前編 出会い
短編じゃまとまらなかったんだ……
こんにちは、作者の五円玉です!
夏の短編祭り第4弾は、まさにファンタジー!
夏の短編祭りと銘打ってますが、実際長い小説となったので前中後編に分けました。
では!
今から僅か十年前。
平和な世界。
人類と自然が共和する、このフィルバ大陸。
人々は田畑を耕し、酪農に営み、毎日を過ごしていた。
自然も豊かで、四季もある。
命の楽園。
しかし、戦争が起こった。
それは、他の大陸から土地を求めやって来た、竜―――ドラゴン。
人類を滅ぼし、自らの領土を広げるべく、やって来たのだ。
人類は自らの土地を守るため、剣を持った。
フィルバ大陸にある五つの国家は協力し、竜に対抗した。
竜側には炎を操る火竜、地震を起こす地竜、風を操る飛竜、強靭な身体と筋力を持つ剛竜など、様々な種類がいた。
人間と竜。
力では明らかに竜の方が強く、実際人類は敗北寸前の所まで追い詰められた。
しかし、人間は諦めなかった。
自らの大陸を守るため、勝ち目のない戦いに、最後まで全力を尽くした。
そして、奇跡は起きた。
竜の戦から十年後……
フィルバ大陸は北方の雪国、アーフィア国。
国土の半分が樹氷林という、寒さの厳しい雪国だ。
毎年夏は短く、冬が長い。
そんなアーフィアの西の果ての港町、クラリン。
その小さな港町の酒場。
「よし、今日も仕事終わりっ!!」
木造の酒場。
その酒場のテーブル席に、5人の若者達が食事をしていた。
「ふぅ……しかし、今回はなかなかの長旅だった。久々に足がパンパン状態だ」
テーブルにはジュースや魚料理が沢山。
「あれ? アタシのお刺身は? 誰か食べた!?」
彼らは皆、鉄や鋼で出来た鎧や、服のような布製の衣服を纏っている。
「誰か食べたでしょ! アタシのお刺身!!」
「誰が食べるかっつーの」
若者達は和やかに団欒しながら、食事を楽しんだ。
彼らは傭兵団。
アック傭兵団だ。
「よし、今日は報酬もたっぷり出たし、しこたま食うぞぉっ!!」
茶髪の髪にエメラルド色の瞳。
彼はロディア・アック
歳は18、称号は剣士
「よしバルゼフ、早食い勝負だっ!!」
「おっす!」
黒い単発に細目。
ふくよかな体型の彼はバルゼフ・ダドゥ
歳は20、称号は重歩兵
次の瞬間、一心不乱に食事にかぶりつくロディアとバルゼフ。
それはまた豪快に。
「あ、アタシも参戦するぅっ!!」
そう言って、もう一人早食いに挑戦する者が。
桜色の髪をポニーテールで纏めた、アメジスト色の瞳を持つ小柄な少女。
彼女はエリレーン・カティナス
歳は16、称号は錬金術師
「お、エリもやんのか? 負けねぇぞ!?」
「ふん、あまりなめると痛い目みるわよっ!」
ロディア、バルゼフ、エリレーンの三人はバカ食い状態。
もはや手掴みで料理を口に運ぶロディア。
皿に顔を着け、犬食い状態のバルゼフ。
スプーンで口に食事を掻き込むエリレーン。
そんな三人を呆れた顔で見ている彼。
グレーの髪に赤色の瞳。
長身の彼はカルラ・ロンドーニア
歳は18、称号は槍闘士
「……ったく、くだらねぇな」
カルラはちびちびハーブティーを飲みながら、鋭い視線を三人に送る。
「まぁまぁカルラ、たまには良いじゃない」
そんなカルラを宥めるのは、紫色のウェーブがかかった髪、琥珀色の瞳を持つ女性。
名前はセリアン・クルレア
歳は19、称号は弓兵
剣士のロディア、重歩兵のバルゼフ、錬金術師のエリレーン、槍闘士のカルラ、弓兵のセリアン。
彼ら5人こそが、アック傭兵団のメンバーだ。
彼らは町から町へと移動する旅商人や、馬車、要人などを盗賊や強盗から護衛する事を仕事とした傭兵団。
現に今もこの港町まで旅商人を護衛し、報酬をもらったばかり。
「そうだ、今日の宿探ししないと!」
早食い勝負もそこそこに、ロディアはふと宿の事を思い出す。
まだ今日は宿の予約を取っていない。
「あらあらロディア、口の周りにミートソースが」
「あ?」
セリアンに指摘され、自らの口元を手で触るロディア。
その手にはミートソースがべったり。
「うわっ!」
もはや分厚い口紅の如く真っ赤なロディアの口。
「あっはっは、ロディア貴族のオバサンみたい!!」
そう言って笑うエリレーンの口元も、ミートソースがべったり。
「う、うるせぇ! お前だって口元真っ赤だぞ、オバサンみたいだぞ!!」
「うげっ!!」
自らの口元を指先でなぞり、真っ赤具合を確認するエリレーン。
「うわぁっ、エリはもうオバサンだ!」
「ま、まだアタシはピチピチの16じゃぁ!」
お互いに口喧嘩を始めるロディアとエリレーン。
一方のバルゼフは未だ食事を継続中。
セリアンは微笑みながら口喧嘩を見守る。
カルラはため息を吐きながら、もう夕暮れの町へ宿探しに向かう。
「……ガキかよ」
愚痴をこぼしながら。
「明日はここ港町クラリンから山道を通ってホルムの村へ、そこから国境沿いにひたすら南下した所にある町、ミハエルって所までいく」
酒場でのどんちゃん騒ぎの後。
カルラが一人宿を探し、見事に予約。
モダンな感じが漂う、暖かい宿だ。
その宿のロビー。
そこにはアック傭兵団の面々が揃っていた。
「明日の依頼人はマロア商業隊だ。馬車の数は5つ、商業隊員の数は18人。結構な大人数になる」
そんなロビーの椅子にはロディア、バルゼフ、エリレーン、セリアン。
そして中央で明日の予定を説明しているのはカルラ。
「明日は早朝5時半には出発する予定だ。何しろ大人数でかなりの距離を歩くからな」
カルラは少し大きな紙をテーブルの上に置き、図を書いて説明。
「そして何より、明日の難所はこの山道。このクラリンとホルムの間にあるこの山道は、あのガルレット強盗団の縄張りって噂もある」
カルラの説明に対し、バルゼフとセリアンは真剣な眼差し。
しかし、ロディアとエリレーンはうとうと状態。
ガルレット強盗団
かつて人間と竜が戦った戦争。
その中で人間なのに、竜の味方に着いた者達も少なからずいた。
強い竜の力に屈し、嫌々竜の味方になった者もいれば、自ら進んで竜に媚を売り、生き延びようとした者もいた。
そんな竜の味方に着いた人間達は戦争の後、次々と捕まり、処罰を受けていった。
そして戦争から10年。
未だ竜の味方だと宣誓し、人間相手に強盗活動をしている盗賊達も僅かだがいる。
ガルレット強盗団はそんな竜派盗賊の中でも、1、2を争う程の巨大な強盗団なのだ。
「正直、強盗団と出くわした場合、俺ら5人だけでは商業隊を守り抜く事は出来ない」
そこでカルラは視線をテーブルの紙から四人へと移す。
「だからもし、強盗団に襲われた場合、身軽なロディアと俺がオトリとなり、バルゼフを先頭に三人はすぐさま迂回の道を行って欲しい」
山道には峠の道と、迂回だが山の外周を回る道の二つがある。
本来ならば峠の道を行き、少しでも近道をするというのが希望。
「しかし、それではロディアとカルラはどうするのですか?」
セリアンは真剣な面持ちでカルラに質問。
「俺達は少し時間を稼いだ後、峠の道を突っ切る。重歩兵と違って俺らは身軽な素早さが武器だ。うまく敵の攻撃をかわし敵中を突っ切り、山の麓で合流だ」
そう言ってカルラは右をチラ見。
そこには、
「…………ぐぅ」
「うぅん……」
既に夢の中へと旅に出たであろう、ロディアとエリレーンの姿が。
ロディアもエリレーンも口元を歪ませ、ヨダレの池をテーブルに作りあげていた。
「あらあら……」
「……コイツら、本当にガキだな」
暖かい目で二人を見つめるセリアンを尻目に、カルラはため息をついた。
「……まったく、コイツらは本当に昔から変わらねぇなぁ」
その時、カルラは一瞬だけ、とても寂しそうな表情を見せた。
ふと、物思いに更ける。
「……カルラ、明日早いなら、そろそろ寝ないと」
「……あ、ああそうだな」
バルゼフの言葉にカルラは反応。
「じゃあ明日は早い。みんな、もう今日は解散だ」
翌朝。
「マロア商業隊の隊長を勤めております、タグハーラ・マロアです。本日は宜しくお願いします」
「俺はカルラ・ロンドーニア。アック傭兵団の参謀だ。よろしく」
「そして俺が団長のロディア・アックだ! よろしくな!」
宿から少し離れた町の広場。
中央に噴水を構えるその広場には、アック傭兵団の面々と、マロア商業隊の面々が揃っていた。
「今日はガルレット強盗団の縄張りを通る事になる。いざという時はバルゼフを先頭に……」
出発前。
カルラはタグハーラに今日の予定や、盗賊の襲撃時の対応等を説明。
タグハーラ他数名の商業隊員達は、それを真剣な面持ちで聞いている。
一方。
「うわぁっ、すげぇなこの馬! 超でけぇ!」
ロディアは商業隊の馬に興味津々。
「コイツはシーザって名前でな、俺達マロア商業隊の大事な相棒なんだよ」
商業隊員の1人がロディアに説明。
「シーザか……とにかくデカイな! なんかデカイ!!」
「まぁ、シーザはウチの馬の中では一番大きいからな。大量の荷物を運ぶ商業隊にとって、馬の大きさは非常に大切なんだ」
「へぇ……」
実際、シーザの手綱は後ろの馬車に連結しており、とても力強さを感じる。
「まさに馬力だな!」
「あ、ああ……まぁそうだな、馬力だな」
「……?」
ちょっと空気が濁った。
「そろそろ出発する。バルゼフは先頭の馬の前、セリアンは中央右側、エリレーンは左、俺とロディアは後方に付け!」
太陽が昇り、空はもう青い。
そんな中、カルラが旅の出発を合図する。
「目指すはミハエルの町だ! みんな、気を引きしめて行け!!」
馬車はゆっくりと動き出す。
そして、旅は始まった。
クラリンから山道を通りホルムの村へ。
ホルムの村から国境沿いを通りミハエルの町へ。
山道の入口。
「ここまでは何事もなく来れたな……」
クラリンを出てから2時間。
一行は山道の入口でもある、ホルム峠分岐点まで来ていた。
「この辺りは草木が生い茂って視界が不十分……奇襲には十分な警戒をしませんと……」
セリアンの言葉に、ロディアとエリレーンはそれぞれ警戒の構え。
「ふん、敵なんか俺の剣で一撃で倒す!」
「アタシだって、この鉄鋼技術で敵を倒す!」
―――錬金術師。
錬金術師には二つの職種がある。
鉄鋼を融解し、それを手鎧や鉄武器に形状変換し戦う【鉄闘錬金術師】
もうひとつは、錬金術により誕生させるホムンクルスという生命体を操り戦う【魔術錬金術師】
エリレーンは鉄闘錬金術師。
彼女のポーチの中にはいつも鉄鋼が常備されている。
「ハッ、錬金術なんてみみっちいなぁ。戦士なら剣1つで戦ってこそ戦士だろ!」
「なによ! その剣の手入れをしてあげてるのは誰!? 錬金術師のアタシでしょ!?」
「錬金術なんてなくたって、俺は剣とやっていけらぁい!!」
「あっそう、ならもうアンタの剣のメンテナンス、してあげないから」
「何喧嘩してる? 早く馬車の警護に戻れ」
バルゼフの言葉に、ロディアとエリレーンはしぶしぶ持ち場に戻る。
「んだよ……やっぱり最強の戦士は剣士だろ……」
「錬金術師こそまさに最強よ……」
「いいから早く戻れ」
それは突然だった。
山道に入ってから、僅か10分足らず。
「……ん? なんだ?」
最初に異変に気付いたのは、シーザの手綱を握っていた商業隊長のタグハーラ。
「どうかしました?」
すかさずカルラが声を掛ける。
「いや、なんかシーザの様子が……」
タグハーラに言われ、シーザの様子を見る。
シーザは、何かに怯えるような仕草をしていた。
「……馬は人以上に殺気に敏感だ。……近くに誰かいるな」
カルラは咄嗟に長槍を構える。
「え、て、敵ですか?」
「分かりません。ただ、もしもの場合は予定通り、麓の道へ進路変更をお願いします」
カルラはそう言うと、皆に注意を促す。
「ロディア、エリレーン、バルゼフ、セリアン! 武器を構えろ!」
「っ!! ……敵襲かっ!?」
ロディアは鞘から剣を抜き、両手で構える。
「……姿はまだ見えませんね」
セリアンは中央に寄り、弓に矢を掛ける。
「いざとなったら、麓の道だよね」
バルゼフはその重鎧の背中から戦斧を抜き、正面に構える。
「ははーん、ただの盗賊なんかには負けないよ!」
エリレーンはポーチから鉄を取りだし融解、両手に手鎧を形成。
「商業隊の人は麓へ進路変更の準備を。お前らは絶対に商業隊を守り抜け!」
全員の気がはりつめ、空気が凍る。
「……ゴクリ」
唾を飲み込む音すら響く。
無音の山道。
その時……
ガサガサッ!
「……っ!!」
ロディアの目の前、草木の茂みが動いた。
「そこかっ!」
ロディアは剣を構え、一気に跳躍。
「待てロディア、罠の可能性も……」
カルラの言葉をお構い無しに、ロディアは斬りかかった。
「もらったぁッ!」
しかし……
「……ッ!?」
寸前の所で、ロディアは剣を止めた。
そしてロディア自身もフリーズ。
「……ロディア?」
セリアンの声が後ろから聞こえる。
「……セリアン」
「な、何?」
ロディアの声は、微妙に震えていた。
「……人が倒れていた場合、どうすればいいの?」
「人っ!?」
セリアンはすぐさまロディアの元へ駆け寄る。
「何? なんかいたの?」
そして、近くにいたエリレーンもロディアの元へ。
そこには……
「……え?」
「……これは?」
セリアンとエリレーンは困惑気味。
ロディアの目の前の茂みの中。
そこには、人が倒れていた。
金髪のショートの髪、背丈はエリレーンと同じくらい、つまり小さい。
「小さい言うな!」
そして、倒れている人は少女だ。
なぜ、少女だと分かったかと言うと……
「……ロディア、ちょっと失礼」
ぐさり
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
セリアンはロディアの目に指をぐさり。
「痛い痛いっ! 何すんだよセリアン!」
「いいから目を瞑っていて下さい」
そう言うとセリアンは、馬車から麻布を1枚持ってくる。
「エリレーン、悪いけど少し手伝ってくれる?」
「あ、う、うん!」
そう言って二人は彼女の体を麻布でくるんだ。
「……まだ息はありますね。一旦馬車まで運びましょう」
「うん、分かった」
二人はそっと彼女を抱え、馬車へ。
ロディアは未だ痛みと格闘中。
「目がッ!」
これが、ロディア達との出会いだった。
次回中編!
アック傭兵団が助けた少女の謎、ガルレット強盗団の影の薄さ、そして明らかになる傭兵団の過去!
全ては次回に!