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春虫秋草  作者: 親不知
3/4

2話

「村長。おはようございます。」

 僕と兄さんは村長の家に入り、村長に挨拶をする。

 「おお、来たか。まあとりあえず、奥の客間で話そう。」


 僕等は、村長について、客間に座る。隣には、村長の家の長女の杏子が座った。

 杏子は10歳の頃から、巫女として、鎮魂祭で舞を舞っていた。


 「もしかして、杏子は全て知っているのですか?」僕は尋ねる。


 「そうだ。まあ、全てと言っても、杏子も、神葬には参加しておらず、鎮魂祭の後は眠っている。だが、話は全部知っている。」


 「そうですか・・・。それはとても辛かったですね。杏子さん。」

 杏子は終始、こちらを向かなかったが、その時だけこちらを向いた。そしてまた、すぐに目を逸らす。


 「恐らく、杏子はこの村の中で、儂の次に、神葬については詳しい。必ず、役に立ってくれるだろうから。面通しをしておこうと思ってな。杏子挨拶しろ。」

 

 「杏子です。」

目線を合わせず、それだけ言うと、杏子さんは黙る。


 「すまんな、愛想がなくてな。昔は、結構明るい娘だったんだが、まあ、伊佐奈の事があってから、あんまり話さなくなってな。」


 僕らは、少しの沈黙を空け、仕切り直し、僕は、


 「先ずは、神葬について知ってる事を聞きたいんですが、何処まで、詳しく伝わってるんですか?」

 と本題に入る。


 「神葬が始まったのは儂の曽祖父の代からだ。一応これが曽祖父の日誌の様なものだ。ここに書き記してある。」


ーーー曽祖父の日誌ーーーーーー


 子供の頃、昔から伝わっていた、言伝えがあった。

 あそこの社には、絶対に近づいてはならない。

 山に入ることも禁じられていた。


 私は村長の家の長男に生まれ、昔から、次の村長になるべく育てられてきた。

 5つ下に双子の妹と弟がいた。2人ともとても大切な私の兄弟だった。

 父は、村の事で忙しく、母は2人を産み、すぐに亡くなってしまったので、私はよく2人の世話をしていた。

 妹は甘えん坊で、よく私の後をついて回り。よく

「お兄ちゃん。おんぶ!」とおんぶをせがんでいた。

 弟は、酷く真面目、で頭が良い奴だった。本当ならば、弟が家を継ぐべきだった。

 

 「阿古耶、お兄ちゃんは忙しいんだから、あんまり迷惑かけちゃだめだぞ。」


 「何で、夏樹に言われなきゃいけないのよ。いっつもお兄さんぶらないで。」


 と、いつも、次男の夏樹が、末っ子の阿古耶に世話をやいていた。

 私たちはそんな平穏な日常が、いつまでも続くと思っていた。



 だが、ある日、村に野盗の集団が入ってきた。

 その野盗は村人を殺して回りながら、食料等を奪っていった。

 そして、村人達は山の中へ逃げるしか無かったのだ。 

 その頃には、言伝えは本気にされては居なかった。

 しかし、村の決まりとして、私の父が、立ち入らぬよう気を配っているくらいだった。

 だから、皆、命よりも言伝えを軽んじるのは、至極真っ当だった。

 だが、野盗は山までも追って、村人を殺そうとした。

 そして、私は親と逸れ、一人頂上の社へ辿りついた。

 そこで、扉を固く縛っていた縄を刃物で切り、社の中へ逃げ込んだのだ。

 震えながら、扉を抑え、身を隠していると、後ろから、女の声がした。


 「坊や、どうしたの?」


 私は咄嗟に後ろを向くと、赤い着物を着た、息を呑むほど美しい女が後ろに立っていた。

 私はその時、村の生き残りが逃げてきたのだと思ったが、こんな女の人は村では一度も見たことは無かった。

 私は恐怖や、驚きが入り混じり、声を出せずにいた。


 「もう、大丈夫。ここなら安全よ。」


 女の人はニッコリと、優しく笑った。

不思議と私は落ち着き始めていた。こんな状況なのに、この人と話していると、何故か安心できた。


 「あの、お姉さんは村の人じゃないですよね?」


 「いいえ、ずっとずっと、昔からここにいるのよ。」


 「ここに?もしかしてこの社にいたのですか?」

 確かに、ここには村人は入ってこれず、はいれるのは村長である、父だけだった。

 父意外の人はここに人がいたとしても気づかないだろう。

 しかし、縄で厳重に閉じ込められていたところを見ると、もしかして、犯罪者を閉じ込めていたりなんだろうかと、頭でグルグルと思考を巡らせる。

 

 「大丈夫よ。怖がらなくていいわ。」


 女の人は、私が黙り込み考えていると、優しく言葉をかけてくる。


 「坊や名前は?」


 「と、冬夜。」

 

 「冬夜。もし、貴方が村長になり、貴方の村で、毎年、一人子供が居なくなるとするわ。そして、その代わり、今回の様な事からは一生守ってもらえる。そんな道があるなら、どうする?」


 「え?今、そんな事言っている場合じゃ・・」


 「冬夜。」

 女の人は鋭い目線で私を見つめる。私は女の人の圧に飲まれ、考える。

 

 村は毎年、毎年、生きていくのが楽なわけでは無かった。災害が起これば、大勢死んでしまうし、今回のような事だって、ないとは言い切れない。


 「分からない。分からないよ。確かに今回見たいな事が起こるくらいなら、もしかしたら、その犠牲でもっと多くの人を助けられるかもしれない。でも、そんな事赦されるんだろうか。誰にそんな事する権利があるのか。」

 私が、答えを出せずに悩んでいると、女の人は私をまっすぐ見て、


 「私にはその力があるわ。」

 

 「え?」

私は悩み、伏せていた顔を上げる。


 「貴方が選びなさい。私と契約するなら。私が貴方達を助けてあげるわ。」


 「な、何を。」


 「この間にも、貴方の兄弟や、村の人達は殺されているのよ。」


 「そ、そんな事言われたって。僕にはどうしようも。」


 「私なら、助けてあげられるわ。」


 「訳がわからないよ。何を言っているの。」

 

その時、扉が大きな音を立てて開いた。


 「みぃつけた。」

 社の扉を空け、2人の男の野盗が入ってくる。

手には、子供の首を持っている。

 私は、腰が抜けて足が動けず、

 「ひ、ひ、」

としか言葉が出ない。


 野盗は一歩ずつ近づいてくる。

何故か、その時には、野盗からは女の人は見えていない様だった。


 「あーあー、怯えて可愛そうだねえ。大丈夫だよ。すぐにこの子たちと一緒になれる。」

 そう言いながら、持っていた子供の首をの目玉を舐める。

 こんな、こんな事が出来るのか。もし、これが阿古耶、夏樹だったらと思うと、僕は恐怖と共に、憎しみを覚えた。こんな奴ら、こんな奴ら、死んでしまえば。


 そうすると不意に頭のなかに、

「冬夜。願いなさい。私ならやってあげられるわ。」と声が響く。


 僕はぼそっと

「やって。こいつら皆殺しにして。」

そうすると野盗は、急に僕の後ろに目を向ける。


 「ああ?なんだいつからそこにいた?」


 「うふふ。」

 女の人は野盗たちのほうへ歩み寄っていく。ずっと、僕には見えていた女の人を、急に、野党も目視するようになっていた。

 野盗は全く恐れもしない、女の人に苛つきを感じたようで、


 「舐めやがって、このアマっ!」

と言いながら、そのまま持っていた刀を振り下ろし、女の人の首を切断した。

 女の人の首は僕の前にコロコロと転がってくる。その顔は何処までも笑顔だった。


 野盗は

 「次はお前だなあ。」

と言い近づいてくる。その時、野党の足が変な方向にネジ曲がる。

 野盗はそのまま、その場に崩れ落ちる。

 「あ?ああ?」

 野盗は状況を飲み込めず足元を見る。そうすると首のない女の人の体の腕で男の足を掴んでいた。

 女の人の体はブリッジの様に、蜘蛛のように歩き始め、男の周りをぐるぐると徘徊する。

 もう一人の男は女の人の体を斬りつけようとするが、素早く後ろに回られ、首をねじ切られる。

 「な、なんだ、何なんだこれは。」

男が叫ぶ。すると、次は男の右腕に掴みかかり、両の手で掴むと、足で体を回転させながら、ねじ切る。


 「がぁツツツツツツツ」と声にならない声をあげる。そのままの勢いで、男の首を捩じ切ると、そのまま社を出ていき、山へ、蜘蛛のように走っていった。

 そして私の前に転がっている女の人の首は、ケタケタと笑っていた。


 私は怖くなり、社を飛び出ると、所々から、野党の叫び声が聞こえていた。

 私は、兄弟や、父の事を思い出し、村へ向かった。

 村へ向かう途中、凄惨な殺され方をした、野盗の死体がいくつも転がっていた。

 村人も何人か死んでいたが、野盗よりも、よっぽど綺麗な死体だった。



 村へ着くと。何人か村人が集まって来ていた。

 「冬夜、冬夜生きていたのかい?」

後ろから、隣の家のおばさんが駆け寄ってきた。

 「阿古耶は無事よ。あっちにいるわ。すぐに行ってあげなさい。でも、夏樹が、大変なの。早く行ってあげなさい。」


 僕は、おばさんについて行くと、そこには、片手、片腕のない夏樹が、寝かされていた。近くでは阿古耶が泣きじゃくっている。


 「夏樹!夏樹!大丈夫か。」

俺は寝ている夏樹の前に座り込む。


 「兄さん・・・。」


 「夏樹!夏樹!」

俺はパニックになっていた。だが、近くには村のお医者様の凪様がいて、

 

 「冬夜、大丈夫、命には別条はない。だけど、野盗に手足を切り捨てられてしまってな。」


 「夏樹は私を庇ってくれたの、私のせいで。」と阿古耶は言う。


 「私が殺されそうになった時、夏樹は野盗に僕を殺すかわりに妹を助けてくれって。そうしたら野盗が、夏樹の腕を斬って、これでも言えるか?って。夏樹はそれでも私だけは、助けてくれって。そうしたら次は足を斬って。それでそれで。」


 「阿古耶。もう大丈夫。分かったよ。夏樹。お前は本当に凄いやつだよ。俺は怖くて逃げてしまった。済まない。本当に済まない。」


 「兄さんは生きなきゃ。だって兄さんがいなかったら、この村を誰が纏めるのさ。」


 「済まない。済まない。」

そう言っていると。


 「でも、神様が助けてくれたの。」

阿古耶が不意に言う。


 「怖くて、怖くてたまらない時に、野盗から私たちを守ってくれたの。姿はよく見えなかったけど。赤くて、綺麗な着物で。」


 そうか。そうか・・・。私は心の底から、あの女の人に感謝した。私は阿古耶と、夏樹を彼女のおかげで失わずに済んだのだと。

 私は目を閉じて下を向く。

 そうだ。一からやり直そう。一から少しずつ前を向いて。


 「阿古耶、夏樹、俺、今はこんなだけど、絶対お前たちを守ってやれるよ・・」

 と俺が目を空け、夏樹に顔を向ける。


 「兄・・・さん。」

夏樹は目を見開き、俺の隣をみる。

 ドンッと俺の膝に、何かが落ちてくる。

理解するのに時間がかかった。

 それは阿古耶だった。

阿古耶の首だった。

俺は何も言えず、呆然としていた。


 「貴方が選んだのよ。冬夜。貴方が毎年一人、子供を殺す約束をしたのよ。」


 人間とは思えないけたたましい笑い声が響く。そこにいた誰も声を発する事が出来ない。

 私は黙ったまま、阿古耶の頭を抱え、抱きしめた。

 夏樹は何も言わず、空を見ていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 僕は日誌を読み終えると、村長の方を向いた。

 「これが、神葬の始まりなんですね・・・。」

 僕はそれ以上、何も言えなかった。累はもっとも人を苦しめるやり方を選ぶ。

 冬夜さんに、自分が妹を殺させたと、罪の意識を背負わせるためにやったことなのだろう。


 「お前達が、戦おうとしている、奴はこんな奴なんだよ。創。これでも戦おうと思えるか?」


 「村長。」


 「なんだ。辞めたければ、辞めたっていい。子供のお前達が背負うには重すぎる。」


 「この、契約、気になりませんか?」

 

 予想していなかった言葉に、村長も、兄さんも、杏子さんも僕を見た。


 「累はここまで、絶対的な力を持っている。確かに、冬夜さんを苦しめるためにわざと契約という形をとったとも、考えられる。けれど、累は神葬においても、ルールを破りませんよね。

 これは破らないんじゃなくて、破れないとも、考えられませんか?

 ルールを守っている間しか、力を出すことは出来ない。そう思えば、そこに打開策がある様に思えませんか。」


 皆、黙っていた。村長は驚きの眼差しで僕を見て、言う。


 「言われて見れば、確かにそうかもしれん。儂らは、累の恐怖を皆知ってしまっている。だからこそ、見えなくなってしまっているのかもしれん。こんな事にすら盲目になるほど、絶対的な存在として。」


 「それすらも、累の思惑だと思いませんか?愉しんでいると、村長は言っていましたが、本当は根っこにある弱点を隠すため、わざと凄惨な事をするのではないでしょうか?」


 「創・・・。もしかしたら本当にお前は何とかしてくれるかもしれん。お前だけが、本気で、累と戦おうとしている。今まで皆目をつぶって見て見ぬふりをしてきたのに。

 本当に、情けないな俺達は。」

村長は黙って、暫く顔を伏せる。


 「真よ。」

 兄さんは急に話しかけられ、顔を向ける。


 「お前は、もしかしたら、自分を今、情けなく思っているかもしれん。いつも、強気だったお前が成すすべなく、心も折られてしまった。 

 自分など、何もできないかもと、思い始めてるかもしれん。

 だがな、お前の弟は恐怖しながらも立ち上がった。しかし、それでも一人では、折れてしまうかもしれん。

 そんな時、お前が支えてやれ。一人で戦うのと、誰かと戦うのでは全然違う。お前は・・」


 兄さんは舌打ちをしながら話に割り込む。

「五月蝿えな。そんな事は言われなくたって、分かってんだよ。

 勝手に折れてるだの、決めつけやがって、どいつもこいつも俺を舐めやがって。

 次は絶対殺してやるさ。」

と、兄さんは話を聞かずに出ていった。


 「ははっ。あいつらしいな。」


 「うん。いつもの調子が戻って来たかもですね。」


 「他に、のこっている文献等はないのですか?」


 「ああ。何故か、書き物として残っているのは、この曽祖父の日誌しかない。

 祖父の日誌すらのこっておらん。我らは口伝でやることのみを伝えられ、累の姿を見せられる。そうやって、続いてきたのだ。」


 「そうですか。確かにこれだけでは情報が少ないですね。」


 「一応、山の中には社のほかにも、禁止区域として、記されている所がいくつかある。」


 「そこには行っていないのですか?」


 「地図の場所を探ろうとした事はあるが、何故かたどり着く事は出来んのだ。」


 「村から出れないのと、同じ様に、何か不思議な力が働いているのかもしれませんね。」


 「ああ。そうかもしれん。成す術はないかもしれん。」


 「私がいれば、いけると思いますよ。」

杏子さんが急に入ってくる。


 「え?」

と、僕らは声を合わせて言う。


 「巫女には特殊な力があるんです。ちなみに私だけはこの村から出ることが出来ます。」


 「な、何故そんな大事な事をずっと隠していた。」


 「だって、父さんはもう、諦めていたから。この村の大人は恐怖に怯え、目を背けてたじゃない。

 言ったって、聞かなかった事にしたんじゃないの。」


 「お前。ずっとそんな風に思っていたのか。喋らなくなったのはショックからじゃないのか?」


 「ショックだったわよ。伊佐奈が死んでも、何もしようとしない父さんたちの情けなさに。

 娘が死んで、それにすら目をつぶって。」

杏子さんは少しずつ語尾を強めていく。


 「本当に情けないわよ。大人なのに、いつも逃げてばっかり。

 それで、次はこんな子供に何とかしてもらおうだなんて情けなさすぎるわよ。

 大体何よ、累の姿をみただけじゃない。それで、折れなかったからって、何で、そんなに信用出来るわけ。

 さっきのだって、ちょっと視野が広いだけのことじゃない。この子に何ができるっていうのよ。

私はずっと、ずっと、伊佐奈の敵を討ちたかった。

 だから戦う為にずっと巫女として色んな物を見て、色んな事を試していたのよ。あんたらみたいになりたくないからっ!」



 「杏子さん!」

僕は少し大きめの声で杏子さんの話に割り込む。

 

 「違うよ。逆なんだよ。村長はずっと逃げなかったんだよ。子供を殺さなければ、杏子さんがもっと酷い目にあって、殺されてしまうかもしれない。

 恐怖に怯えて逃げていただけの人が、何年も何年も壊れずに、子供を殺し続けられると思う?自分の子供を殺した時だって、壊れてしまいそうだったかもしれない。

 でも、守りたいものがあるから。壊れるわけにいかないんだよ。娘にこんな風に恨まれてでも、確実に守れる道を選び続けてきたんだよ。」


 「何よ偉そうに。あんたに何が分かるのよ。最近、神葬の事を知った貴方に、私たちの何が分かるのよ。

 あなただって、何もせず、見ていただけじゃない。」

と、静止した、僕に杏子は言い返す。

そうすると、村長が低く、強い声で


 「黙れ。」

 と言った。

 僕も杏子も急な村長の気迫のある言葉に息を呑む。


「分かっていないのはお前の方だ杏子。あの現場を直接見ていないお前に分からないんだよ。創はな、俺達が、ずっと怖くて、動けず、戦う意思すら折られ、後ろを向くことしかできなかったのに、一人、覚悟を決めて、前を向いていたんだよ。

 怖かっただろうに。今、思い出したって、こんな安全な場所にいる時だって、立ち向かおうだなんて、思えないんだよ。それにな、見ていただけじゃないぞ。創はな、儂らに覚悟を見せるために、儀式を自分が肩代わりしたんだ。」

 杏子さんは目を見開き、僕の方を見た。

 

 「貴方、子供を殺したの?」

 僕は、目を逸らさず、杏子さんのほうを向いて、頷く。


 「あんた達の可笑しいんじゃないの。そんな物を覚悟だなんて。ただの殺しじゃない。何で、そんな平静でいられるのよ。」

 僕は何も言い返さない。


 「そんな覚悟なんてものに酔って、してやったつもり。自分なら人も殺せるんだからって、したり顔して、また、殺すの?

貴方達やっぱりおかしいんじゃないの?」

 僕は黙って聞いている。


 「何よ。何なのよ。何で何も言い返さないのよ。」


 「そんな事、創が一番分かっているからだろ。」

 後ろから、兄さんの声がする。

いつから聞いていたのか、今の入り口に立って話に混ざる。


 「本当に好き勝手、言いやがって。そいつの覚悟ってのはな、お前見たいな奴に、責められること、人殺しの罪を背負うこと。そんなもん最初っから分かってんだよ。

 それでも、もう、伊佐奈の様な目に誰も遭って欲しくないから、一人でも戦う覚悟をしてんだろうが、お前見たいな奴はな、自分の手を汚しもしねえで、机上の空論語ってるだけの妄想野郎なんだよ。

 てめえみてぇな奴が俺は一番嫌れえなんだよボケカスが。」

 

 「ちょっ、ちょっと兄さん言い過ぎだって。ボケカスとかは言わなくて良いって。」


 「煩い。あんた達なんか私がいなかったら、禁足地にだっていけないくせにっ!」

そう、吐き捨て、杏子さんは走って出ていった。


 「兄さん。追いかけて謝りなよ。」


 「けっ!なんで俺が、気になるんなら、お前がいけ。」


 「まあ、このくらい言われるのもたまには悪くないだろう。あいつも」

と、村長も言う。


 「2人とも、ちょっと、僕見てきますから、失礼しますよ。」

 と、僕は言い残し居間を後にする。


 「真。これが、お前なりの戦いか?」


 「チッ!」

っと舌打ちをして、真は続ける。 

 

 「俺にはあいつほどの、力はないかもしれねえ。だけどかわりに、あいつの邪魔をするやつ。あいつを否定するやつ。全員俺が叩き潰してやる。俺だけはあいつの事をずっと信じて、支えてやる。」


 「そうか。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 僕は家の外に出ると、庭の端っこで杏子さんがうずくまっていた。


 「杏子さん。」


 「何よ。」


 「ごめんね。兄さんはいっつも口悪くて。でも悪い人じゃないんですよ。あれでいて結構優しくて。」


 「また、謝ってばっかり。あんた達、皆、人のことばっかりじゃない。私だけずっと、貴方達の事を批判して。    

 自分は何も出来てないのに。」


 「うーん。兄さんも、僕も、杏子さんとおんなじ事を言ってたんだよ。ずっと。」


 「え?」


 「ずっと、大人は何やってるんだって。人殺し集団だ。なんて。でもね、違ったんだよ。僕らはずっと大人たちに守られてたんだよ。確かに、恐怖に負け、言われるがままだったのかもしれない。

 でもね、皆泣いてた。泣きながら耐えてたんだよ。そして、そんな前で、村長はずっと、その憎しみや、悲しみを背負いながら、僕らとは違う形で戦ってた。

 そんな姿をみちゃったらさ。ね。」


 杏子さんは下を向いて黙る。杏子さんだってそんなこと、わかっているんだ。だけどそれでも、許すことが出来ずにいるんだ。

 そして、何も出来ない自分も責めているんだろう。


 「そんなに怖いの?累は?」

 僕は伊佐奈の無惨な姿を思い出す。今でも、思い出すだけで、心の臓を掴まれたように息苦しい。

 そして、心から杏子さんが、あの場にいなかったことを安堵する。


 「僕らは、あの兄さんですら、杏子さんにだったら、お前も累を見てみろとは言えないと思うよ。

 それほどまでに、累は恐怖の対象だよ。出来ればもう、誰も累と遭遇してほしくないと思うほどに怖くて堪らないんだ。」


 「・・・」

 杏子さんは黙って僕の顔をみている。


 「本当は杏子さんだって、巻き込みたくない。でもね、巻き込んででも、止めなくちゃならない。

 だから、僕たちに力を貸してくれないかな。」


 「杏子でいいわ。」

 

 「え?」


 「なんか、あんた達にさん付けで呼ばれんのムカつくし。」


 「うん。じゃあ杏子。これから、1年、頑張って、神葬を無くそう。」


 「私、あんたの兄さん嫌い。」


 「ありゃ、まあ、兄さんの良さはちょっとずつわかるよ。あれでいて、ずっとかっこいいんだよ。兄さんは。」


 「でも、怖くて何も出来なかったんでしょ。あいつ。あんたの方が強いって、父さんも言ってたじゃない。」


 「いや、そんな言い方してなかったけど、まあ、でもね。違うんだよ。兄さんは僕が強いって思ってるけど。兄さんが強くいてくれるから僕は強くいられるんだよ。」


 「ふーん、何それ。あんた何かいっつも回りくどい言い方するわね。」


 「あはは。」


 僕らは遠く、ゴールすらあるのか分からない道のりを、それでも一歩ずつ進んで行くしかない。

 いつまでも諦めずに、まだ、もしかしたらと思いながら、一歩ずつ。

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