平民の兵士に父が助けられたので貴族令嬢の私は嫁ぐことになったけれど本来の立場を思えばとても幸せになれたのでめでたしめでたしと言いたい
「はぁ……」
ため息をつくことしかできない。
今日、私は父の決めた通り、平民の兵士であるライルと結婚する。
父は元騎士団長だけど、陰謀に巻き込まれ、平民に落とされ病に倒れた。
「はぁ」
病を治す薬は高価で、とても手が出せないとなったとき、ライルがどこからか薬を手に入れてきて、父の命は救われ、以来父はライルのことをやけに気に入っている。
そして「ライルは平民だが、誠実で良い男だ。お前を嫁にやろう」と言い出し戸惑った。
貴族が平民の兵士に嫁ぐなんて、前代未聞でも、父を助けてもらった恩があるから断るわけにはいかない。
ライルの家は、想像していたよりもずっと質素だった。
「すまない、こんな家で……」
ライルは申し訳なさそうに言うけど首を横に振る。
「いいえ。父を助けてくださった恩があります。私にできることがあれば、なんでも言ってください」
「なら、一つお願いがある」
「なんでしょう?」
「……料理を作ってくれないか?」
ライルは少し照れたように言った。
平民の料理なんて、作ったことがないが、でも、なんとか頑張ってみようと次の日から台所に立った。
貴族の家では料理なんて使用人に任せっきりだったのに。
ライルは兵士だから、肉料理が好きだろうか?
でも、質素な家では、そんなに贅沢な食材はないから家にある食材を使って、なんとか料理を作る。
「これは……」
ライルは、一口食べると目を丸くした。
「口に合わなかったでしょうか」
不安になる。
「いや、違う。こんなに美味い料理、初めて食べた……!」
作った料理をあっという間に平らげ、それから料理を楽しみにするようになった。
「今日の夕飯はなんだ?」
仕事から帰ってくるなり、尋ねる。
「今日は、シチューよ」
温かいシチューを差し出すとライルは一口食べると、幸せそうに目を細めた。
「美味い……。本当に美味い……」
料理を食べるたびに言ってくれ愛しいと呼ぶようになった。
「お前は、本当に最高の嫁だ。こんなに料理が上手くて、俺のことを愛してくれる。もう、お前なしの生活なんて考えられない」
抱きしめられ最初はただの平民の兵士だと思っていたけれもとても優しくて、大切にしてくれる。
「ライル……」
胸に顔を埋める。
もう、この人なしの生活なんて、私も考えられない。
平民の兵士に嫁いだ最初は不安だったものの、今はとても幸せだ。
料理で胃袋を掴んで溺愛されていることを、とても幸せに感じている。
以前はただの平民の兵士だったライルだが、今ではすっかり手料理に夢中で、毎日仕事から帰ってくるのが楽しみで仕方ないようだった。
「ただいま、愛しい人!今日の夕食は何かな?」
玄関を開けるなり、満面の笑みで駆け寄ってくる顔は子供がお菓子をねだるようだ。
「ライル、おかえりなさい。今日は、あなたが好きな肉団子よ」
料理を出すと、ライルは目をキラキラさせながら席についた。
「この肉団子、どうしてこんなに柔らかいんだ?まるで雲を食べているみたいだ」
食べるたびに、大げさなくらい感動してくれる様子を見るのがとても好きだったある日、ライルが珍しくしょんぼりして帰ってきた。
「どうしたの、ライル。元気がないわ」
少し寂しそうに言った。
「実は、明日から隣の村まで遠征なんだ。一週間も帰ってこられない」
遠征の間、料理を食べられないことが一番辛いらしい。
うーん、可愛い。
「ライルのために、お弁当を作ってあげるわ。一週間分、日替わりで」
驚いた顔をした。
「本当か!?そんなこと、できるのか?」
「ええ、任せて」
ライルのために、毎日心を込めてお弁当を作った。
お肉料理や魚料理、野菜もたっぷり入れて、日替わりで飽きないように工夫し翌朝、作ったお弁当を抱きしめて何度も「ありがとう」と言ってくれる。
「愛しい人、必ず無事に帰ってくるから。待っていてくれ」
キスをして遠征に出かけて行った一週間後、無事に帰ってきた。
「ただいま、愛しい人!」
玄関を開けるなり強く抱きしめ、顔に何度もキスをした。
「おかえりなさい、ライル。遠征、お疲れ様」
「ああ。でも、お前の作ってくれた弁当のおかげで、毎日頑張れた。みんなが羨ましがっていたぞ。『ライルの嫁さんは、なんて料理が上手なんだ』ってな」
誇らしげに言って笑う。
それからというもの、昇進は目覚ましく、作る料理のおかげでライルは毎日元気に仕事に励み、周りの兵士たちからの人望も厚くなっていった。
そして、ついに騎士にまで昇進することに。
「これも全部、お前のおかげだ、愛しい人」
優しく抱きしめた。
「人生を変えてくれたお前と出会えて、本当に良かった」
ライルの胸に顔を埋め、言葉に涙した。
父の病を治す薬をくれた、平民の兵士に嫁いだ私はこの上なく幸せな女だろう。
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