第10.5話 心境の変化
誠を送ったその身で、私は立ち尽くしていた。誠の見せたあの悲しげで儚げな表情に、私は心を抉られるような心境に至った。何故、あの時にあんな顔になったのか。私の言葉の意味を探る。――正しい・・・かどうかはこの際置いておき、本心からの言葉であったのに間違いはない。「誠には何をされてもいい」・・・今思い出すとわりと恥ずかしい台詞だが、誠が悲しげになる理由ではないはずだ。それなのに一体。
「どういうことよ、誠」
勿論、答えが返ってくるはずもなく。虚しく反響するばかりである。少し前なら、この身で誠に奉仕できる事に浮かれてあのまま押し倒すことも有り得た事だが、今は疑問に頭を悩めるしかない。
「・・・・・誠」
*
数時間前、私は一大転機を迎えた。原因はまるで不明だが、何と私は人間になれたのだ!!これを奇跡、いいえ、運命と言わずなんと言うか!私にとって、人間になる過程など詮無い事。
私にとって、この身で誠に奉仕できるという一点が、私に感慨を齎したのだ。その点、私自身の身体は万点に近かった。自分て言って何だが、人間として稀有な美貌を手に入れたと自負している。最も、その採点基準はこの前のメスと比較した際の名残だが・・・
それでも、突びぬけた容姿だと自己評価できる。髪は自分で驚く程サラサラで、体も細く足が長い為綺麗な立ち姿になる。それでいてウエストも細く、胸も急激な発展を遂げていた。猫の時は気にもしなかった(そもそも無かった)胸が、あのメス共となんら見劣りしない、それどころか凌ぐ程に成長していたのだ。これは驚くべき変化だ。しかし、生憎と猫の名残がそこらかしこに点在している。
例えば耳。誠も驚いていたが、実はと言うと私自身戸惑いを隠せなかった。せっかく人間になれたというのに、これでは意味がない。それは尻尾に関しても同じこと。まあ最も、誠に問題がなければどうということはない。私のチャームポイントが増えたと思えばよろしい。
・・・ああ、誠にこの体を委ねるのを想像すると、途端に火照ってくる。猫の時期には無かった体の変化に戸惑いつつも、止める気はなかった。誠をこの体で、この言葉で誘惑できるなど、何て幸せな事なのだろう・・・
――と、鏡の前で身をくねらせていたのは誠には内緒だ。
そして、何より言葉を話せるようになったのが大きい。これまでは、人間の言葉を理解する事しかできず、それでいて猫の言葉は理解できないなど、不条理極まりない身であったが、これからは違う。人間の言葉を理解し、そして伝えるすべを、私は会得したのだ。勿論、使い道は誠への愛の告白に限る。いや、悩み相談とかも・・・・・・・嫌な事を思い出した。
「そうよ!あのメス、私より先に誠に告白するなんてぇー!!」
キィィィィー、と所構わず地団駄を踏み、それが済んだ所でニヤリと笑窪を作る。人の悪い笑みを浮かべたまま、
「待ってなさい」
外へと飛び出したのだった。