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第8話 その争いのどちらに味方するのか

「きゃーーー!」


 突然森に響いた悲鳴に、我も少女も一様に表情を変える。

 特に、少女はその顔に焦燥感を見せていた。


「どらごんさん! あっち!」


 恐らく、助けに行こうという言葉も内包されているのだろう。

 今すぐにでも駆け出していきそうな姿勢の少女が、まだ行動を起こしていないのは、我の意思を確認しているのだ。


『……わかった。行こう』


 考える事一瞬、現場に向かう事とした。

 我にとって、見ず知らずの人間がどうなろうと知った事ではない。あの悲鳴は命に迫る危険を感じたものではないかと思う。

 裏を返せば、誰かの命を脅かす危険がそこにはあるのだ。我一人であれば、人間程度が感じる命の危機などどうとでも乗り越える事ができよう。

 しかし少女はどうか。そんな危険を冒すだけの価値があるだろうか。一瞬の躊躇はそう考えたからだ。

 とはいえ、我々は人里を目指しているのだ。なんらかの危機に瀕した人間を救い、見返りとして道案内をさせるというのもいいだろうと思い直した。

 それに、我が拒んだとしても少女は一人で走って行きかねない。

 打算的に納得して行動する我と、打算なく気持ちで行動する少女。最初はどこか似ていると感じたのだが、一緒に生活していくと、殆ど真逆の性格である事が分かった。

 それでも、我がこの少女の下を離れないのは何故だろうか。

 そんな事を思いながら、少女の隣に並んで走る。

 少し走った先で、我は少女に声をかける。


『止まれ。ここからは足音をなるべく隠して進め。物陰から様子を見るぞ』


「うん」


 頷いた少女はぎこちない動きでゆっくりと歩く。

 そろそろ現場の様子が見えるはずだが。

 そう思って進んでいる内、男たちが何か言い合う声が聞こえてきた。


「お前たち! なんのつもりだ!」


「ああ、面倒だ。とても面倒だ。その言葉ってさ、なんか意味ある?」 


「どういう事だ!」


「バカって嫌いなんだよねえ。いや、割とマジで。言葉にしなきゃ伝わらないってどこかで聞いたけど、それってバカなだけなんだよね。言わなくてもわかるだろ」


 何を言っているか我にはわからない。だが、とりあえずは視界に映る情報から推察だけはしておこう。

 狭い街道で馬車が横転している。その付近に痩せこけた男が血を流して倒れている。恐らく死んでいるだろう。死んだふりだとしても呼吸による微細な動きは隠せないはずだが、我の目でもそれを捉えられない。

 そしてその馬車の近くに三人の男女。男は剣を構えて立っている。見た目からすると傭兵の様ないで立ちだ。使い古されたライトアーマーを着こみ、よく手入れされた長剣を両手で握りしめ、後ろに居る二人を守るように立っている。

 その男の背後には女が二人、どちらも町娘の様な服装をしているが、一番奥で守られている推定16~17歳前後の女は町娘ではないと思われた。恐らく地位の高い人間だ。

 そう疑う決め手がその女の衣服だ。この場にいる全員の衣服を観察して推察される一般的庶民が着る衣服の素材は綿などだろう。彼女はデザインこそ町娘風にしているが、あれは質のいいシルクで作られている。

 極めつけは髪飾りの意匠だ。男たちが持つ武器や防具の品質から察するに、あれだけ細かな意匠を凝らすのは、きっと一般的な道具とは全くことなる手順や時間と手間がかかったことだろう。つまり、金銭的価値が高い。

 その推定お嬢様を庇うようにしている女は、これは庶民と言えなくはないが、立ち姿と腰の落とし方からして、恐らくある一定の戦力を持った人間である事が推察される。

 そしてその周囲をぐるりと囲むように、斧を持った傭兵風の男たち10人が居る。そんな状況だった。

 さて、どうすべきか。

 そう思っている我に、少女が問う様に視線を向け、囁き声で話しかけてくる。


「どらごんさん、どうする」


『状況的に事情を察せなくもないが、我には人間の言葉がわからぬ。せめて何を言い合っているかわかればよいのだが』


「剣の人がなんのつもりって聞いて、斧の人がバカは嫌い、言わなくてもわかる、と言い返した」


 馬鹿はどっちだろうな、と言いたかったが堪える事にする。

 別にあの剣を持った男も、答えが聞きたいから聞いたわけでもあるまいに。なんらかの理由で時間を稼ぎたいだけの言葉で、まんまと時間を与えている斧の男。

 所詮は浅はかな人間というところか。

 しかしこれで確定だ。剣の男たちは騙されて襲撃された、もしくは意図せぬ相手から襲撃されたのだろう。

 なんのつもりかと聞くという事は騙された線が濃い。おおかた、あの斧の男たちは本来護衛のはずなのに、突然襲ってきたといったところではないだろうか。

 この場合、恩を売るなら襲われている三人を助けるという流れが良いだろう。


『少女よ、あの三人を助ける方向でいこうと思うが、どう思う』


「うん、わかった。悲鳴もあの人。たすける」


『だが相手は人間だ。お前にできるか?』


「……やる」


 ほう、そうか。別段己の力に増長したわけでもなさそうだ。ここはこの少女に任せてみるか。


『だが、気を付けろ。ドラゴンに比べれば脆弱な存在だが、人間にしては強そうな者がいる。押してダメなら引く、という事を肝に銘じて事にあたるがよい』


「わかった」


 言って、少女は飛び出していった。

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