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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 胎動編
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呼び出し

 特注の銀樹製のパイプをくゆらせて、ゲラルトは背もたれに体重を預ける。


「だから、もう探偵も引退かな、という気がするよ」


「半分政治家ですからね。じゃあ、いよいよお呼びがかかったんですか?」


 俺の問いかけに、ゲラルトはゆるゆると首を振る。


「そういうわけじゃあない。むしろ、話自体は結構前からあったんだ。マーリンが、もう一人参謀が欲しいとね。彼に言わせれば、周囲の有力貴族は馬鹿ばかりだそうだ。実際、国王の知恵袋を一人でやっていくのもつらいんだろう」


「前から話があったなら、どうして今のタイミングで?」


「君だよ、君」


 俺?


「いくつか、他国絡みの事件も解決してさ。もう、大丈夫だと思うよ。君が役職者として他の探偵を管理して、この国の探偵団を君の理想に、君の論文のように変えていくとしても、もう文句は出ない。いや、出せないほどの実績を積み重ねたというべきか」


 そう言われると、結構嬉しいな。


「じゃあ、いよいよ実際に自分が前面に出ての探偵活動じゃなくて、副団長補佐として役職者なりの職務を果たせるってわけですね」


「え?」


 ぽかん、とゲラルトが口を開けて、パイプが落ちそうになって慌てて咥えなおす。


「副団長補佐じゃないよ。だって、団長が抜けるわけだから」


 ああ、そうか。ゲラルトは完全に探偵ではなくなるわけだ。ならば。


「俺が副団長ですか」


 順当に行けば、そうなる。

 この若さで国の探偵団のナンバー2。大出世だ。


「いやいや」


 だがゲラルトは否定する。


「副団長には、適当な役職をプレゼントして抜けてもらうよ。なあに、彼が満足するポストを外に用意するくらいはできる。革命家は、やはり組織のトップに立ってこそ、組織を革命できるものだろう?」


 マジかよ。俺が、団長?


「ああ、ただ、それより先に、言い方は悪いけど出向して実験して欲しいんだ。実際に君の捜査論を大規模に現場に導入したらどうなるかを」


「出向って、どこにですか? どこか、そんな俺みたいな外部者に音頭をとらせて組織を変えさせようなんて変わり者います?」


 常識的に考えて、そんなことを考える人間も、そしてそれが行える組織もあるとは思えない。


「いや、これも実は話自体は結構前からあったんだ。トカレフが、君の捜査、というか例の論文に非常に興味を持っていて、打診は結構あったんだよ」


 トカレフ。ペース国の探偵団長か。噂は色々と聞いているが。


「実際、共通の基準、方法を設けるってあの論文のやり方はうちよりもペース国の方が効果が高いというか、あっているはずではある。向こうは完全な人海戦術での捜査だからね。そこに、きっちりとして効果的なルールが導入されれば、それは凄まじい効果があるはずだ。それはトカレフも理解している。だから、ヴァンをよこせってずっとうるさかったんだよ」


「どんな人なんですか、トカレフ団長って。色々と噂は聞きますけど」


「若いけど切れ者だよ。けど、切れ者と言っても、珍しいタイプの頭が回る女だね。人を使うのがうまい、と言えばいいかな」


「ああ」


 どちらかと言えば、俺の元の世界で頭が切れると言えば、そっちのタイプが多かった。けど、この世界では確かに珍しい。何だかんだ言って、結局最後には個々のポテンシャルが重視される風潮がある。俺が実績を積むまで、役職者として動けなかったことがそのままそれを表している。


「だから、そうだね、一度君はペース国で組織改革をしてもらって、そっちの目処がついて、特に大きな問題がないようだったら戻ってきてもらって、その時にこっちで団長をしてもらおうかな」


「それ、どれくらいペースに行かなきゃいけないんですかね」


 あんまり、海外に長くいたくないんだけど。キリオ怒りそうだし。


「目処がついたらだよ。トカレフはとにかくせっかちな女だから、君が来れば常識外れに早く改革するはずだ。そして、それが可能な組織体制を作り上げている。目処がつくまで、半年くらいじゃないかな」


「半年!?」


 国の機関の一大変革としては、いくらなんでも短すぎる。いや、それができるのがトカレフなのか。


「いやでも、それよりもこっちが先かな」


 ぽん、と机の上にゲラルトが一枚の書類を投げ出す。


「これですか」


 それは、うちの探偵団が月ごとにまとめている、確定ではない情報を収集したもの、いわば集めた噂話の資料だ。

 そしてここ最近、その資料には毎月のように同じ噂話が挙がっている。


「ヴィクティーの幽霊の目撃談、ですか」


「妙な話だよ。そもそも、国も教会も、ヴィクティーが死んだことを結局発表していないというのにね。どうして幽霊の目撃談が出るのか」


「いやいや」


 思わず苦笑する。


「あの事件以来、体調を崩したってことで、ずっとヴィクティー姫は公の場所に出ていないんですよ。そりゃあ、誰だって何かあったんじゃないかと思います」


「確かにね」


 ぽん、とゲラルトがパイプの灰を落とす。


「教会も王城も、どうするつもりなんですか? このまま永遠に誤魔化すわけにもいかないでしょう。あの事件からもう1年近く経ちますよ」


 繋がりを持っているゲラルトなら、教会と王城内部の動向もある程度分かっているはずだ。


「教会の方はあれからずうっと混乱しっぱなしだよ。上層部で唯一決まったのは、ミンツ大司教に責任を取らせるってことだけさ。後はずっと何も決まらない会議を続けている」


「王城は?」


「アイス王妃が何を考えているのか、我々には分からない。あの人は、恐ろしく頭が切れて、そして統治者として限りなく冷酷になれる人だ。どうするつもりかは外に漏らさないけれど、ただ何かプランはあるんだろうね」


「あの人が傑物だっていうのには賛成ですけど、それでもここまでヴィクティー姫の件を放置しているのは悪手でしょう。どんなプランがあるにせよ、です」


 死を発表するにしろ隠し通すにしろ、世間に妙な噂が流れるまでに早めにアクションを起こしておくにこしたことはなかったはずだ。


「君の言うことももっともだ」


 煙を吐き出し、


「しかし、ヴィクティー姫の幽霊の噂話が広がるのも面白いね。そもそも、一握りの人間以外は、ヴィクティー姫の顔すら知らないはずなのにさ」


「確かに。どうやってその幽霊とやらをヴィクティー姫かどうか判断するんですかね」


 俺にだって判断できない。俺は、聖女の生まれ変わりの姫の顔を結局知らないままなのだから。


「そこからして、他愛の無い噂話だってことだけど。真っ黒いフードを目深に被った女性の幽霊らしいよ、そのヴィクティー姫の幽霊って」


「へえ」


 何か、ひっかかる噂話だな。何だろう、何か妙な気がする。


 その違和感を脳内で検証しようとした、その時。


「失礼する」


 部屋に、見覚えのある青年が音も立てずに入ってくる。いつの間にか少し開いていた扉の隙間に、体を滑り込ませるようにして。


「ウーヘイ」


 驚いて名を呼ぶ。


 ウーヘイ。剣聖の事件で出会った、ナムト国の剣士。どうして、ここに?


「君がウーヘイか。ナムト国の騎士団重役の息子とかいう」


「よくご存知で」


 閉鎖的なナムト内部の、ウーヘイの知り合いの俺ですら知らなかった情報をさらりと口に出すゲラルトと、それを聞いても表情一つ変えないウーヘイ。


「突然で悪いが、俺は単なるメッセンジャーだ。君達に、ナムトの王からの伝言を伝える」


 絶世の美女にも見える美貌の青年は、顔を変えることなく続ける。


「七大探偵を、これよりナムト国に集結させる」

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― 新着の感想 ―
主人公って、名探偵になりたいんではなかったんでしょうか。 現場で推理して探偵たるものになるのが本人の夢だと思って読んでいるので、現場を離れて役職者になりたそうな発言に違和感を覚えました。 この違和感は…
[一言] DNA鑑定どころか指紋確認も無いんだから、やっぱり首のない死体は……
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