第7話:Sランクへの序章と影
朝の光が、ビルの谷間をゆっくりと染めていく。
ゆきみは窓辺に立ち、街の景色を見つめていた。
Aランク攻略の成功。封印の断片が反応した瞬間。
すべてが、次の大きな挑戦への布石となった。
「たかし、今日も準備は万全ね」
微笑みながら声をかける。
たかしは肩をすくめ、少し照れくさそうに言った。
「もちろん。Sランク挑戦の前に確認することは多いからな」
Sランクダンジョン――それは現代の探索者にとっての頂点。
攻略報酬もポイントも桁違いで、ランキングの最上位を決める舞台だ。
だが、封印された力を持つゆきみにとっては未知の領域である。
「でも、封印の断片が反応している…
これを活かせば、突破できるかもしれない」
ゆきみは剣型アプリを手に、静かに指先の振動を確かめる。
大輝はPCの前で最新情報を整理していた。
「姉ちゃん、Sランク挑戦前に強力なライバルが情報に出た。
黒コートの少年よりさらに上の探索者だ」
画面には、ギルドランキング上位者の顔写真とプロフィールが表示される。
「強そうね…でも、挑戦するしかない」
ゆきみは深呼吸をして心を落ち着ける。
力は封印されている。だが頭脳、戦術、そして経験は失われていない。
すべてを武器にして、未知の敵に挑む覚悟を決めた。
たかしも装備を整え、真剣な表情で頷く。
「今回の相手は確かに手強い。だが、君なら戦術でカバーできる」
ゆきみは少し笑みを浮かべ、剣型アプリを握り直す。
ダンジョン入口は都心の廃工場街にある。
光の渦がゆらめき、冷たい空気が周囲を遮断する。
入口前には、噂通りの新たなライバル探索者の姿があった。
長身で銀色のマント、眼差しは鋭く、まるで敵の動きを読んでいるかのようだ。
「…今日もライバルだ」
ゆきみは小さく息を吐き、気を引き締める。
視線を交わすだけで互いの実力を測り合う。
この戦いは力任せではなく、頭脳と戦略の勝負だ。
入口に足を踏み入れると、空気が一変する。
薄暗く、湿った石畳が軋み、壁には古代文字が浮かぶ。
魔力の残滓がわずかに漂い、空間全体に緊張感が満ちていた。
「まずは階層構造を把握する」
ゆきみは慎重に周囲を観察する。
罠、モンスターの位置、地形を記憶に焼き付ける。
たかしも後方で警戒し、連携を確認する。
最初の部屋に入ると、中型モンスターが二手に分かれて襲いかかる。
封印された力では直接戦うのは難しい。
ゆきみはモンスターの動きを読み、地形と罠を駆使して誘導する。
「左に誘導! 罠を使うわ」
たかしが迅速に動き、二人は連携して敵を制御する。
視聴者のコメントが画面を流れ、絶賛の声が上がる。
「頭脳戦が光る!」「異世界経験者だ!」
深層に進むと、複雑な罠とパズルが立ちはだかる。
圧力盤、浮かぶ紋章、天井からの落下物。
「慎重に…一つずつ確認する」
ゆきみは異世界で培った観察力を発揮する。
罠を回避し、パズルを解き進む過程で、
剣型アプリが再び微かな振動を示す。
「…封印の断片がまた反応した」
胸が高鳴る。力の一部が現代でも引き出せる兆しだ。
やがて、階層奥でボス級モンスターと遭遇する。
銀マントのライバル探索者も同時に部屋に入る。
三つ巴の戦いが始まり、力任せでは勝てない状況になる。
頭脳、心理戦、罠と地形の駆け引きが試される瞬間だ。
「右から誘導! 罠を活かして!」
ゆきみの指示で、たかしが動く。
モンスターは意図通り罠にかかり、ライバルも動きを制限される。
視聴者は画面越しに息をのむ。
戦闘中、剣型アプリが微かな光を放つ。
封印された力の断片が反応したのだ。
「…これなら、少しだけ力が使える」
ゆきみは小さく息を吐き、頭脳と断片的な力を融合させる。
戦いは続く。モンスターを倒し、ライバルも一歩遅れて撤退。
配信ポイントは急増し、ランキングはさらに上位に食い込む。
封印の力は完全ではないが、少しずつ引き出せる。
異世界での経験と現代の戦術が、彼女の戦いを支えていた。
ダンジョン出口に向かいながら、ゆきみは決意を胸に刻む。
Sランク挑戦は目前。ライバルとの競争も激化する。
「弱くても、諦めない」
その言葉が、現代での頂点への挑戦を力強く押し進めていた。




