第3.5話 家にて
「はっ!?」
実際のニュアンスは「にゅわ!?」だが(猫だけに)、取り敢えず脳内変換している。これは猫だから仕方がないが、やはり人の言葉を扱いたい気持ちは大きい。
――どうやら私はあのまま誠のベットで熟睡していたようだ。暖かな毛布から這い出て、大きく欠伸をし身体を伸ばす。そういえば夢を見た。私が人間となって誠に告白するシーンだ。だが、返事を聞く前に起きてしまったので聞けずじまいで終わってしまった。むー、出来ればもう一度床に入って続きを見てみたい衝動はあるが、生憎完全に目が覚めてしまったので無理そうだ。
ボンヤリした気分で辺りを散策してみても、寂しさばかりが募っていく。誠が帰ってくるまでの間、猫の自分が出来る事など限られてくる。率直に言うと暇なのだ。かと言って、外に出てもどうしようもない。誠は他の猫ともコミュニケーションを取ったほうがいいんじゃないか?と聞いてきたが、私は猫の言葉を理解できないので、まず前提条件から却下だ。
どうしようかと思い悩んでいると、外から妙な音が聞こえた。いや、正確にはすぐ近くの窓を叩く音だ。顔を上げると、ひょっこりと窓から顔を覗かせた黒毛の猫がいた。見るからにオスだが・・・まさかね。しかし、私が何のアクションも起こさずにいても引切り無しにその存在を主張してくる。やはり猫というのは、人間と違い引き時というものを知らないらしい。流石にイラっときた私は、玄関下部の小窓から外へと赴き、先程の失礼な猫の元へと急行した。中庭の芝生に降り立った黒毛猫に終始睨みを利かせているのだが効果なし。というか分からないのか?これだから猫は嫌いなんだ。人間型思考の私が言うのもなんだが、猫というのはつくづく自分本位な行動を主とする。私だって、誠に拾われるまでは色々冒険してきたのだ、こういう輩に遭遇した例もゼロではない。よって、私の最善策としては・・・無視に限る!
そう。関わらないのが一番だ。では何故此処に来たかというと、何時までも居座られても迷惑だから。その旨を伝えに来たのだ。・・・が、伝わらない。唯々苛立ちが募る。
「早く消えなさい!」
と喋っているつもりでも、「にゃにゃにゃーー」などと、自分で言ってて訳わからん言語が飛び交うのみ、それで相手に伝われば結果オーライというものだが、一向にして動く気配はない。それとも、わかっていて動かないつもりか?此処は――私と――誠の家なのだ、邪魔者は疾く消え去れ。
「・・・・・にゃ?」
あああ~~苛つく。なにがニャだっ!。私が理解できない猫語を喋られた所で、一切理解できるはずもないしする気もない。
――それで、話は戻るが、つまりどっちにみち無視しか行使しようがないのだ。他のアクションは検討もつかないし、第一に関わり合いたくもない。厳密に言うと誠以外と馴れ合う気がさらさらない。そんな私の心中に無頓着な黒猫は、あろうことか体を寄せてきた。
背筋に悪寒が走るのを肌で感じ、実際には肉体面より精神面が先んじて行動を示した。つまりはかぶりついたのである。
「私に触れるな!!」
生々しい怒気と共に顎に力を込める。流石にこれは看過できなかったのか、それとも無視できなかったのか、無礼な黒猫は驚いたように塀の外へと身を躍らせた。
一時の静寂。
不意に吹き始めた風に背中を押され、私はまだ冷めぬ熱に魘されながらも重い足取りで聖地に(正確には誠の部屋に)身を挺した。