第7話 あり得ないこと
「じゃあ、これをと」
フウアは目の前にある ユウはフウアと共に初心の森を進んでいた。外観自体は、前にいた駆け出しの森とさほど変わらない。どこまでも木と植物が生えている。緑がいっぱいで土は柔らかい。
そんな森をユウはきょろきょろとし、若干怯えながら歩いていた。怖いのだ。いくらレベルが低かろうと、モンスターという時点でユウは怖かった。
その様子を隣で見ていたフウアは、安心するように言う。
「大丈夫。ここはレベルも低いし、何かあったら私が何とかするから」
頼もしい言葉だなと思いつつも、ユウはこうも思う。なるべく、何かなんてないでほしいなと。命が危ぶまれる事態なんて特にごめんだ。だって、怖いから。
ユウはそう思いながらも、フウアと共に森の中を歩いていく。
「そういえば、ここらへんってどんなモンスターが出るんですか?」
「そうね……。色々でるけど、一番は蹴兎かしら」
ラビットと聞いて、ユウは兎を思い出す。もっとも、モンスターな時点であの兎とは全く違うのだろうが。
「どんな見た目かというと……、あっ、いた」
「えっ」
フウアが指さした方向をユウは慌てて見る。茂みに隠れた奥に確かにいた。身体は薄いピンク色。今まで出会ったモンスターの中では圧倒的に小さく、愛くるしい見た目をしている。が、ユウはすぐに悟る。このモンスターが愛くるしい生物ではないことに。なぜなら、物凄い目つき、まるで獲物を見るような目でユウとフウアを見ていたからだ。
「あのモンスター、絶対にこっちを襲ってきますよね……」
「ほぼ確実にね。でも、大丈夫。あの蹴兎はレベル1だから。ユウでもすぐに倒せるわ」
「そっ、そうですか……」
「じゃあ、さっそくやってみて。大丈夫、ヤバそうだったら私がサポートするから」
「わっ、わっ、わかりました……」
ユウは震える声でそう言う。とうとう来ちゃったよとユウは内心そう思う。モンスターなんて戦いたくない。怖い、怖すぎる。でも、戦って経験値を積まないとどうにもならない。
やるしかないのだ。ユウは自分にそうに言い聞かせ、剣を構える。そして、蹴兎の方へと歩み出た。
蹴兎がユウへと視線を移す。その目は前に出て来た獲物を今にも狩ろうかとしていた。
怖い、怖すぎる。レベル1だなんて行ってたけどやっぱり怖い。ユウは視線を向けられた瞬間、手の震えが止まらなくなる。
頑張ってとフウアの声援が聞こえる。そうだ、何とかしなくちゃ。ユウはそう思い、どうしようか考えようとする。
が、モンスターはそんな時間はくれない。
刹那、ユウの顔面を狙い、蹴兎が飛び出してきた。ユウは慌てて避けるも、勢いで尻もちをついてしまった。
そんな隙を狙い、キック・ラビットは再び蹴ってくる。
「ひぃぃぃぃぃ」
情けない声が出た。避けること自体には成功したが、ユウは怖くて仕方がなかった。やっぱり、無理だ、無理。怖い。的確に顔面狙ってくる。殺意高すぎる。怖い。
そんなユウを励ますように、後ろからフウアの声が聞こえてくる。
「大丈夫! 当たってもそんなに痛くないから! それに、キック・ラビットの耐久はほぼ0に近い。速さに数値を振っているからその分耐久が脆いの。だから焦らずに剣で斬ればすぐに倒せるよ!」
その言葉にユウは少しだけ落ち着きを取り戻した。よろよろと立ち、剣を構える。相変わらず腕は震えているが、何とか蹴兎の方を見ることが出来た。
視線を向けて来たユウの事を、蹴兎は再び睨みつける。その視線を受け、ユウはさらに震えだした。
怖い、やっぱり怖い。
今すぐにでも逃げ出したい。フウアと交代したい。そっちの方が、危険はないかもしれない。でも、それだと駄目だ。それだと、何もできなくなる。ユウはそう思い、震えながらもなんとか蹴兎の方へ駆け出す。
蹴兎はすぐに飛び出した。もう一度、ユウの顔面を狙ってくる。が、それは読んでいた。
顔面に来るギリギリで避ける。今度は、尻もちをつかないで出来た。ユウはその事に、内心ガッツポーズをしつつ、蹴兎の方を再び見据える。
蹴兎は次の攻撃の準備をしていた。その様子を見つつ、ユウは考える。ステータスが見えるだろうフウアが言うなら、耐久が0に近いというのは本当だろう。が、逆に速さに偏っているのも本当。
蹴りを入れてきたら、ユウは避けることしか現状できない。こういうときに遠距離攻撃が出来るのがあったらいいが、出来そうな魔法は使えない。
どうしようかと考えていると、ユウはふと思いついた。
これい行けるか?とユウは考える。速さで劣っている現状、これはありかもしれない。どうするかユウは考え、とりあえずやってみようという結論に至った。
蹴兎は刹那、今までと同じように蹴りだしてくる。
ユウはそれに避けるのではなく、地面を蹴った。その瞬間、蹴兎に土が襲い掛かる。普通の人間なら対して問題ないだろうが、小柄な蹴兎にとってはかなり多い。
蹴兎は後退し、視界を塞ぐ土を何とかしようとした。その瞬間、ユウは地面を駆ける。
蹴兎は耳もデカい。だから、耳にも土が入っていた。視覚と聴覚が正常に機能できていない以上、どうしようも出来ない。
その隙を狙い、ユウは蹴兎へと剣を振り下ろす。蹴兎の身体は聞いていた通りに柔らかく、一瞬で真っ二つにすることが出来た。
血を流し、倒れている身体を見て、ユウはぼそりと呟く。
「しっ……、しんだぁ?」
そう呆然と見ていると、戦いが終わったと確認したフウアが駆け寄って来た。
「うん、良かったね! 初勝利だよ!」
「倒せたんですか……? 俺?」
「倒せたよ! 大丈夫。それより、ステータス見てみて」
フウアの言葉にいきなりと思いつつ、ステータスを見る。そこにあったのはユウを驚かせる物だった。
*****
・ユウ・ハヤマ
レベル:2
クラス:魔法剣士
基礎ステータス
HP:20 耐久:11 力:3 速さ:7 魔力:?
クラスステータス
剣術:4 火魔法:0 水魔法:0 土魔法:0 風魔法:0 光魔法:0 闇魔法:30
*****
「あっ、上がってる……」
その数値を見た瞬間、ユウは久々にめいいっぱい声を上げ、ガッツポーズをした。やった、上がった。上がったんだ、レベルが。1つだけ、いや違う。1つも上がったんだ。ユウはそれが嬉しくてたまらない。
「どっ、どうしたの……?」
フウアは困惑したようにユウを見ている。確かに、1つだけだし大げさな反応に見えるかもしれない。ほかの冒険者が見たら何も思わないかもしれない。
カンストはおろか、レベル10にもまだまだな状況だ。それはユウも分かっている。それでも嬉しかった。1つでしかないが、1つだけでも進むことが出来た。なにより、自分の頑張りが認められたことが嬉しかった
「嬉しいんです。レベルを上げられて」
だから、ユウは満面の笑みでそう言った。その笑みにフウアも釣られて、笑う。これが、初めてのレベル上げだった。
の死体を透明な何か入れる。それは、そのまま手のひらに収まるくらいに小さくなり、フウアはそれをバックにいれる。
「何やってるんですか?」
「モンスターを売る時はこうやって魔道具に入れて持ち運ぶの。これなら、腐らないから」
「なるほど」
ユウは便利だなと思いつつも、ほかの事も思う。そういえば、モンスターってどのくらい金になるんだろうか。一応、日本に帰るまではこの世界で暮らしていく。お金についても色々知っておきたい。
「お金ってどのくらいなんですか?」
「まずは、お金の種類なんだけどね。共通金貨として、ファンタジア金貨とファンタジア銀貨があるの。たいだい、銀貨1000枚が金貨1枚って感じ。ちなみに、この保存できる魔道具は1つで金貨1枚くらい」
「それって高いってことですね?」
「もちろん。これ1つ買うのに、資金のだいぶ減っちゃったから。ただ、1つあればたくさんモンスターとか植物入れられるからいいんだけどね」
ユウはその説明を聞き、考える。おそらく、金貨1枚は現代日本で言うと1万いや、10万くらいか。もちろん、推測でしかないのだが。とはいえ、説明を聞いているとそのくらいはするだろうとユウは思う。
「つまり、金貨1枚でもだいぶ高いって感じですか?」
「そうそう。だいたい生活で使うのは銀貨ね。服とか、武器とかも、よっぽど高い所じゃなければ基本銀貨だし。ただ、金貨の方が性能はいいけど……」
「やっぱり、金額で性能とか変わるんですか?」
「そりゃね。金額が高いと、材料とかも高価な分いい物だから……」
まぁ、それは当然だろうなとユウは思う。とはいえ、死にたくない身としては安心できる装備を買いたい。しばらくは武器とかもこのままだが、壊れたら買い替えることになる。そうなる時に、安心できるのにしたい。そうなると、お金もしっかり管理した方がよさそうだなとユウは思った。
「じゃあ、このモンスターはどのくらい何ですか?」
「そうねぇ~。このキック・ラビットはレベル1で魔石もなさそうだけど、皮は使えるからだいたい5枚くらいかな」
「5枚……」
「魔石があればもっと上がるよ」
魔石と聞いて、ユウは何だろう。ゲームとかでは聞いたことあったが、この世界ではよく分からない。とりあえず、分からないことはそのままにしたくないので聞く事にした。
「魔石って何ですか?」
「あっ、魔石っていうのはモンスターの中にあるかもしれない宝石の事。魔力を大量に内蔵していて、武器とか魔道具とかに使えるの。レベルが高いモンスターほどある確率は上がるわ。魔石は武器屋とか魔道具職人とかが特に欲しがるから、どんなのでも基本高くつくの」
なるほどとユウは思う。冒険者っていうのは、依頼のお金と狩った物で稼いでいるんだろう。凄まじく、恐ろしい職業だ。事情が事情じゃなければやりたくない。
「どうする? もう少しやる?」
「まあ……、この位のレベルならやれるかも……、かも……」
そうぼそぼそとユウは言う。モンスターは怖い。モンスターという存在は自分のような弱者をすぐに殺せる。それが怖い。でも、対峙しないとスタート地点にも踏めない。
「……やるしかないですしね」
「なら、とりあえず蹴兎を倒していこう。レベル2になったし、本当はレベル2のモンスターを狙いたいんだけど……」
フウアはそう言いながらも、ちらりとユウの様子を伺う。ユウは即座に首を振る。レベル1だけで何とか。それ以上なんてもっと無理だ。
「とりあえず、レベル1で慣れて行こうか。いっぱい倒していけば、慣れると思うし」
「そっ、そっ、そうですね……」
たぶん、慣れるのは無理だ。ユウは内心そう呟く。どう頑張ったって、あの恐ろしい生物と戦うことを慣れるなんて一生無理。
そう思いつつ、ユウはフウアと共に森を進んで行く。
*****
ユウは目の前の蹴兎を斬る。最初は速さについていけなかったが、気づけばある程度は何とかなるようになってきた。
「前よりも動き良くなっているよ」
フウアもそう言っている。たぶん、経験を積んで行ってるからだろうとユウは思う。そもそも、レベルとかステータス自体が経験を積んで上がるものだから、自分の能力も上がっているんだろう。
「これで、何体目でしたっけ……?」
「10体目。まだレベル3には上がってないよ」
「そっ……、そうですか……」
レベル2にはすぐ行けたのに……ユウは思う。何となくわかっていたが、レベルが上がるごとに経験もたくさん必要なんだろう。
「でも、レベル2かレベル3のモンスターを倒せば、すぐに行けるよ」
「あー、あー、あー」
「経験値をためるには、自分のレベルと同格かそれ以上を倒した方が上がるからね」
「ですよね……」
言われれば納得できる話だ。自分より格下を倒したって上がりにくいのは納得できる。それでも、ユウは怖かった。そんなユウの様子見ながら、フウアは呟く。
「じゃあ、明日にしてみる?」
「いっ、いや、一体だけでもやってみます」
やりたくはないが、もう1つくらいは上げたい。やらないと前へ進めない。なら、やるしかない。ユウは恐怖に震えながらもそう言う。
その言葉にフウアはどこか不思議そうにしながらも、頷いた。
「じゃあ、レベル2の中でも一番倒しやすいモンスターを探そうか」
「そっ、そんなのあるんですか……」
「もちろん、相性によるよ?」
そう言った後、フウアは周囲を探しながら森の中を歩いている。ユウもその後をついていった。
そして、少し歩いていったところで目当てのモンスターを発見した。
「あれ」
フウアが指さす方向を見ると、そこには元の世界でいう所のリスのようなのがいた。色は茶色。某あの猪のような、元の世界との差異はない。見た目は本当に普通のリスだ。
ユウとフウアは2人で茂みの中に隠れながら、リスの様子を伺っている。
「あれが蹴兎よりも強いんですか?」
「純粋な強さで言えば、違うの」
「じゃあ、何でレベル2なんです?」
「毒があるの」
「毒?」
フウアの説明によると、あのリスは毒栗鼠というモンスターらしい。通常の戦闘力は皆無だが、問題は別だそうだ。どうも、あのリスには、毛に毒があるらしい。その毒は敵を感知した瞬間、放出するそうだ。
「死ぬじゃないですか」
「でも、それはレベル1とかの話。君は、レベル2でしかも、レベル3間近。それに、耐久とHPはレベル4はある。大丈夫、喰らっても特にダメージはないよ」
「ほっ、本当ですか……?」
ユウは声を小さくしながらそう聞く。ユウにとって毒は死に至る物というイメージがあった。毒を放出してくるというだけで、怖い。
「毒と言っても、耐久とHP次第では普通に何ともないからね。少なくとも、あのレベルなら君でも大丈夫だから」
「そっ、そうですかぁ……?」
「うん、大丈夫」
フウアにそう言われ、ユウは震えながら剣を持つ。固まりつつある足を引きずるように動かしながら、毒栗鼠へと近づいていく。
なるべく、気づかれないように。そう思いながら、ユウは近づいていく。が、
「Kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii」
気づかれた。
小さいながらも、しっかりとした声が響く。そして、毛から煙みたいな物が噴出された。その光景を見て、ユウは慌てた。もの凄く、慌てた。害はないかもしれないが、毒という時点で怖かった。
思わず、煙を吸い込んでしまう。それにさらに慌ててる。威嚇しながら、近づいてい来る毒栗鼠を見ながらも震えていた。
その時、ふと気づく。自分の体調に特に問題ないことに。だるいとかはない。本当に問題ないんだ……。ユウはそう思い、少し落ち着きを取り戻した。
さらに、意識を集中させるために息を吸って吐く。そして、一気に毒栗鼠へ駆ける。そして、そのまま剣を振り下ろした。
目の前には毒栗鼠の死体がある。倒せた。自分にも出来た。ユウはそう思い、ホッとする。その時だった。
「こっちに来て‼」
突如、フウアに腕を引っ張られる。何が分からないまま、されるがままにユウは引っ張られた。そして、その直後、詠唱が響く。
「穿て、刻め、風傷槍」
その詠唱とともに出た風の槍が何かを貫く。何が起きたか分からないまま、ユウは呆然としているとフウアは警戒しながも歩いていく。ユウもその後についていく。
少し歩いて、フウアの足が止まった。そして、その場にしゃがみ、何かを確認している。
「どうしたんですか?」
若干、不安げにユウはそう呟く。その声に反応して、フウアはユウの方を向いた。その顔は困惑に包まれている。
「これ見て」
ユウはそう言われるがままに見た。フウアが見ている所には、巨大蜘蛛がいた。虹色というか、何とも禍々しいというかそんな印象を受ける蜘蛛だった。
「これは……?」
よくわからぬままにユウはそう聞く。何となくだが、今までのモンスターよりもヤバイのは分かった。でも、それが何がかはよく分からない。
ユウの問いに、フウアは呟く。
「虹光蜘蛛。見ての通り虹色の身体が特徴の蜘蛛。割と凶暴で、毒と糸を行使して人を襲う。本来はこの森にいるわけない」
「えっ、何でですか?」
「この蜘蛛、レベル19なの」
その言葉にユウはえっとなる。だって、初心の森にいるモンスターは最大でもレベル11のはずだ。それ以上のモンスターはいないはずでは。ユウはそう思いながら、フウアの方を見る。
その思いはフウアも一緒。2人は困惑しながら、いるはずのないモンスターを見ていた。




