけどさ」


 それは、分かる気がする。身内に甘いと思われたらたまらないだろう。


「ハルルは、劇団員の私が言うのも妙だけど、とても頑張っている。役者をやりながら団長としての仕事を全て引き受けて、他人にも自分にも厳しい。恐ろしい団長だけど、ついていこうと思わせてくれる人よ」


 ムニルと違って、ハルルについてはルイルイは絶賛に近い表現をしている。まあ確かに、ムニルよりはハルルにシンパシーを抱きそうではある。


「そうそう。この堅物のルイルイですら稽古やリハーサルに音を上げてこっそり抜け出したりしたことあるんだけどさ」


 じろりとまたルイルイに睨まれながらもマカロンは気にする様子もなく続ける。


「団長だけは一回も稽古やリハーサルを休んだり抜け出したりってないもんね。やっぱり、誰よりも自分に厳しい人だから、あの人がいくら厳しいこと言ってもあたしたちも逆らえないっていうか、だから困るんだけど」


「なるほどねえ……あっ、そうだ」


 何やら考えながらお茶を飲んでいたヴァンは丸まっていた背筋を伸ばす。


「忘れてた。訊きたいことがあったんだ。絵の話」


「絵って、あれよね、小道具の絵のことよね?」


「あれが、何か?」


 マカロンとルイルイは顔を見合わせた後、そう返す。


「小道具は必要最小限にした。そういう演出なんだろうし、こうやって場所を移動しながらの上演だからものを削れるだけ削るのも分かる。だけどさ、その割にはあの絵だけ浮いてる気がするんだよ」


「どこがですか?」


 思わず僕は口を出す。


「あの絵、一枚だけで今美術館にいるんだ、とか、場所を移動しているんだ、とか分かってすごいいいじゃないですか?」


「そこだよ、ココア。場所の移動を表すために、あの絵は内容が微妙に変わっただろ? 俺が不思議に思うのはそれだ。絵を何枚も用意しておかなければならないからかさばるだろうし、暗転の最中に絵を取り替えないと――結局、演者以外にその作業をする人員が必要なんじゃないか? とにかく、そういうもろもろを考えると絵画を用意するよりも、セリフだとかでそれらを表しそうなもんじゃないか。それが……」


「ああ」


 なんてことのないように、マカロンが答える。


「それは違うって。あの絵って一枚だけだから。あの絵、勝手に内容が変わるのよ。不思議よねえ」


「……は?」


 これは予想外だったようで、ヴァンは眉をひそめて一瞬だけ固まり、更に二人は、


「……あの絵は、確か、あれよね、ルイルイ?」


「ええ。脚本家から、第一部の脚本と一緒に送られたはず」


 その返事に、ヴァンは黙って考え込みだす。仕方ないので、僕が場をつなぐために、


「へえー、つまり脚本家の方があれを使って送ってきたってことですよね。凄いなあ、あれって、どういう仕組みなんですか? 絵がどんどん変わっていくなんて」


「さあ? 多分、マジックアイテムだろうとは思うけど、どうなのかしら?」


「あたしの元冒険者としての勘だけど、水の魔術を応用してるんだと思うんだよね。もしくは、単純にダンジョンで誰かが手に入れたものなのかも。ダンジョンでいまいち役に立たない変なアイテムとか妙な美術品が手に入るとかは冒険者あるあるだし」


 盛り上がるルイルイとマカロンを眺めつつ、ちらりとヴァンを観察すると、彼はこの話が耳に入っていないのか、黙って何事か考えている。


 結局、その後はヴァンはほとんど何も喋らず、ずっと考え込んだままだった。

あと表紙絵がリョナい。

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