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第41話 やれやれ、どうしたものか

 頭蓋を揺らす衝撃に伴い、耳には木が破砕されたような盛大な音、それとバラバラと大量の何かが床に落ちる音が響きく。

 同時に体の上にも硬いものがまるで降り積もった雪が屋根から落ちた時のようにドサッと落ちてきて、我は何かに埋まってしまったようだ。

 埃の匂いに交じって、紙やインクの匂いを鼻の奥で感じる気がする。

 

 まるで何かにぶつかって、その内容物や破片に埋まってしまったとでも言わんばかりの感覚がするが、未だ視界は真っ暗なので何の判別もつかない。

 とりあえず状況の確認をすべく、身を起こすことにした。


 身を起こそうとすると、背に乗っていた何かがバラバラと音を立てて落ちる音がし、完全に身を起こした頃には、我の目に全体像が映り込んだ。


 そこかしこに散らばる木の破片、散らかって無数に広がるハードカバーの本達。

 更に視界を左右に揺らしてみると、木造の部屋に本棚が立ち並ぶ、まるで落ち着いた図書館の様な光景が広がっている。

 どうやら我は無数に並ぶ本棚の一つ、今は木の破片と散らかる本に変わったそれに激突した様だ。


 豚の魔物が使用していた紙に書かれていた呪文。ただの命令のようではあったが、その言葉に、文字に力があるのだろうから呪文という事になるだろう。

 ただ、どういうロジックだ。一つの存在が使用できるものにしては強大すぎるように感じる。

 まるで世界の理を歪めているような。


 世界。そう言われればダンジョンは小さな異世界だと聞いた。つまり、我々の居た世界とは法則が異なるのだろうか。

 我は下半身を本にうずめながら、顎に手を当ててそんな事を考える。

 しかし、答えはすぐには出ないだろう。それに、考えるだけでは検証もできない。

 ここは、ここが小さな異世界だと言った本人に意見を聞くべきか。

 そう思って視線を左右に動かす。

 すると、我のやや後方、本の山の一角に尻が生えていた。

 いや、一瞬でそれが尻だと分かったわけではない。何かが生えているなと思い、思慮深く観察したところ、どうやら臀部にあたる部分だろうと思うに至ったのである。

 思うに、恐らくマリの尻だろう。彼女は床に突っ伏す形でいるのだろうか。尻以外は本に埋まってしまっているため、様子は分からないが、あまり良い状態ではないかもしれない。


 我はぞんざいにその尻を掴もうとして、思いとどまる。

 頭に浮かんだのは、先程の醜い出来事である。

 我はドラゴンである。だから、人間の心の痛みはわからない。

 ただマリの表情の変化、強張る手、流れる涙を見て、悲しんでいる事を察しているに過ぎないのだ。

 そして、マリは我にとってどうでもよい存在だ。関わったところで何の益もないだろうし、今後も関わるつもりはない。

 だから、本来であればマリがどういう扱いを受けようとも、どんな思いをしようとも、知った事ではないのである。

 その筈だったのだ。


 けれど、我の感情に異変が起きたのだ。

 もしマリではなくマアナが同じ事をされたならと考えてしまったのだ。

 そうすると、もう居ても立ってもいられなかった。

 あの場を滅茶苦茶にしてしまいたかった。関わった者達を全員焼き尽くしたいと思った。

 我は、死を前にしておかしくなってしまったのか。それとも、神とおぼしき存在に何かを狂わされてしまったのだろうか。


「やれやれ、どうしたものか」


 我は誰にともなくそう呟き、溜息と共にマリの尻に伸ばしかけた手を下ろす。

 そして、ゆっくりと立ち上がった。

 バサバサと本が地面に落ちて、埃を巻き上げ、鼻腔にその匂いが上がってくる。

 その匂いと不快感に眉をしかめながらも、マリの体の上に積まれている本を一つ一つ丁寧に払っていく。

 どこか遺跡の発掘作業にも似たその作業を続けると、マリの全身が少しずつ現れていった。

 ローブを着、マントまで羽織っているため、体の線は分かりにくいが、それでも十分にマリの体の上に積まれていた本を除けた後、丁寧に抱きかかえて、手近にあったソファの上に寝かせておく。

 何故図書館然とした場所にソファがあるのだ、と思わなくもないが、好都合だ。

 気を失っているらしいマリをその場に残し、我は実験といこう。


 手を伸ばし、魔法式を描く。完璧で美しい魔法式は魔力を帯びて輝いている。

 そして、我は発動の声を出す。


「ゲート」


 刹那、魔法式は力を失い、空中で分解するように消えてしまった。

 やはり魔法が使えない。いや、何かルールがあるのだろうか。

 そう思って周りを見渡すと、張り紙を見つけた。そこにはこう書いてある。


『ノルマを達成するまで出てはならない』

『図書館ではなるべく静かにしましょう』


 なるべく静かにしましょう、の隣には、人間が口の前で人差し指を立てているイラストが描かれていた。

 恐らく、これはこの場所、この世界のルールではないだろうか。

 しかし違和感がある。


「先程まで居た場所とは、ルールが違うのか」


 ぽつりとつぶやいた我の声は、誰に聞かれるわけでもない。

 我は何か使える魔法はないかと思い、いくつかの魔法を試してみる事にした。

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