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推理(3)

 さて、とヴァンは続ける。


「なかなか話はうまく運んだ。多分、クロードの予想以上に。パパゲアの死体のポーズやカルコサの伝説、そして死体移動の謎がクローズアップされて、そもそも部屋で殺されたのだとしたら一番怪しいのはクロードだ、という点は比較的目立たなかった。ところが、だ。クロードにとっては、これまでも地獄だがここからも地獄だ」


 どうして? せっかく難所を切り抜けたのに。

 僕の疑問は顔に出ていたらしく、ヴァンは僕の顔を見て苦笑してから、


「クロードの立場になってくれ。あくまでも、クロードの目線からすると、元々の計画はこんな感じだ。館を衝撃が襲い、パパゲアの死体が見つかる。その後は――多分、装置のすぐ傍で外れてた竜玉が見つかり、どうやら偶然に装置から竜玉が外れて館が沈み、その衝撃でパパゲアは頭を強打したのだという話になる。事故死だとな。そうして、館は浮上する。パパゲア側は、館自体の不具合や竜玉のことを明らかにしたくない、ということはなるべく穏便に済ませようとするだろうから、誰も騒がない……こんな感じの計画だ。俺やアオが参加していた時点で、聖遺物関係で騒ぐからその計画はうまくいきそうにないんだけどさ。クロードはそんなことは知らないだろうから仕方ない」


 笑みを消してヴァンは一呼吸置く。


「……とにかく、その計画は終わった。パパゲアは明らかに他殺。館は本当に不具合があり、破損浸水して竜玉を手軽に装置にはめ込むことができない。クロード自身も含めた全員の精神状態は悪化している」


なるほど。確かに問題は山積みだ。ちょっと同情してしまうくらいに。


「ところが、この状況に、そこまで困っていない人間がいた。他でもない、クロードの共犯者、というより黒幕であるティアだ。その理由は、分かるよね?」


「ティアは、最初からクロードに全ての罪を被って死んでもらうつもりだったからですね」


「彼女の計画はクロードの計画とは全く違ったってことだね。さて、ということで口先で騙すか何かして、とにかく竜玉はティアが持っていたんだと思う。そして後はクロードを殺す。自殺に見せかけてね。彼女自身が偽装したのか、それともクロードを騙しておいたのか、既に遺書も用意してあった」


 それが、あの遺書か。


「こうしてティアは薬で眠らせたクロードを殺害、遺書も置いて自殺に見せかけた」


「いや、ちょっと待ってください。その、クロードの自殺はいくつも妙な点があります」


 あっさりと終わりそうだったので慌てて口を挟む。


「まず、どうして自殺に見せかけるつもりなのに腹を刺すなんて真似をしたのはどうしてですか? それに、あの夜にゴーレムの顔に布が被せられていたのは一体……?」


「ちょっと待ってよ」


 喋りつかれたのか、ヴァンは懐から瓶を取り出すとその中に入っている水を喉を鳴らして飲む。


「……そう、その不可解な点。どうしてティアはそんなことをしたのか……それは、あんたが一番知っているんじゃないか?」


 犯人へのヴァンの問いかけ。だが、やはりまだ犯人は反応しない。ただじっと、僕たちを観察している。諦めているようにも、怒りを覚えているようにも見えない。ただただ、冷静に観察をしている。その様に、少し背筋が冷たくなる。


「話してくれそうにないから、俺がどう考えたかを言っていこうかな。まずは不可解な点について、ココアがまだ言っていない、不可解な点があの自殺、に見せかけた殺人にはあった」


え? なんだろう?


「本当の自殺なら問題はないけどね。あの遺書……その場で用意することは難しいから、さっきも言ったように事前に用意したものだったはずだ。ところが、その割にはあの遺書には何かを書き損じて、塗りつぶしているような箇所が何か所もあった」


 読めない部分があったのは覚えている。てっきり、書いた時にクロードが動揺していたためだと思っていた、が。


「あれが本物でなくて事前に用意された偽物だとすると、確かに、妙ですね」


「でしょ。まあ、リアリティを出すためにあえて、という考え方もできるけど、俺はもっとシンプルに考えた。つまり、あの部分にはまずいことが書かれていたから、隠すために塗りつぶした」


「……え? まずいこと? だって、事前に準備してたものなんでしょ」


 つまり、内容は把握していたはずだ。


「うん。ということは、元々の計画ではその文面は問題なかった。ところが、計画通りにいかず、その文面がまずくなったということだ」


「元々の計画との違い……やっぱり、館の浸水や破損ですか?」


「それももちろん計画と違うだろうけど……遺書に書きそうにないでしょ」


 それもそうか。


「ココア、ティアの計画だ。ティアが一体、何を狙っていたかを考えてくれ」


「パパゲアを殺して、罪をクロードに着せる、じゃないんですか?」


「それ以外に何か、しそうなことがあったでしょ。ココアもさっき自分で言ってたはずだよ」


「え? 言っていた……?」


 これまでの自分の発言を思い返す。そして。


「……まさか」


 そうだ。ヴァンと一緒に話しているうちに、その話が出た。パパゲアとクロード以外に、狙われる可能性のある人間。


「メアリ、ですか?」


 ティアにとっての、義理の娘。


「そういうことだね。ティアはそもそも、メアリの殺害も計画していたとしてもおかしくはない。あの遺書には、メアリの殺害についても書かれていたと考えるべきだ……現実には、メアリは生きているにも関わらずね」


「ちょっと待ってください。ええと、それなら、こういうことですか? クロードを自殺に見せかけて殺す時には、メアリも死んでいたはずってことですか?」


 頭の中で整理する。つまり、クロードの計画とティアの計画がある。これまでの話は、クロードの計画。そして、そこからそのクロードを利用して捨て駒にするティアの計画が始まる。だが、そのティアの計画では、クロードが死ぬ時にはメアリも死んでおり、その罪もクロード被るようになっていた。ところが、実際には、メアリが死んでいなかった……?


「どうして、そんなことに?」


「そうそう。不思議だ。どうしてそんなことになったのか……だけど、そう考えればあの自殺のはずなのに腹を刺していた状況も説明ができる」


「え?」


「つまりさ、遺書もそうだけど、クロードが全てをやって自殺したように見せかけるように準備はしていたはずなんだよ、ティアは。ところが、その計画が狂った。遺書を即座に書き直さなきゃいけなかったし、自殺の方法も――」


 言い淀んでから、ヴァンは自らの頭を叩き、


「失礼な言い方をすると、クロードを操ってて黒幕だと思いあがっていたかもしれないけど、ティアも正直、迂闊だし考えが足りないんだよ。自分が切れ者だと思い込んでいるアホの不倫カップルだったってことだよ」


「どういう意味ですか?」


「ティアはどっちつかずの手を使ったってこと。自殺なのに腹を刺したのとか、不自然に塗りつぶされた遺書、竜玉に密室――あのダイイングメッセージもそうだな。カルコサ、か。くだらない。全ての罪を被せて自殺、というのが無理になった時点で、自殺じゃなくて他殺にでもすればよかったんだ。でもそれもできないから、中途半端に自殺でも他殺でもおかしな状況になってしまった。ま、あまりに突然のことで、アドリブなんだからパニックになっても仕方ないところはあるだろうけど」


「ちょっと待ってください」


 納得したように言うヴァンに、僕は慌てて口を出す。

 全くついて行けない。


「結局のところ、あの夜――クロードが自殺した夜、一体何があったんですか?」


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