第2.5話 私の本音
誠を見送り、しーんと静まり返った部屋を振り返ると、途端にうら寂しさが押し寄せてくる。私はたまらなくなり一目散に彼の自室に駆け込み、そのままベットで毛布に包まる。
誠の匂いを満喫し、私は少し落ち着きを取り戻した。
誠が恋しい・・・どうしようもなく胸を締め付ける感触は今尚継続中である。これもいつもの出来事だが、相変わらず止む気配はない。
私にとって、誠はそれ程にいなくてはならないこの世で一番大事な人なのだ。また、誠への愛も不変だ。いや、増えることはあって減ることはありえないと言うべきか。・・・しかし、苛つく事はある。例えば、誠が女を連れ込む場合だ。
誠に限って不純な動機ではないのだろう。現に、誠の部屋に忍び込んだ時も誠はずっとその女と駄弁ったり、ゲームで遊んだりするだけでそういった兆候は見られない。むしろ警戒すべきは女の方だろう。あのメス、これみよがしに色気を撒き散らし、私の誠を奪おうと画作している。まあ、誠にそんな気持ちがないことは一年間見続けてきた私には分かる。が、やはり危険なことに変わりはない。私自身、威嚇したり無視を決め込んだりと、わりと直接的な攻撃で嫌がらせはしているが、怯む気配は一向にない。
誠も誠だ。一体何であの女を私と誠の家に上がらせるのだろう。まあ、誠は優しいから、きっと押し切られたのだろう。通学途中の誠をストーキング・・・・違う!尾行した時も彼の優しさは嫌というほど確認できた。虐められている生徒の助けに入ったり、転んだ人に手を差し出したり。失くし物探しに協力したりと、それこそ病気的なほど。
よってかは知らぬが、彼の周りには人が多く集まる。皆が皆彼に好意を持っているのは直ぐに気づいた。男女構わずだ。流石にBLの危険性は忌諱していないがメスの数々に関しては注意が必要だ。
――やっぱり、私も学校に行きたいという思いは消えない。こんな蚊帳の外では見るだけしか叶わないからだ。学校に行って、皆の前で私と誠の愛を見せつけてやりたいという衝動が駆け巡る。 と、そこまで考えると決まって私は強迫観念に囚われる。
猫の私と人間の誠。
・・・・・分かっている。猫の私が人間の彼に愛を語ったところでどうにもならないことくらい。でも、でも抑えることなどできない。誠を愛する心は本物だ。嘘偽りのない本心だ。私は心の底から彼を愛している。それは、単に彼が優しいからではない。彼という存在そのものが私を形成する糧と化しているのだ。さっきも言ったように、彼無しで生きていく自信がない。だからこそ、彼と離れることが何よりも嫌で怖い。いつか彼にも好きな子ができ私を置いていってしまうという鬼胎が、私に重く伸し掛るのだ。
もし私が人間だったら、と何度願っただろう。猫の言語が理解できない私が何故猫でなければならないのだろう。猫だったから彼に拾われたとは思わない。彼ならばたとえ私が人間だったとしても救ってくれるだろう。そしてそのまま今の私のように彼と毎日を過ごせたならどんなに幸せなことだろう。・・・でも人間の姿だとお風呂とか彼、嫌がるかも。なにせ猫の私とでさえ最初は恥ずかしいとかいって逃げていたぐらいだ。そこに関しては猫でよかったかなと慊焉たる思いがある。だって言ってしまえば、私は常時全裸であることに相違ないのだから。別の意味で捉えれば、常に色気を出している私を常に無視していることとなるが、私はそれこそ無視することにする。どのちみち叶わぬ願いなのだ。今は、猫で良かったことを考える事にしよう。
そう気概を固め、私は誠の匂いと共に睡魔に身を委ねていった。