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一日目:運命的邂逅⑥

 結局その日の晩は、何も手につかなかった。宿題だとか、読みたい本だとか色々あったが、そのどれも手をつける気が起きなかった。


 よしんば手をつけることが出来ていても、きっと身が入らなかったに違いない。身が入らぬままに勉強をしても身につきようがないのは必定であり、読書などしようものなら書を楽しむこともできずに金の無駄遣いとなることもまた必定である。


 であるならそれらを為す訳にはいかないなと自分自身に言い訳をすることで、僕は現状を甘受していた。


「……はぁ」


 口を突くのはもちろんため息で、それは幸せを逃すだとか言われるモノだけれど。それでも僕はそうすることをやめられなかった。


 初対面の美少女に自分自身を否定されれば流石の僕も落ち込みはする。


 この場合は僕が彼女に好意を抱いているかどうか、あるいは嫌悪を抱いているかどうかは問題ではない。ただその他大勢の生徒から好意を寄せられる対象であるところの少女に無垢なる、悪意を向けられたことが問題なのだ。


 他者に好かれるということはそれだけ他者に好意的な何かを与えているということであり、しかし自分にはその何かが与えられないだけでなく、逆に悪意を与えられる。


 彼女が意図してそうしたとは今でもやはり思わないが、ショックを受けて弱った僕の心は自分だけがそうなのではないかという想いを否定することが出来ないでいた。


 僕は彼女に嫌われているのかもしれない。それは僕が彼女のことを知らないということを考慮すれば五分五分の確率でありうる仮説だ。


 たとえ彼女が快活で人当たりもいいという噂を知ってはいても僕に対してまでそうであるとは限らないし、そもそも噂で形作られた彼女の思考など現実と乖離していないはずがないのである。


 となれば僕が彼女の気持ちを想像しうるのは今日のたった一度きりの会話からのみであり、その中で彼女から善性と悪性を見てとった僕には彼女の心中がどちらかに偏っているか等想像しようもない。故にこそ、五分五分なのだ。


 平均少年たる僕は今の今まで誰かに羨ましがられたり敬われたりしたことがない代わりに、気に病むほどの嫉妬や嫌悪の対象となったことがなく、特定の人間に嫌われることに慣れていない。


 いや、複雑な過程を、あるいは長期的な過程を経てそういった感情を向けられるだけならばまだましであろうと僕は思う。それならば耐えられる気がする。


 しかし初対面で嫌われるとなるとそうもいかない。


 初対面での相手に対する感情は第一印象と事前情報で決まる。彼女が僕程度の事前情報を名前以上のことを知り得ているとは思えない。


 となれば僕が嫌われる原因は第一印象ということになるのだが、僕は伊達に平均少年と呼ばれているわけではない。


 第一印象という点においても平均的、すなわち可もなく不可もなくという印象を相手に与えるはずなのだ。少なくとも今まではそうであったし、これからもきっとそうであろうと僕はそう思い込んでいた。


 しかし何の因果か平均少年の第一印象は負の方面に傾いてしまった。それは僕が嫌ってやまない、しかし認めている平均少年というアイデンティティの否定につながることのように思われた。


 まぁ前提となっている、嫌われている云々は結局僕の思い込みに過ぎないのだけれど。それでも自己同一性の崩壊の危機に僕が黙っていられるはずもなく、結局彼女から逃げ出して今も悶々と悩み続けているのだ。その様はきっと滑稽な道化に過ぎないのだろうという思考が自虐的に浮かび上がってくるのも止められない。


 負の感情が更なる負の想像を呼び起こす、僕は今まさに思考のデフレスパイラルに陥っていた。


 このままだと行くとこまで行ってしまう、そう思った僕は頭を振って思考を強制的にシャットダウンした。そして余計なことを考えぬよう意識すらもシャットダウンしようと、床に入ることにしたのだった。


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