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TとUの理不尽クイズ

秘湯へのレポート<問題編>

作者: フィーカス

 気持ちのよい快晴にもかかわらず、冷たい北風が泣き叫ぶ十一月の空。

 その風にゆられて枯葉がダンスする中、茶色いコートを着たTは、公園のベンチで読書を楽しんでいた。

 冷たい風が勝手にページをめくるのを、Tは必死に押さえる。手袋もせず、かじかむ両手を、時々息で暖める。

「少々肌寒いが、たまにはこういうのもいいな」

 ふぅ、息をつきながら目の前の景色を見ると、何人かの子供がブランコや滑り台で元気に遊んでいる姿が見られた。

 こんなに寒いのに、子供は元気なものだな、と本をおろしてしばらく観賞する。

 そういえば、今の子供はゲームに夢中になることが多くて、外で遊ぶ機会が減っているようだ。

 さらに、不審な事件が相次いでおり、公園の遊具の安全性が問われていることもあり、外出すらあまり許可されないこともあるらしい。

 そう考えると、こうやって公園で元気に子供たちが遊んでいる姿を見られるのは、今のうちなのかなとも思えてくる。

「あれ、T、こんな寒いところで読書か?」

 ふと、ランニングシャツ姿のUが顔を出した。

「お前こそ、こんな寒いのによく半そででいられるな」

「やっぱり冬はランニングで温まるのが一番だからな」

 そういいながら、UはTの隣に座った。


「しかし、こうも寒いと温泉なんかに入りたいねぇ」

 汗をかきながら、はぁ、と白い息を吐いてUが言う。

「温泉ねぇ」

 そうつぶやくように言うと、Tはぱたりと本を閉じた。

「温泉といえば、こういう話があるのだが」

「お前の話は何か嫌な予感しかしないのだが」

 そういいながらも、UはTの話に耳を傾ける。


「とある旅館に、『黒猫の湯』という有名な温泉があってだな。そこに有名なレポーターが取材に行こうとしたわけだ」

「温泉取材か。俺もやってみたいな」

 Tの話にUが割り込むが、Tは続ける。

「温泉がある旅館に到着し、取材をしようと『黒猫の湯』に入ろうとしたのだ。ところが支配人から、『女湯だからダメだよ』と、男性だったレポーターは入場を拒否されたんだ」

「あらら、そりゃ仕方が無いな」

「何とか有名な『黒猫の湯』の取材をしたいと、レポーターはお願いしたわけだ。しばらく支配人は考えていたが、また後日来てくださいと言ったので、とりあえずその日はレポーターは帰ったのさ」

「なんだ、諦めたのか」

 はぁ、とため息をついたUは「いやいや」と右手を振った。

「最後まで聞けよ。次の日にもう一度レポーターは同じ旅館に行き、支配人に話をしたんだ。すると今度は取材許可が出て、無事『黒猫の湯』に入って取材を済ませたわけだ」

 Tがそこまで話し終わると、Uはくっくっくと笑い出した。

「つまり、俺に『何故男性レポーターが女湯であるはずの黒猫の湯に入れたか』という謎を解けというのだろう?」

「ん、まあ、そうだが。話が早くて済むな」

 Tが不思議そうな顔をしていると、フッ、と自信満々な顔でUは話し始めた。


「簡単な話だ。『黒猫の湯』が掃除中だとか準備中だとか、とにかく入浴中の客がいない時間帯に取材を許可したのだ。それなら何も問題がない」

 最後に「ドヤッ!」などという呟きが聴こえたが、Tは微動だにしない。

「うむ、残念だが客はしっかりいたのだ。でなければ取材の意味がなかろう」

「なぬ、違うのか」

 Tの不正解宣言に、Uはあごに手を当てて考え込んだ。

「ならばあれだ。『黒猫の湯』というのは二つあって、もう片方が男湯だったのだ」

「同じ名称の風呂が同じ旅館にあると思えんがな。ちなみにその旅館には、その『黒猫の湯』と、その隣にある『白犬の湯』の二つしか温泉は無かったのだ」

「ぐぬぬ、なんだと……」

 Uは今度は腕を組んで考え始めた。

「そのレポーター、ちゃんと取材したんだろうな? 更衣室だけとか、入口だけとかじゃないだろうな」

「いや、その男性レポーターはちゃんと浴場に入って取材したんだぞ。入浴中の女性にインタビューもしたそうだ」

「なぬ、入浴中の女性にインタビューだと!? うらやまけしからんやつめ!」

 Tの話を聞き、何故か興奮し始めるU。よっぽど入浴中の女性へのインタビューがうらやましかったのだろう。

「じゃああれだ。支配人が『今日は取材が来るから』と客に注意を呼びかけておいたんだろ。だから全員心の準備ができていて、バスタオルで全身をくるんで……」

「支配人いわく、『いかなる場合もバスタオルを湯船につけてはいけない』だそうで。もちろん、ハンドタオルなんかもね」

「じゃあ水着でも着てたんじゃないか?」

「支配人は『後日』って言っただけで、いつレポーターが来るかまでは聞いてこなかったんだぞ? いつ来るかわからないレポーターのために、常に客に水着を着せるのか?」

「ならば実は『黒猫の湯』は旅館にある温泉テーマパーク……」

「そこらへんにある温泉や銭湯と同じだ。お前は温泉に行くときには常に水着を準備していくのか?」

 あらゆる可能性をTに否定され、がっくりとうなだれるU。


「なんだよ、全部後だしジャンケンに思えてくるのだが?」

「お前の発想が全部変な方向に向かうからだ。別に特殊な温泉じゃなくて、普通の温泉だからな。それに、客にも特に大袈裟なアナウンスはしていない」

 いくつか考えていた可能性をまとめて潰され、Uはがくっと頭を下げた。

「だめだ、全然わからん」

「ふむ、あんまり温泉には行っていないようだな。まあいいや、今度行くか」

 何故かTは最後に、Uに温泉旅行の話をしていた。



「さてと、読者の皆さんはお分かりだろうか。

 有名な温泉、『黒猫の湯』への取材が可能だった、その理由。

 温泉に良く行く人なら、この光景をよく目の当たりにしているかもしれない。

 ただ、その可能性を考えた人も、ある一言が引っかかっていることだろう。

 その引っかかっている部分がどういうことなのか。それも含めて答えを出して欲しい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうしよう、全然分からない…きっと夜中だから頭が回らないんですよ、きっと。 [一言] 読んでて色々笑ってました笑。 まず合法的に女湯という発想が面白かったですけど、普通に覗きで捕まりますよ…
2012/12/20 02:41 退会済み
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