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cat 愛  作者: 中村 光
第一章 日常坐臥(にちじょう さが)
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第5話   緑の園


 僕らの通うこの学校は、2年前に開校された真新しい高校だ。従って・・・かどうかは定かではないが、おおよその高校の常識を覆す大胆さで校舎は構成されている。

 まず1階が職員室や準備室。2階が各学年教室で、3階はPC教室や理科系研究室、図書館に加えその他諸々。校舎裏方には部室が立ち並び、カフェテリア兼購買も別棟だ。それ以外にも層を成して付属建物が隣接されており、全体で中庭を取り囲むような五角形の構造だ。ホームページで全貌を見た人は口を揃えてこう言うそうだ。『アメリカ合衆国のペンタゴンみたいだ』と。まあそれはひとまず置いておく。

 元々、中庭を植物系バイオームにするつもりだったのか。吹き抜けの内部には研究や自然環境の為、はたまた校風を出す為なのか様々な植物が栽培されており、皆からは『緑の園』と呼ばれている。中庭なのにガラス製の円蓋が付けられており、室内とさして変わらない。加えて常温であり、快適ことこの上ない。

 以上の点を踏まえ、中庭で食べることには異論など全く無かったわけだが――

「まこ、どうしたの?」

「誠君?」

「・・・・・・・」

 両サイドで美少女の声が響く。ベンチは多々ある。その中で日本庭園をモチーフにしたっぽい庭を見下ろす少し小高い場所をベストだと考えその場まで足を運んだのだ。そこまでは良い。しかし、我先に端っこを陣取りした二人には思わず舌を巻いた。これでは僕はどこに座ればいいのだ?真ん中?いやそれは流石に・・・

 戸惑っている僕に焦れたのか、二人揃って僕の手を取り無理やり座らせされる。無論、肩と肩が擦れ合う狭い中央に。

 ――で、今に至る。

 学校内で異論なしの美少女を両肩に触れている状態。まるほど、これじゃあ皆の恨みも正当性を帯びてきた。確かにこれでは何処其処の腐れハーレム野郎と何ら変わらない。

 


 世間一般で言うリア充死ねを理解している誠としては、この状況に初めて危機感を覚えた。それでも自分は恵まれているのかと聞かれれば答えはNOと答えるほどに朴念仁である。

 勿論、誠自身に理解など及びはしないだろうが・・・

 第一、当の本人が、

「困った・・・」

 などと考えている時点で理解しようがない。というより、彼にとってはしてはいけないという方が正しいのかもしれないが、そこの理解知識は、彼の奥底の深淵で眠っている。 

 ――間話休題――

「・・・気を使わせて御免なさ――!」

 開口一番にそんなことを()かす峯浦さんを少し睨む。思わずといった感じで口を紡ぐ峯浦さんに、僕は言葉を続けた。

「僕はそんな事は思っていないし、話の題材にする気はないよ。折角なんだからもっと楽しく行こうよ」

 こだわりのない笑みを湛え、ね、と諭す。

 峯浦さんは今度こそ屈託ない微笑を浮かべ「はい」と頷いた。そこに美佳も加わり、それからは三人で有意義な時間を過ごすことができ、昼終了のチャイムが鳴るまで気づかず続いた。

「ありがとう」

 両手の先を前で絡め、可憐な微笑を見せる峯浦さんの顔に昼当初の倦怠感は無く、活発な美少女そのものだった。また、峯浦さんの「ありがとう」に何種類の思いを乗せられているかなど、考える気もなかった。僕は唯、「よかったよ」と答え、心の底から安堵した。

 去りゆく三人の背を、快然な風が帯を引いていた。誰の目にも止まることはなく、それはまるで応援するかの如く、出口まで彼等の背中を押し続けていた。・・・・『緑の園』。それはまさしくこの学校の生徒の楽園かもしれない。

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