1話
「兄さん!それ以上やったら死んじゃうよ。駄目だって!」
兄さんは昔から喧嘩早く、よく、人と喧嘩していた。でも、悪い人でも無かった。仲間うちを守るために手を出すことも多かった。
そんな、僕らの住む村は、毎年、子供が一人いなくなる。何故かは分からないが、1月1日の夜、子供が一人いなくなる。
皆、昔から目を離さない様にしているが、どうしてか、11時以降の記憶が無く。目を覚ました頃には子供は居なくなっているらしい。
村人達はいつしか諦め、神のもとへ呼び出されるのだと。ありがたい事なのだと。
僕らも何度か、寝ずに過ごそうとしているが、何故か眠ってしまっている。そんな不思議な村だった。
「兄さん。また、喧嘩したんだって?いい加減いつか痛い目をみるよ。」
「俺は、強いからな。俺が負けることはないんだよ。」
「兄さんはそう思ってるかもしれないけど、もし、集団で襲われたりしたらどうするのさ。」
「別にやられたとしても、必ずやり返して、もう手を出したくないと思えるまでしつこくつけ狙ってやるさ。」
「はあ、まあ言っても聞かないのはわかってるけど。。。そう言えば今年ももうすぐだね。鎮魂祭。」
僕らの村では子供が居なくなるのに合わせ、子供を事前に灯らう、鎮魂祭と言う祭りを行っている。村の子供の人数分蝋燭のついた舟を並べ川に流す。そして巫女が舞を踊り、皆で手を合わせる。
そこからは、出店なども出て賑やかに過ごす。皆不安だが、それをかき消すように皆で騒ぐのだ。
また、子供が居なくなることを、神のもとへ送る。という事で神葬と呼ばれていた。
「そうだな。なあ、俺、今年こそはどうにか神葬の正体を探ろうと思ってんだよ。」
「でも、散々やったじゃないか。兄さんが食事に睡眠薬が、入れられてるからって言うから、食事食べたふりで済ませてみたり。まあ、毎年色々試してるけど本当に毎回だめだよね。」
「ああ、だが、神なんているわけがない。絶対に人間の仕業だ。俺らの村の誰かが仕組んだことだ。」
「そりゃ、僕だって、信じてないけど、どうしようもないじゃないか。」
「これ、なんだかわかるか?」
「ガスマスクみたいなもの?」
「ああ、毎年、村全体を囲う霧が出るだろ?あれはもしかしたら人災なんじゃないか?」
「でも、そんなの村の人だって一度は考えたことあるんじゃない?」
「もし、狂った村の人間の大人全員の仕業だとしたら、実は全員回避して、後で子供を一人連れ去ってるかもしれないだろ。子供にゃ、ガスマスクなんて作れないだろうしな。」
「何で兄さんは持ってるのさ。うーん。そうなると僕らの親も疑わないといけなくなるよね。」
「俺は、グルだと思ってるぜ。あんな風に神の仕業だと本当に心の底から思っている連中だしな。」
「僕はそうは思いたくないけど、まあ、じゃあ今年はその線で進めてみる?」
「何こそこそ話してるの?」
と、後ろから声がして、バッと後ろを振り返ると、隣の家の陽子が立っていた。
陽子は僕らより二つ年が上で、僕らとよく一緒につるんでいた。
「あー、なんだ、陽子か、何でもねえよ。向こう行ってろ。」と、兄さんは冷たく突き返す。
「何?また、神葬のこと、何か企んでるんでしょ。何度も色々試したけど無理だったじゃない。もう諦めなさいよ。悲しいけど。」
「これはな、悲しいで、済ませていい話じゃねえんだよ。村ぐるみの集団殺人の可能性だってある。」
「そんな風に、思ってたら、もう村の人誰も信用できないじゃない。そもそも、村から出ようとした人たちだって何故か、村から出れないのよ?どう考えたって、何か不思議な力が働いているとしか思えないじゃない。」
陽子の言う様に、村から出ようとする人達は何人かいた。だけど何故か何度試しても村に戻って来てしまうのだ。
「それすら、大人全員が、グルだったらできない話じゃないだろ。迷ったふりをして、戻ってこりゃ良いし。」
「でも、貴方達だって、貴方達だけで出ようとしたじゃない。それも失敗したんでしょ。」
僕らは以前に村から出ようとした事がある。しかし、僕らも道に迷ってしまい、戻ってくる事になってしまった。
「まあ、何か幻覚作用なり、方向が分からなくなるような仕掛けがあるのかも知れん。とにかく。この神葬を眠らずに突き止めるしか現状打開策はねえ。」
「貴方達、あんまり、やんちゃし過ぎないようにしなさいよ。ただでさえ、神葬で毎年一人いなくなっちゃうのに、変な事で危険な目にあわないでよ。もう、居なくなった子達の事も忘れるしかないのよ。」
陽子は目を伏せ、悲しそうに言う。
「陽子にも一応渡しとく。これを夜、気づかれない様に、付けておけ。」
「あんた、人の話聞いてたの?大体何よ、これ?」
「ガスマスクだ。今回はあの霧に焦点を宛てて試してみる。」
「私は良いわよ。もう、自分の番だったら諦めるしかないじゃない。」
「陽子。」
と、兄さんは強引に差し出す。
「もしかしたら、今回は俺らの番かもしれない。でも、これが、成功していればそれを回避できるかもしれない。そんな事で生き延びれるかもしれない。」
兄さんは結構、危ない目にも遭ってきた。だから、小さな準備が、どれだけ大切かを知っているんだ。本当に小さな事で命取りになってしまうことを。
「わ、わかったわよ。」
陽子は渋々受け取る。
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鎮魂祭当日、僕らは川に浮かぶ蝋燭を眺め、ながら巫女の舞を見る。
蝋燭の日に照らされ、巫女の赤い着物は煌々と光り、いつ見ても美しく、けれど儚く、僕らに、毎年、重くのしかかる。
舞が終わり、僕らは出店を巡る。
焼きそばを買い、僕らは河原に腰掛ける。
「何度見ても、やっぱり悲しい気持ちになるわね。この夜は。」
陽子が体育座りで膝に顔を埋め、川に視線を向けながら言う。
「そうだね。やっぱり誰か一人いなくなるんだって。突きつけられるようで。」
「今年で終わりにしてやるさ。こんな事。」
「真、本気なのね。毎年。毎年。ちょっと、羨ましいわ貴方の強さ。やっぱり、私は怖いもの。」
「大丈夫だ。次こそは絶対に。」
僕は知っていた。本当は兄さんも怖い事を。兄さんはいつも小さく震えているんだ。暗がりで見えてないと思っているだろうけど、隣に座ってしまった僕には見えていた。
「創も付き合うんでしょ。今年も。」
「うん。僕は兄さんを信じているからね。とりあえず、兄さんの手伝いをするよ。」
「本当、あんた達兄弟は強いよ。いっつも前ばっかり向いてる。」
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10時頃になり、皆家に帰宅し始める。
「じゃあ、また明日。」
「また明日。」
「ああ。」
お互いに明日の約束をして、僕らは家路につく。
「創、バレないようにやるぞ。」
布団についた僕らは布団を深めに被り、口元を隠すように寝たフリをする。
10時半
親も寝静まり、辺りは静まり返る。
10時45分
いつもながら少し、ドキドキする。段々その時が近づいてくる。
10時59分
いつもこの辺りで記憶がなくなる。ここまではいつも、目が冴えるくらい起きている。
11時5分
僕は、いつになく、興奮していた。多分成功したのだ。兄さんが言う様に本当に霧が理由だったのだと思った。
11時半
足音がし始める。両親が起きたのだ。僕はショックを抑えきれなかった。これで何かしら、僕らの両親も神葬に関わっていることが確定してしまったのだから。僕らはずっと、大人に騙されていたのだ。
両親が家を完全に出ていったことを確認すると僕らは身を起こした。
「兄さん。」
「ああ。」
僕らはそれ以上何も言わなかった。そのまま立ち上がり、辺りを警戒しつつ、陽子の家に向かった。
陽子の家も同様に親はいなくなっていた。
中に入り陽子に話しかける。
「陽子。」
陽子は震えていた。
「陽子。俺等は、大人を追いかける。お前はここに残ってもいいぞ。」
陽子は震えているだけで答えなかった。
兄さんは、黙って立ち上がり外へ出ようとするが陽子に裾を捕まれ、静止する。
「ねえ、私たちは、今回助かったじゃない。だから、ねえ。今回は良いじゃない。また来年やれば。」
陽子は震えながら声を出す。今にも泣きそうなか細い声で。信じていた大人に裏切られ、支えを失った陽子は、本当に小さな子供のように見えた。
「俺達は行く。来年も乗り切れるという保証はないし。大丈夫だ。お前はここにいれば。」
陽子は涙を堪えきれず、涙を流しながら言った。
「あんた達の事を言ってるのよ。お父さんもお母さんも、もう信用できないじゃない。私、あんた達までいなくなっちゃったら、一人ぼっちになっちゃうじゃない。
良いじゃない。もう辞めましょうよ。また1年考えればいいじゃない。そうよ。一先、また1年、計画立てましょうよ。次は私だって本気でやるから。ねえそうしましょうよ。」
陽子は駄々をこねる子供の様に兄さんにすがりついた。いつもお姉さん風を吹かす陽子はそこには居なかった。目の前にいるのはただの女の子だった。
「今日も、来年もまた一人、子供が死ぬんだよ。陽子。」
兄さんでなく、僕からの思いがけない言葉に陽子はこちらを向く。
「僕も、兄さんも確かに怖い。毎日、毎日。でも、伊佐奈が居なくなった時に、決めたんだ。絶対に神葬を無くそうって。」
僕らは元々4人でよくつるんでいた。だけど、5年前、伊佐奈という少女は9歳という若さで、神葬で居なくなってしまった。
僕らが本気で神葬の正体を探ろうと思ったのはこの時からだった。
「僕らはもう、あんな想いも、したくないし、誰かにさせたくもない。どんな事よりもそれが怖い。だから僕たちは行かなくちゃならない。大丈夫。絶対に大丈夫。僕らは戻ってくるよ。」
「私だって。私だって。もうあんな想いしたくないわよ。でも、体が、動かないのよ。どうしても怖くて怖くて、信念よりも恐怖が勝っちゃうのよ。」
「陽子。僕らは色々調べているから。こんな物も手に入れてる。」
と、僕は小瓶を陽子に渡した。
「これには睡眠薬が入ってる。これを飲めば、朝起きたときには、神葬もなくなって、僕らも帰って来てる。これを飲んで寝たらすぐそうなってるさ。」
僕らは泣きじゃくる陽子が眠るのを待ち、眠るまでそばにいた。そんなには掛からず、目を泣き腫らし、陽子は眠りについた。
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山の頂上へ向かって、遠くからでもわかる様に、松明の火がずらずらと登っていく。まるで、鎮魂祭の蝋燭をみている様だった。
「山頂に向かっているみたいだね。」
「ああ。」
「ん?どうしたの。何かあんまり喋らないね。」
「創、お前、変わったな。」
「え?」
「昔は俺の後ろで泣いてばっかりいたのに。強くなった。」
「まあ、そりゃ兄さんについて回ってればね。自然と。」
「陽子に行くなって言われた時な、本当は俺は、少し揺らいだんだよ。お前が、もし、伊佐奈の話しをしなければ、俺だって揺らいでいたかもしれない。伊佐奈の事があって、ずっと覚えていたのに、あの一瞬、俺は伊佐奈の事が頭から完全に無くなっちまってた。でもお前は、見失わなかった。」
「兄さん・・・」
「本当、お前にゃ、救われるよ。後ろを歩いると思ってたら、いつの間にか前を歩いていやがる。」
「兄さんらしくないね。」
「まあ、こんな時ぐらいはな。」
「そうだね。」
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一行がついた先は社だった。当に、神に捧げる生贄という様だった。
「本当に人が、生贄にされてたんだね。」
「ああ、狂ってる。こんな事を何年も。」
大人たちの先頭には、神輿に乗せられ、村の10歳程の女の子が眠っている。
神輿を拝殿の前に下ろすと、村長が前にでて、何か、口上を述べる。そして村長は、拝殿の賽銭箱の中に手を入れる。
村長が取り出したのは日本刀だった。
僕らは嫌な予感に肝を冷やす。
村長は女の子のほうへ歩き始める。
まさか、そこまでやるのか?もしかしたら、殺すかもとは思っていたが、もっと楽な方法を取るのだと思った。こんなにも無情な事ができるのだろうか。少女の親らしき夫婦は、声を抑えられず泣いている。なのに止めようとはしない。何でだ、何でこんな事が。
兄さんは、たまらなくなり、飛び出る。
「おい!お前ら正気か!そんな子供を大人で囲んで殺しやがって。伊佐奈もそうやって殺しやがったのか!」
僕は裏で待機し、裏工作をする。僕らはガソリンをまきながら、登って来ていた。いざと言う時は、山火事を起こしてでも終わらせようと思っていたのだ。
村人達からどよめきの声が上がる。だけど誰も動かない。止められると思っていた僕らは不思議に思う。
「そうか。いつかは誰かが、見つけてしまうと思っていたが・・・そうか、真、お前か。そうだな。お前は伊佐奈と仲が良かったものな。」
伊佐奈は村長の娘だった。伊佐奈が亡くなった時、村長は本当に悲しみに落ちていた。苦しんでいたように見えた。
「真。仕方がないんだ。どうしようもないことなんだ。」
「どうしようもないだと。現に、今、あんたが女の子を殺そうとしているんじゃないのか。あんたが辞めれば済む話だろ。」
「この儀式はな、真。お前たち子供を守るためにあるんだ。」
「何を言ってる。本当に神がいるっていうのか?捧げなければ報復されるとでも言うのか。」
「あれはな、神なんてものじゃない。醜く、悍ましいものだよ。どれだけ憎んでも、どれだけ殺したくても、どうしようもないんだ。付き合って行くしかないんだよ。そして、今も儂達が苦しんでいる事を嘲笑っているのさ。」
僕たちは、村人が神を信仰しておかしくなってしまったのだと思っていた。だが、どうも様子が違った。
「どういうことだ。」
「儂らは累と呼んでいる。奴が儂らに出したルールがある。村人が毎年、子供の首を切断し、拝殿に捧げること。
子供は鎮魂祭の時に、最初に蝋燭の火が消えた子供を差し出すこと。
お前らは知らんかも知れんが、誰が誰のかわかる様に、知らなきゃ分からないような印が付けてある。
あれも、儂らが決めたり、運で決まるわけではなく、累が儂らをもっとも苦しめる様に選ぶ。また、それをしなければ、もっとも苦しむやり方で子供を2人毎年殺す。
ルールに従っているうちは危害は加えては来ない。それすらも愉しんでいるのだよ。」
「なんだそりゃ。そんなもん信じてるのか。何を根拠に。」
「見ればわかる。」
「なんだと。」
「見たいなら、拝殿を覗いてみろ。」
兄さんは、強張りながら拝殿に向かって歩き始める。
拝殿の前につき、兄さんはゆっくり拝殿の扉を開ける。
その中には子供の首がズラッと並んでいる。何故か、骨だけにもならずに、腐りもせず、ただ綺麗に、切断した時のままの様に並べられている。
何人かの村人が泣き崩れる。そこには伊佐奈の首もあった。
兄さんは信じられない光景に、動けずにいる。
そして伊佐奈の首がスーッと浮き上がり、笑った。眼球は片目がなく、頭髪は乱れ、舌はダランと垂れ下がり、兄さんの前でケタケタと笑っていた。
村長は顔を背け、耳を防ぐ。
兄さんはその場で嘔吐した。
そして、伊佐奈の頭はゴトっと床に落ちると、奥に転がって行った。
そして奥からは恐ろしく美しい、着物を纏った女が出てきた。
その女は兄さんの前に立ち、上品な笑顔で笑っている。こんな異質な状況でも見惚れる程美しかった。
「わかるか?真よ。これが累なのだ。信じられるか。こんなものがこの世にいることが。これが現実なのだ。人が苦しむことを徹底的に愉しむのだ。」
兄さんは伊佐奈のあり得ない光景をみてしまった事で、今までの前提すべてを覆され、何も出来ずにいた。
「こんな事が出来る奴なのだよ。だから儂らの手で殺してやらねばならない。眠っているうちに殺してやるほうがよっぽど幸せだと思わんか?」
兄さんは何も答えられない。何も出来ない。
「累に反抗するものは何人も居た。ルールを守らず子供を逃がそうとすれば累はもっと酷く見せしめのように殺す。
累はそのものがもっとも苦しむ事を選んでくる。逆らえば逆らうだけ、苦しむ事になる。儂らは従うしかないのだよ。
辛く苦しく、やりきれない。
それでもやるしか無いのだよ。儂らは死ぬことすら許されない。
死んで楽になろうとすれば、関係者を不幸にする。
本当に身内のいないものはたまに自ら死を選ぶ者もいるが、累は必ず一番近しいものに責任を取らせる。
儂らはもう逃げられんのだ。」
確かにどうしようもない。何をしても僕らは逃げられないのだ。僕らが何かをすれば、累はもしかしたら、次は陽子を苦しめるかもしれない。僕らは成すすべがない。
「いいか。真。これは災害だと思うのだ。毎年一人、子供が死ぬ病だと。そう思うしかないのだ。」
そうか。そうなんだ。人間はどんなに頑張っても1つの災害で簡単に死んでしまう。そういう物に抗うすべはない。だけど、それでも怯えながら生きるしかないのだ。
村長は日本刀を持ったまま、女の子へ向き直る。そして歩き始める。
僕は木陰から出てきた。
村長はこちらへ向き、
「そうか、創も来ていたか。そうか。今年からはお前たちもこちら側か。」
そう言ってそのまま、首を切りに進む。
兄さんは項垂れたまま、動けずにいる。
一歩一歩とゆっくり進んでいく。
1秒1秒が恐ろしく長く感じる。
自分の唾を飲む音が、恐ろしく鮮明に聞こえる。
「あの。僕がやります。」
静寂の中、僕の声が響く。
皆、一同、驚きの顔を僕に向ける。
項垂れていた兄さんも、目を見開いて僕を見る。
「どういうつもりだ。創。」
村長は強い眼差しで僕を睨見つける。
「累はルールを守っているうちは、必要以上の事はして来ないのですよね。
僕はこれが逆らえない出来事だと言われても諦められない。
もしかしたら、次あんな目に遭わされるのは、兄さんかもしれない。
陽子かもしれない。
僕はこれを災害だとは認められない!
納得できない!
だからそのかわり、村長の役割、苦痛を僕が肩代わりします。そのかわり全ての権限を僕に下さい。今までの事、村長が持っている文献など全て僕に託して下さい。」
兄さんは、何かを言おうとするが言葉にでず、顔を伏せる。
「子供のお前にそんな物、背負えるのか?」村長が強く僕を見つめる。
「子どもだからです。
子どもだから、子どもの僕だけが前を向いています。皆諦めています。
累には、後ろを向いていれば一生打ち勝つことはできない。
もう二度と、大切な人を伊佐奈の様な目に合わせたくない。
だから後、1年。この1年で必ず打開策を見つけてみせます。」
村長は、顔を伏せ、しばらく黙った後、空を見上げ、僕の方に向き直る。
「確かに。この中で、お前だけが、あの惨劇を見ても、累に立ち向かおうとしておる。確かにお前を子供と扱うには失礼かもしれん。・・・分かった。その覚悟を見せてもらう。」
村長は僕に日本刀を差し出す。僕は日本刀を受け取る。
この感覚は二度と忘れないだろう。二度と忘れるわけにはいかない。必ずこの痛みをあいつに。累に届けてやらなければならない。
僕は目覚めると。家の布団で寝ていた。夢だったら良かったが、しっかりと忘れられない感覚が手にのこっている。
僕はもう、立ち止まる暇はない。僕は寝床を後にし、立ち上がった。




