第14話 三つ巴?いえ、三つド萌えです
「ん、んん~」
何だろう・・・身体がやけに重い。ああ、そうか。気絶してたせいで力が入らないのか。
「ん!」
無理やり力を込めるも、
「(あれ?両手も動かない・・・)」
何かに縛られているかのように、ピクリとも動かない。
重い瞼を開ける、と。
「にゃあ~」
深緑の瞳が出迎える。
「ああ、ルナか・・・・」
何時もの事だ。猫である、ルナの・・・・
「――って!ええッ!!何してんの!?」
改めて見ると、僕の体に巻き付くように身体を回し(てかホールド?)、顔が僕の直ぐ上に停滞していた。
ルナの銀色に流れる髪が、僕の顔の輪郭に沿っているのが肌で感じる。
「うう~ん・・・何?」
「どうしました?」
「え?え!?」
両サイドから聞こえた女の子の声に驚いて首を回すと、
「あ、おはようございます誠君」
「まこおはよう」
右を向けば峯浦さん、左を向けば美佳。なんと、二人揃って僕の腕に絡みついていたのだ。
っていうかここベット?ベットの上で・・・
「何してんのおおお!?」
「「「え?それは///」」」
「え?何でそこで三人揃って頬染めるの?何したの?僕一体何されたの?」
一体僕が寝ている間に何が起きたというのだ!詳細を求めようと躍起になるも、ことごとく、
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・うふ///」
最後のルナの含み笑いはスルーの方針で、誰も無言を貫くばかりだ。見渡し、そして改めて知った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何で服着てないの?」
今更気付いたが、皆一様に、裸。いやルナ以外は一応まだシャツ一枚の状態ではあるが、それでも思春期男子のベットにいるには些かに過剰すぎる。いや、思春期じゃなくてもお断りだが。
「だって、ルナちゃんが・・・」
「ん?私がどうしたっていうの?」
「スパスパ服脱いだ途端にまこのところに行こうとするから・・・」
「すみません。私も便乗しちゃいました。てへ」
申し訳なさそうに。それでいて可愛らしく舌を出す峯浦さんはとても魅力的だが、先程から溢れそうな、っていうか盛大に溢れているその”何か!”を可及的速やかにおしまい下さると僕としても安心できるのですが・・・・
「・・・・・・・・」
とわ言えず、今尚感じる直の柔肌が脳を溶かしそうだ。
だって、今現状両手上半身をその美しい凶器によって拘束されている中で、尚且つ視界すべてがピンク色で埋め尽くされているこの有様。童貞の僕にできることなど、念仏唱えて無心になるしかないじゃいか。
「ほら、誠君が可哀想ですよ。昨日のことで疲れているでしょうに、休ませてあげましょうよ」
「むっ」
「ま、そうだね~」
ああ、流石峯浦さん。よくわかっていらっしゃる。って、ん?
「昨日・・・って、ああ!」
情景を奮い起こし、僕は飛び跳ねるように起きた。
ギョッとしている峯浦さんに向き直り、
「思い出した。昨日は大丈夫だった?」
「え?あ・・・はい。お陰様で大事にならずにすみました」
「よかった~」
ホッと胸を撫で下ろす。
途端にズイっと、布団を蹴散らし美佳が擦り寄る。それでもその瞳には甘さは無く、僕の頭に手を置く。そのまま撫でてくれた。
「全く。相変わらず誠って無鉄砲だよね。勝てないの分かってる筈でしょ?ならあんな無茶しなくても」
物腰柔らかく、心配そうに見詰めてくる美佳。
美佳にはだいぶ昔からこういう事に付き合わせちゃった節があるからな~、心配性だと笑って受け流すのは無理がある。
なら、僕は僕の心情を語るまで。
「勝てなくてもいいんだよ。それでだれかが助かるなら僕はそれで満足だよ。だから、峯浦さんが無事で本当に良かった」
「―――」
美佳を除き、ルナも峯浦さんも口を半開きにしている。と、途端に赤く頬を染め俯いてしまう。
「あ、あう・・・・か、カッコイイ・・・」
ショポショポと口を動かしている峯浦さんだが、生憎声が小さくて聞き取れない。
「ま、元から僕には誰かを殴る度胸なんてないしね」
「それは・・・」
「ん?」
「いえ、なんでもないです(最後の誠君の怒気、怖いくらい感じたんだけどな)」
僕が首を傾げると同時に両手を振る峯浦さん。
まあいいや。
「さて、とりあえず」
「朝ご飯?それともわ・た・し?」
「服を着て!!!」
頼むから!
擦り寄るルナを押し流し、空に大喝する。
何とも破天荒な早朝であった。
*
「誠ってさ~」
朝食を口に含み、ごっくんしてから質問者ルナに視線を向ける。
「ん?」
「童貞?」
「ゴフッ!ゴフゴホ」
思いっきり噎せた。
「どうしたの?」
「いやこっちのセリフだよ!何いきなり!?」
因みに峯浦さんと美佳は学校だ。僕は大事を取って休むよう二人に強制されたのでこの状態だ。別に頭の傷は何ともないんだけどな。傷の治りが早いのが僕のポテンシャルであるわけだし、それを考慮したからこそ、美佳は僕を病院に連れて行かなかったのだろう。
まあ、行ったら行ったで問題無いって突き返されるのがオチだけど。
――間話休題――
で、だ。
二人っきりになったルナの開口一番がさっきの一言であり、驚きもひとしおだ。
「いや、さっきのシチュエーションは中々だったと私は自己分析したのよ」
「なにが?」
「朝○チに加え3pなんて萌えるじゃな痛ッ」
ルナの頭の頂点にチョップを叩き込む。
「それ禁止ワードだから!ピー音入っちゃってるから!小説のジャンルを変えないで頼むから!っていうか保険で入れたR指定なきゃ完全にアウトだよ!」
思わずメタな発言を連呼する。
「むう~誠のイケズ~」
「ねえ。本気でそれどこから仕入れた知識?」
そういえば最初っからルナは人間の言葉に精通していた。まるで初めからその言葉を話せたかのように。
もしかしたらルナなりに密かに勉強していたのかな?それとも壮絶な人生を――
「公園にあったエッチな本で勉強した」
「おのれ若人っ。フィクションの世界だけだと油断した!まさか公園にエロ本置き去りが実在するなんて・・・・」
「大丈夫」
「何が?」
「私も初めてだから////」
「何があああああああああ!?」
絶叫が室内に響く。
*
所改めて、
ポス、っとルナが僕の膝の上に乗っかる。
子供のように足をプラプラさせ、背中を僕の胸につける。
僕は窓の外を眺め、「ああ、平和」だと呟いてみたり。実際は心身共に疲れ果て、和の心を見出そうと桃源郷を探していたりしていたのだが・・・
ユサユサ ピコピコ
目下眼下で揺れ、不規則に折り畳みを繰り返す物体がどうにも気になる。ついでに、長い尻尾が僕の胴体に絡みつき、逃げられないようにホールドされていたりする。
「ねえ」
「何?」
「丁度いい機会だから確認するけどさ」
「うん」
「それって本当に耳なの?」
「ムッ!失礼なちゃんと直についてます~。人の特徴をアタッチメントみたく言うなっ。私のチャームポイントだぞ。どうだ恐れ入ったか!」
「・・・・君のキャラ付けが難しいよ」
「ふふ~ん。私は幾らでも猫被れるからね~、猫だけに!」
自信満々に胸を張るルナ。これは・・・あれか。
「あははは~そうだね~」
「ふふ。そうでしょそうでしょ」
気分が高調してきたのが尻尾がブンブン振られているので良く分かる。
でまた僕に絡まる。まるで定位置とでも言うよに。
ああ、可愛い。つまらないけど可愛い。
「あ、そうだ触ってみる?」
「ん?いいのかい?」
「うん。誠になら何をされても、私はへーきだよ」
「そ、そうか」
よく惜しげもなく言えるもんだなと、熱くなる顔を左右に振ることで霧散させる。
では早速とばかりに。あ、勿論断りを入れるのを忘れない。
「じゃあ失礼して・・・」
「ん・・・」
「・・・おお」
柔らかい。ていうか薄い肌触りだ。それでも血管は通っているのか、温かい流動を感じる。類希な銀色の髪はその役目を存分に果たし、今も輝くと同時に暖かさを提供している。フワフワした毛糸のようだが櫛はしっかり通っていて、流れるようにキラキラと銀色の毛が舞う。
やはり、何というか、神秘的だ。
「ねえ。それ髪の毛なんだけど・・・」
「あ、ごめん。綺麗でつい・・・」
気づけば、耳ではなく頭を撫でてしまっていたようだ。それでも、ルナは気持ちよさそうに目を細めているのを見ると、つい・・・
うりうりうりうり
「うにゅ~~~////」
「うえあっ、ご、ごめん」
「あ」
慌てて手を放す。
ヤバイ。手触り良すぎてつい夢中になっちゃいそうだ。触った相手を虜にする魔力でも宿っているのだろうか?
「ありがとう。触らせてくれて」
「もっと触っていいのに~」
一層擦り寄り、上目遣いで懇願するルナの姿に、僕は唾を飲み込む。
「ま、また今度お願いするよ。」
「むう・・・残念」
ルナの耳がしなだれる。
思わずもう一度手が出そうというところで、
プルルルルル
「ん、電話だ」
ルナを降ろし、一人電話口に出る。
「はいもしもし。沙河ですけど」
「沙河誠さんですね」
抑揚のない無機質な女性の声が聞こえてきた。この声どっかで・・・
「はい。そうですが」
「校長先生がお待ちしています。至急学校まで来るようにとの事。この度連絡させていただきました。」
「え?」
校長先生が?こんな突然、何でまた。
と、僕が一人首を捻っていると、また抑揚のない女性の声が続ける。
「何でも、昨日の件でお話があると。貴方に身に覚えが無くとも、校長命令なのであしからず」
昨日というと・・・・そうか!ルナの事か。
考えてれば当然だ。昨日あれだけ騒ぎを起こしたのだから。
「・・・わかりました。今から其方に向かいます」
「はい。では」
「・・・・・・・・・・」
電話が切れてもそのまま突っ立っていた僕に、
「・・・誠?」
ルナの心配そうな声が届く。
「ん?なんだい?」
努めて柔らかな声で返す。
「どこか行っちゃうの?」
「―――」
思わず息を呑む。先程とは打って変わってしおらしい姿に己の不甲斐なさを感じ、僕は唇を噛む。
「大丈夫。直ぐ帰ってくるよ」
「私も、・・・・ううん。分かった。いってらっしゃい」
ついて行きたいというのは痛いほどよくわかった。けど、何となく察しがついているのか、ルナは自分から妥協した。
「ごめん・・・」
努めて明るい表情は・・・出来なかった。
すみません。遅くなりました。今回は一転明るい方へシフトさせましたが、如何でしょうか?まだギャグなどは私には荷が重いですが、努めてシリアスさを薄くさせる為に頑張ります。