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二日目 3

話のタイトルがおかしいことに気が付きました。二日目上映前はおかしい。二日目にはそもそも上映しない。変更します。申し訳ありません。

 ホテルのレストランでの夕食。また、主催者のテーブルで一緒にとらせてもらうことになる。


「ただでこんな食事ができるのはありがたいわね」


 リハーサルがかなり立て込んでいるのか、多少げっそりとした表情でハルルがそう言って、スープに入った肉団子を口に入れる。


「おっ、美食の都から歴史の都に移ったから、レベルが落ちるかと思いきや、なかなかうまい」


「そうねえ、これ、おいしいなあ。あっさりしていてー」


 ムニルも同調してスープをすする。


「冒険者が多かった時に、歩きながら食べられるようにと肉団子を出す店が多くて、この町の伝統料理みたいな位置付けみたいね。それをこのホテルレストランが上品にスープ料理としてアレンジして――」


 長々とメアリが語りだすが、ヴァンは明らかに聞いていない。肉団子をもぐもぐとしながら、


「ふーん、そりゃすごいや。そう言えば、二人はもうリハーサルしてきたんでしょ?」


「そりゃそうよ。明日に向けてね」


 スープを飲み干したハルルが答える。


「じゃあ、台本も読んでるわけだ。あれって、中の殺人事件は解決したの? しないか、二部で解決したらおかしいもんね、三部作なのに」


「上演前に言うわけないでしょ」


「まあ、そうなんだけどさ……俺が気になるのは、怪盗セイバーのことなんだよ。劇の中の殺人事件と、セイバーの正体の話って、今のところリンクしてないでしょ? 一部の時点では、セイバーの正体の話が浮いてる気がするんだよね。あれって第二部でどうにかなるの?」


「だから言えるわけがないって――」


 呆れた顔で言おうとするハルルをヴァンは手で遮り、


「いや、もちろん、それは分かってるんだよ。ははは。ただ、俺が言いたいのはさ……月華劇団の脚本家は一流で、脚本も一流なんでしょ、これまでは? ところが、今回の脚本はいつもとは違う。でしょ? で、素人目にだけど……あの殺人事件がメインっぽいけど、これでもしセイバーの話とかさ、あるいは旅の話、要するに現実にリンクさせている部分が、殺人事件とは関わりなくて浮いてたら、正直脚本として失敗作だと思うんだよね。目新しさだけ狙った、大失敗作。で、そんなものを上演したとなったら、月華劇団の面目丸つぶれだ」


 いつしか、僕たちの座っているテーブルだけ、しん、と静まり返っている。他のテーブルの面々はこのテーブルの異常さに気づいておらず、和やかに歓談しているだけに、異世界感すらある。


「……何が言いたいの?」


「劇団のことを考えなきゃいけない立場の団長としては、第二部の脚本によっては、危機感を覚えて第三部の脚本を確認したくて仕方ないくらいに不安になりそうなもんだけどなあ、と思っただけだよ。第二部も第一部みたいに先が読めないまま終わってたら、さ」


「それは――」


「それはダメだよー」


 だが、口ごもるハルルの代わりに、ムニルが雰囲気を崩すようなのんびりとした声で入ってくる。


「脚本家の先生はねー、どこにでも目と耳があるからねー」


「え? どういう意味ですか?」


 僕の質問に、ゆっくりと肉団子を口に運んでから、ムニルは二度三度噛んでからそれをごくりと飲み込み、


「どうしてか分からないけどねー、脚本家の人はあたしたちのこと、よく知ってるんだー。こっちがびっくりするくらいねー。だから、もしも約束を破って第三部の脚本なんか見ちゃったら、それがばれるかもしれないんだよー。それで、もしもばれちゃったりしたらー」


「ああ、なるほど。脚本をもう書いてもらえないかもしれない、と」


 納得した僕と違って、ヴァンは何やら驚いた顔をして、だが何も言葉を発さずに黙ってムニルの顔を見返している。


「ん? なあにー?」


「いや……」


 口ごもったヴァンはすぐに表情を消して、


「そうそう、ハルル。ちょっと訊きたいんだけど、これは純粋に、これまでやってきた劇の傾向からの君の推測を教えて欲しいんだけど、あの劇ってちゃんと終わると思う?」


 と、ハルルに顔を向ける。


「は? どういう意味?」


 眉をひそめるハルル。僕も同様だ。意味がよく分からない。


「いや、俺はこれまでの月華劇団の劇を知らないからさ。普通に考えたら、あんな異様な事件だから、犯人が分かって謎が解かれておしまいになると思うんだけど、時々あるじゃん、アート系のさ、うやむやで終わって結末は観客の皆さんそれぞれの心の中にありますみたいなやつ。ああいう可能性はある?」


「あー、ないと思うけどね。これまでそんな脚本を出してきたことないし。あたしもそもそもそういう作品嫌いだしね」


「ええ。月華劇団の演目は、これまで全部ちゃんとすかっとする終わり方のエンターテイメントでしたよ」


 実際に見たのは一度とはいえ、記者の習性で下調べはきっちりとしているので僕もそう言い添える。


「ふうん、そうなると、続きが非常に気になるな。明日が待ち遠しい。今夜はさっさと寝よう」


「うらやましいわねえ。ここから、あたしたちは必死でリハーサルよ。眠れるのかしらねえ」


 恨めしそうな目でぎりぎりと歯軋りをするハルルに、ヴァンは肩をすくめて、


「その割には、昼間にリハーサルを抜け出してた奴もいたみたいだけど?」


 その突っ込みに、言われたハルルは唸り、ムニルは誤魔化すようにそっぽを向く。


「まあ、今後はそういうことがないようにしっかり監督する、つもりだけど……まあ、マカロンと姉貴はいつの間にか消えるのが得意だから、まったく。さて、それじゃあ、そろそろ失礼。リハーサルがあるから」


 ハルルは歯軋りをした顔のまま、ムニルの首根っこを掴むと、そのままずるずると引き摺って夕食の場を出ていく。客のほとんどはそれを呆気にとられた顔をして見送っている。僕もだ。いくらリハーサルしなければいけないからといって、同じテーブルに主催者でもあるメアリとエジソンがいるのに、こんな唐突に。ひょっとして、ヴァンに痛いところを突かれたからだろうか?


「さあて、メアリ、エジソンさん」


 だが、唯一落ち着いた顔のヴァンはずっと黙っていたメアリとエジソンに向き直り、


「俺に、何か言うことはない?」


「ふむ」


 エジソンは一瞬躊躇するようにちらりとメアリを見る。すると、


「ない……と、言いたいところだけど」


 周囲のテーブルが落ち着くのを見回して確認してからメアリが言う。


「一つだけ言っておくわ。今回、ヴァンたちを呼んだのは、そりゃあ、お察しの通り、裏がある」


 あっさりとそんな発言が出てきて僕は仰天するのだが、横のヴァンは退屈そうに首を捻り、


「そりゃそうだろ。どれだけもっともらしい理屈を並べても、どう考えてもこれからの新婚夫婦にとって最大級の過去の汚点レベルの例の事件の関係者を、俺たちを呼ぶわけがない。普通だったら」


 つまり、普通ではないことが起きたのだと言っている。


「ただ、あたしたちは劇については何も知らない。あそこまで変わった劇になるとは思っていなかったし、色々と気になることもあるけど、基本的には関係ない、はず。それから、現時点でどうして呼んだのかを明かす気もないわ」


「メアリ、それは……」


 窘めようとするエジソンをヴァンは目で止めて、


「不誠実な気もするが、つまりこういうことか? このまま何も起こらなければ、俺たちはただの招待客として楽しんで帰ればいいし、何かが起こっても俺たちの不利益はない。だから、大事な新婚旅行ってこともあってわざわざ大事にするのは避けたい、と?」


「そういうこと。だから、まだ訊かないでくれる?」


「まあ、仕方ないか。というか、訊いたところでどうせ教えてくれ……あっ!」


 とヴァンは頭を抱える。


「どうしたんですか?」


「しまった……ムニルとハルルに訊くの、忘れてたよ」


「え?」


「絵だよ。あの劇に使われてる、絵のことだ」


 あの絵に何か秘密が隠されている、ということか?


「ヴァン様が何を気にされているか分かりませんが、明日また劇団の方に訊けばよろしいのでは?」


 とエジソンが多少困惑しながら言う。


「ああ、まあ、そうだけど、ううーん、あれだけリハーサルで忙しいって言ってたし、明日、会う機会あるかなあ」


 苦い顔でヴァンは腕を組み、その後しばらく唸り続ける。

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