プロローグ
この小説で通勤通学の、あるいは休憩時間等の暇を潰していただければ幸いです。
それでは、開幕。
その日、僕は見てしまった。
新 陽菜が公園で汗水たらして努力しているのを。
僕と同じ高校二年生である彼女は学校一の才女と名高く、同時に弱小であった我が校の女子テニス部を全国レベルに引っ張るほどの身体能力を有している才女である。
他にもその手の逸話には事欠かない、まさに文武両道、天から二物も三物を与えられたような人であった。
加えて彼女はくりっとした大きな瞳としなやかな肢体、女性らしさに溢れたボディラインを有している。そして艶のある茶色がかった黒髪をポニーテールにくくりあげているその容姿は、学園一のアイドルの名に恥じないものだ。
当然僕のような普通の少年には縁もゆかりもない少女であったし、高嶺の花として眺めるだけの存在であった。どれだけ彼女が凄かろうと僕の人生に一片たりとも関係することはなく、それゆえに僕からの一方的な認識で終わるはずの関係だった。
だが、運命はそれを許さなかった。
1年と少し前に高校生になってしまった僕は、運命を信じられるほど幼くはなかったし、またロマンチストでもなかったけれど。凡人の僕にはそれを「運命」と称する他になかった。
あるいは彼女のような人間であったなら、もっと別の、ふさわしい呼び方を思いつくのかもしれないが、生憎僕は彼女ではない。
とにもかくにも、僕たちの人生はそのようなモノによって結びついてしまったのだ。
平均少年と努力中毒
佐藤 翔太、16歳。趣味:特になし。特技:特になし。あだ名:平均少年。
僕を表すプロフィールといえばこれで事足りる。むしろこれ以上に付け加えるべき言葉がないというのが正直なところ。
特段顔がいい訳ではなく、背格好も普通。いじめられているわけではないけれど、クラスで人気者という訳でもない。
成績はよくもなければ悪くもなく。運動もそれなりにしかできない。
だからといって存在感が薄いという訳でもなく、友達も何人かいる。親友と呼べるほどの者にはまだ出会えていないけれど。
あえて言うなら怠け者の嫌いがあるものの、世間で言われるニートと呼ばれる人間ほどには今の生活に飽いてもいない。
そんな僕が送る日常生活はたまらなく退屈であったが、平穏でもあった。