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推理(4)

「何があったのかって、俺は知らないよ。その場にいたわけじゃないから」


 肩をすくめるヴァン。


「ただ、仮定はできる。大体、クロードをあの夜に自殺に見せかけて殺したってことは、あの夜にメアリも殺すつもりだったんだ。じゃないとそもそも計画の時点でおかしいからね」


「まあ、それはそうですね」


 そこは納得できる。


「ということは、ティアはメアリを殺して、クロードも殺す計画だったが、その計画が狂った。まあ、最初から計画は狂いに狂ってるんだけど。ところが、そう考えると妙なことになる。というのも、そもそもあの夜、ティアがメアリを殺すのはかなり難しかったはずなんだ」


「え?」


「俺が煽ったせいで互いに警戒し合っているから、ただでさえ難しいけど、特にメアリとティアはさ、ほら、覚えてない?」


「あっ……」


 思い出した。

 メアリは、モネ家の関係者相手では鍵をかけてドアも開けないと宣言していた。当たり前だが、彼女が母親の不貞相手だと疑っていたクロード相手にも開けるわけがない。


「じゃあ、無理じゃないですか」


 メアリを殺す方法なんてない。


「そう、ティア、クロードではね。だけど、もし、もう一人協力者がいるとしたら?」


「え……?」


 もう一人? つまり、犯人は三人組だった?


「途中まで、ティアはメアリをあの夜に殺すつもりだったんだ。そして、その罪も被って自殺してもらう役がクロードだ。だから遺書を用意して、クロードを眠らせた。あるいは、服毒自殺に見せかけて毒殺したのかもしれない。遅効性の毒かな。まあ、ともかく、そこまでやったところで予想外のことが起きた。メアリが殺されなかったんだ。どの時点かははっきりとは分からないけど、多分結構夜明けに近い時間だろうね。クロードの自殺が見つかるまでそんなに時間がない状況で、それが分かった、もしくは疑い出したティアは、パニックになりながら計画を変更した。矛盾するから遺書を塗りつぶし、腹を刺して自殺を疑わしいものに変えた」


「じゃあ、自殺じゃあないかもしれないって思わせるために、クロードの腹を刺したんですか? 何のために?」


「敢えて腹を刺したのは他の理由もあるが、いったんそれは置いといて――クロードの自殺は偽物で、真の犯人がいるって余地を残すためでしょ。メアリを殺すことを諦めてなかったってことだよ。クロードがパパゲア殺しの犯人で自殺をして、その後に別の犯人がメアリを殺すっていうのはさすがに無理があると思ったんじゃない? もし浮上までにメアリを殺せた場合、クロードを自殺に見せかけて殺した真の犯人がメアリも殺したってことにしようと咄嗟に考えたんだよ」


「だったら、自殺じゃなくて思いっきり他殺だって分かるようにすれば――」


「俺もそう思うよ。特に一番意味がないと思うのは密室にしたことだ」


そうだ、密室だった。あれは、一体――


「あれはとてつもなく単純なトリックだ。要するに、鍵を持っていたティアがクロードに駆け寄った時にその鍵をポケットの中にこっそり入れたんだよ。女優だけあってなかなか演技はうまかったけど、それだけだ」


そんな、単純な。


「ともかく、さっき言ったように、中途半端なんだよね、メアリを殺すのをすっぱり諦めてクロードを非の打ち所がない自殺に見せかけて殺して、竜玉も置いておく。もしくは、いっそのことクロードが殺されたように見せる。普通、どっちかでしょ。ただ、クロードを他殺だと分かり易くするのに抵抗があるのは分かる。だって実際に殺したのは自分なんだからね。メアリを殺す殺さない以前に自分が捕まったら、とか思ったんじゃない?」


 結局のところ、とヴァンは総括する。


「パニックになったこともあって、ティアはクロードの死を自殺のような他殺のような、とにかく後からどうなってもいいような、中途半端なものにするよう尽力したってことだよ。ああ、あと、オカルトも入ってたね。他殺か自殺かオカルトだ。はは、血文字のカルコサや、パパゲアの死体の紐の切断。よくもまあ、くだらないことを思いつくもんだよ。普通ならカルコサがやったなんて思うわけもないけど、この極限状態だからひょっとしたら効果があるかもとか思ったのかな」


「ま、まさかねえ。そうだとしたら浅はかですねえ」


 本当にカルコサに怯えていた僕は何も言えずはは、と愛想笑いしてみる。


 そしてヴァンは視線を犯人に向ける。


「ともかく、あの奇妙な状況をつくりだした理由は、一言で言うなら、後から自殺じゃなくて実は他殺だったとなっても、あるいはメアリを結局殺すことができずにそのまま自殺のままでも、どちらでも何とかなる状況にするためってこと。実際にはどっちにしてもおかしな状況になったと思うけど。さて、真の犯人役――つまり、パパゲアを殺し、クロードを自殺に見せかけて殺し、メアリも殺したけれど結局自殺する都合のいい犯人役としてティアに選ばれたのが、お前だ。そして、お前はティアやクロードほど頭は悪くない。だから事前にそれを察知し――逆にティアを殺した」


 複雑だ。複雑すぎる。絡み合ってよく分からない。

 ええと、つまりパパゲアを殺したのがクロード。そのクロードを騙して殺したのがティア。ところがクロードに全てをなすりつけるつもりがメアリが殺せなかったので、後でメアリを殺して、今度こそ全てをなすりつけるためティアが選んだのがこの犯人だった。だが、返り討ちにあった。こういうことか。

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