表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cat 愛  作者: 中村 光
第二章 日進月歩
16/22

第10話   変化

 起承転結の起が来ました。物語の本筋は此処から始まると言っても過言ではありません。どうぞお楽しみあれ。


「んぐ・・・」

 いつになく重い重圧に、僕の意識は否応なく起こされる。

「(何だ?)」

 それでもわりと頭はスッキリしている。やはり昨日みたいに悶々と考え混んでいるような状態では、浅い眠りになってしまうのは当たり前か・・・

 散々考えたクセに、結局分からないままだし。

 正直起きたくなかった。だが、活動を開始した脳内に、悩殺を誘う甘い声が流れ込んできた。

「ま・こ・とっ」

 しかも、頭上から。

「は!?」

 思わず目を開いた先にいたのは・・・妖精?

 馬鹿馬鹿しいことに、一瞬真顔でそう思った。雪のように白い流れるような髪に、それを写し取ったかのような滑らかに頬を形成する肌。深緑の瞳はおとぎ話の登場人物のようにありえないほど澄み切っていて大きい。また、眉毛も唇も含め、それら全てが柔和に型どっている。

 総合的に淡い光を放つ幻想的な容姿に、思わず妖精と総称してしまったのは仕方のないことだと言える。

 いや、今はそんなことは問題ではない。問題なのは、そんな人物が、今まさに目と鼻の先に居ることだ。少しでも僕が上体を起こせば、キスできてしまう程にだ。正直、現状が全く理解できない。

 クスリ、と笑みを浮かべる謎の女性(いや、少女か?)は、僕に視線を固定したままゆっくりと離れていく。

 ――そして、見てしまった。

「は、裸ああああああああああああああ!!!!」

 そう、先程まで顔だけが見えていたから気づかなかったが、なんと裸。さらに言えば全裸。さっきまで顔を写していた情景に、だんだんとその裸体が晒されていく。

 優雅に形を取る豊満な胸。その先にある突起・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・――はッ!」

 慌てて頭を何往復も振りまくる。

 何考えてんだ僕は!いや待て。早まるな。僕は変態じゃない!見てはいけない。

 あ、何か凄くいい匂い・・・って違う!

 目を閉じろ。精神を保て。じゃないと人として悪に走ってしまう。

「ねえ。私を見て・・・」

 そんな僕の荒ぶった心境などお構いなしに囁く誘惑の言霊(ことだま)

 言下に、彼女はさらに体をしなだれ掛ける。僕の胸に掛かる重圧が段々と増し、擦れるように触れる面積が膨らむ。柔らかい物体が首付近に乗っかかり、鼻先数センチに互いの唇が停滞している。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねえ・・・」

 必死に目を瞑り顔を逸らす僕に、彼女は焦れったそうに言葉を続ける。

「目を開けて。私だけを見て」

 そんな、糖分溢れんばかりの台詞を語りつつ、しなやかな指が僕の頬を這う。両頬を掴まれ固定され、そこからは彼女の吐息だけが音を成していた。

 薄く瞼を開ける。そこには、やはり精神衛生上凶悪な、蠱惑的微笑をその口に刻んでいた。慌てて視線を下げた先に、見事すぎる谷間を発見してしまい、赤面したまま顔を合わせざるを得なくなってしまった。

「・・・ど、どどどどちら様でしゅか?」

「うふ」

 わ、笑われた。如何にも可笑しな事を聞くと言わんばかりに、嬉々した様子でクスクスと笑みを湛えた。

「私のこと、本当に分からない?」

「え?いや・・・・分かりません」

「ん~じゃあこれなら?」

 そう言い、彼女は僅かに腰を上げ、振った。視界の端に映り込む肌色の丸い物を目にし、思わず頬が熱くなってしまう中、思わぬ物が目に触れた。

 綿毛のようにフサフサな先っちょ。彼女の髪のように真っ白で細長い物体が、フリフリ揺れている。

「(尻尾?)」

 それはまるで、猫の尻尾に酷似していた。いや、問題なのは付け尻尾ではなく地肌に直に付いていた事。

「分からない?じゃあこれは?」

 今度は輝く銀色の髪を掻揚げる。サラリと櫛通りの良い髪が流れるように定位置から離脱した。御陰で今まで隠れていた部位が顕になった。

 耳だ。ピコピコ折り畳みを繰り返す物体は、紛れもなく動物の耳だ。しかも頭部にピョコっと取っ付いている。

 尻尾に耳。これじゃまるで猫みた、い・・・・って、え?まさか。いやまさか。それこそおとぎ話だ。

「うん。誠の想像通り。私はルナよ♪」

「――なァ!?嘘ォ・・・」

「うふふ。本当よ。私、人間になったの」

 到底信じられる話ではなかった。しかし、頭の隅では肯定の念が渦巻いていた。これまでの猫らしからぬ行動といい、普段からの人間さながらの態度。もしや?という思いが強くなる。

 改めてじっくりとからd・・・顔を眺める。そう言われれば、深緑の瞳も真っ白な髪も、ルナに通ずる物がある。

「ルナ・・・なのか」

「分かってくれたかしら?」

「あ、ああ」

 今だ信じられない気持ちがあるが、認めざるを得なかった。第一にこんな神秘的な人間が存在するはずがない。それほど、現実離れした美しすぎる容貌であった。

 頬を抓り、痛みを感じた上で改めて一言。

「(なんじゃこりゃ~)」

 

****


 あの後は色々と大変だった。「襲わないの?」など問題発言多発に加え、僕が渋ると「意気地なし」と罵り始める始末。その上悪戯のように強情に僕の胸の上から退こうともしない時間が長く続き、結局最後はルナが根負けした。「誠ってそういう人だもんね・・・」などと、溜息混じりに意味深な言葉を呟いた事はこの際目を瞑り、とにかく一刻も早くその場から退散するに徹した訳だ。

 流石に裸の状態で居座られても目のやり場に困る。なので母親の御下がりを提供しようと古着片手に自分の部屋に戻った所・・・なのだが。

 なにやら四つん這いになってベットの下を漁っているではないか。

「一体何をしている?」

「ん~?誠のエロ本を捜索中♪」

「おい!」

「でも、見つかんないんだけど・・・何処に隠しているのかしら?」

 小首を傾げるルナ(素っ裸)に、僕は呆れ混じりに肩を落とし返事を返す(身体を明後日へ向けながら)。

「いや、そもそも無いからね」

「え、そんな!じゃあ欲求は何で満たしているの?」

「何?その必須条件みたいな反応。男が誰しもそんな感情を抱いているとは限らないよ」

「・・・・・・・」

 そんな馬鹿な・・・とでも言いたげに愕然と顎を落としている。一体ルナの中で男はどう映ってんだろう?

「ともかく、服用意したから着てくれ」

 人外を見るような目つきのルナに洋服を渡し、僕は足早にリビングに向かい朝食の支度を始めた。

「はあ・・・ホント、心臓に悪い」

 これから毎日があのルナと過ごすとなると先が思いやられる。かと言って人間になったからと追い出すなど忍びない。まあ結局、人間になったことを喜ぶべきか。元々そんな思いを元にペット扱いを拒否してきたわけだし。ペットに思えないから人間らしく扱ってきたのに、まさか本当に人間になるとは・・・い、いや、まだ断定するには早いかな?

 しかし・・・

「・・・・・・・」

「あっ、誠!どう?可愛い?」

「ん?――ッ!」

 リビングに姿を現した妖精。じゃなくルナに、僕は言葉が出せなかった。勿論可愛い。しかし、度が違う。言うなら可愛過ぎる。母が昔着ていたと言っていた白いワンピースに、ルナの逆光する銀髪がとても神秘的に映る。スラっと伸びる手足といい、白いワンピースがとても映える。

 うん。やっぱり人間では有り得ない。

「あれあれ~。もしかして見惚れてる?」

「い、いや違うぞっ、これは・・・」

「うふふ。別に隠さなくてもいいのに。ほらほら~」

 語尾に合わせ、クルリと一回転してみせるルナ。フワリとワンピースが舞い、魅惑的な絵面がそこにはあった。

「ちょ!止めなさい、いや止めてください」

 思わず目を瞑ったのを好機とばかりに、僕の胸にルナが抱きつく。

「いいんだよ。誠なら何されても・・・」

 その強い意志を宿す瞳を目にした途端。狼狽を超えた僕の中に、幾つもの名残が枷となり浮かび上がる。一様に崩れかけた心が諸刃之剣のように繋ぎ留められ、冷静さを取り戻した。

「・・・誠?」

「からかうのもそのくらいに、朝ご飯にしよう」

「どうしたのよ、突然。そんな・・・悲しそうな顔」

「何でもないよ。さ、いい加減僕も急がないとまずいし」

「・・・・・・」

 憂いを含むルナを促し、僕は我先にと食卓につき食を進める。渋々ながらルナもそれに続き、この話はご発散となった。

「それじゃあ、行ってきます」

「・・・・うん」

 互いに沈黙が空気を彩るのをいい事に、僕はこのまま学校に向かうことにした。まだ頭も混乱していてまともな考えを紡ぎ出せるとも思えない。これ以上居ても彼女に負荷を掛けるだけだ。

 真剣な眼差しで送り出すルナに心苦しさを覚えるがこの際構っていられない。

「(ごめん)」

 心の中で一言謝罪を送り、玄関のドアを閉じた。


***


「おはようー」

「おっす」

「おはよう~」

「おはよ」

 僕の挨拶を筆頭に、何時もの三人が三者三様の返事を返してきた。(因みに僕・翔也・美佳・諒の順だ)

 うん。これぞ日常だよね~

「何安心した顔してんだよ」

「いや、翔也こそ景気悪そうな顔だね」

「んだとォ!これはなァ・・・転んだんだよ」

「切り傷・・・」

「諒は黙ってろ」 

 いがみ合う二人を微笑まずにはいられない。何か日常噛み締めている感じだ。これなら、学校では普通に過ごせそうだ。あれ、でも何か忘れているような・・・

「ま、誠君」

「うん?・・・――ッ!」

 声を掛けられ振り向いた先にいたのは黒髪美少女、峯浦さん。・・・昨日告白され、返事を保留にしていた。

 わ、忘れてたあああああーー。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ