一日目 上演後
今回短いです。すいません。
劇が終わってもしばらく会場は落ち着かず、客同士が議論をしている。当然、僕も客席でヴァンと言葉を交わす。
「どう、思います?」
「第二部、第三部があるんだろうな、とは思うよ。これ」
ぽん、と渡してくるのは僕ももらっている今回の旅の招待状だ。
「これに書いてある、一日おきに上演される、三回の劇。てっきり、ばらばらにやるものだと思っていたが、なるほどなあ、これは、つまりおそらく三部作ってことだ」
「はあー……ま、まあ、三部作なのはいいとして、です。劇の内容についてはどう思います?」
「え? 短いよな」
「いや、確かに超短いですけど……」
そこじゃないだろう。
「冗談だよ。確かに変わった内容だ。現実なのか、何なのか……前衛芸術みたいだな。月華劇団って、こんなのが多いのか?」
「いえ、普段のものは、もうちょっと、何というか、普通の劇でしたよ?」
「はあーん……じゃあ、多分」
と、ヴァンはきょろきょろと周囲を見回すと、何かを見つけたらしく立ち上がり、
「あいつらの仕業だろうな」
ヴァンの視線を追うと、そこには招待客の質問攻めにされながらも、どこか満足気に笑顔で応えるメアリと、その横で苦笑いをしているエジソンの姿がある。確かに、今回の主催者なわけだから、関係はあるかもしれない。
「忙しそうだな、やめとくか」
とヴァンは座り直してから、
「それにしても、殺人事件の劇か。いや、事件なのか? 雰囲気としては、そういう感じでもなかったな。そもそも死ぬために集まったらしいし」
「ですねえ。でも、名探偵なんだからマカロンを殺した犯人、今の時点で分かりませんか? もしくは途中まででも推理するとか」
「できるか。情報が足りなすぎる。暗転しての場面転換の間にどれだけ時間がかかったのか、誰がどういう行動をしていたのかも分からないし、第一、細かい状態がまるで分からない。セットも小道具も衣装すら省略されてるんだ……状況説明のための小道具は例の絵だけ。なあ、こんな感じなのか、毎回?」
「いや、確かに月華は省略して観客に想像させるタイプの劇が多いのは多いですけど、ここまでのものはちょっと聞いたことがないですね。ああ、でも」
ふと思いつく。
「これ、今回の旅に合わせてかもしれませんね。旅に合わせて上演するなら、連れてくる人数と荷物を最小限にしたいでしょうから」
「ああ、それもあるだろうけど……俺はそれだけじゃあないと思うな」
ヴァンはにやりと笑い、
「ココア、賭けをするか?」
「どんな?」
「月華劇団に、メアリが『これまでにない劇を上演してくれ』って頼んだかどうか。俺は、頼んだ方に明日の土産代を賭ける」
「なるほど。じゃあ、僕も頼んだ方に賭けます」
結局賭けにならない。だってメアリは言いそうだし。僕とヴァンは仕方なく、確認するのも面倒になったので今日は新婚の二人には近づかずにもう眠ることにする。そのままホテルの自室に戻ろうと劇場を出たところで、
「そういえば――」
ぽつりとヴァンが呟く。
「――どこまでが本当なんだろうな」
「えっ?」
「あの四人、本当に死にたい理由があるんだろうか」
答えられない僕に、
「おやすみ」
と片手をあげてヴァンは去っていく。
僕はしばらく、劇場の入り口で固まっている。あの、月華劇団のトップ四人に死にたい理由? 人の心情など外からは分からないものだとしても、それでも。多くのファンを獲得し、経済的にも恵まれているはずの、華やかさの象徴のような、あの四人が、死にたい?
結論は出ない。劇場から出ていく他の招待客たちの流れの中で、一人、立ち止まったまま考え続ける。