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第37話 どうしてこんな所に扉が

 それは、扉だった。

 ただの扉ではない事は一見してわかるだろう。異様な扉という表現が当てはまるのではないだろうか。

 まず存在する場所が異様だ。森の只中、木洩れ日が差し込む場所。恐らくいつもは平和で暖かささえ感じる光景ではないかと思えるその場所に、唐突に扉が立っていた。

 鉄製と思われる無地の表面に、丸いドアノブが付いている。扉と言えば出入りする建物とセットであるという固定概念を覆すかのように、扉だけが立っているのである。


 異様なのはそれだけではない。

 扉は現在空いていて、中から人型の羊や豚などの恰好をした魔物が時折出て来ていたのだが、その扉の向こう側は、どういう訳か見る事ができないのだ。

 黒い何か。そうとしか言えない何かで隔たれた世界に扉は繋がっているのである。

 しかし奇妙なのである。我は、別のどこかに繋がっているという部分に関しては特に異様だとは思わない。何故なら我も『ゲート』という空間を歪めて距離を喪失させる魔法を使う事ができるからだ。

 しかし、この扉は『異様』なのだと感じる。何故だろうか。空間を歪める技術は理解できるのに、恐らくその技術を使っているのではないかと思われるこの光景に奇妙さを感じている。

 それは、本来出来るはずのないものがそこにあるような、存在してはいけない歪なものと対峙したような、そんな異様さだった。

 我は人知れずマアナの肩を掴み、自分の方に引き寄せた。


 因みに先程まで鬱陶しいくらいに存在していた魔物達の姿は既にない。散発的に扉から魔物が出ては来るのだが、数が多くない事もあり全滅させるに至ったのである。

 それでも、恐らく時間が経過するとまた魔物が扉の向こうからやってくるのではなかろうか。

 そんな扉を見ながらテンガロンが言う。


「どうしてこんな所に扉が」


 当然の疑問。皆が思っている事を言語化しただけの、そんな言葉。

 それに答えたのは、勇者一行のメンバー、マリだった。


「これは、ダンジョンじゃな。それもきっと若い」


 構造物に対して使うにしては独特な表現だが、それに疑問を唱えたのは勇者クロウだった。


「ダンジョンの入り口ってこういうものなのか。それにしても、若いってどういう事なんだ?」


 その疑問は我を含めた全員が浮かべたものだったろう。マリに視線が集まる。

 マリは、その視線が重くて辛いかのように眉をしかめて説明を始める。


「ダンジョンは生き物だとされおってな。とは言っても、動物ではない、どちらかというと植物のような存在だと言われている。そして、ダンジョンは年を経て、この世界に馴染むのだと言われておる」


「つまり、どういう事ですの?」


 ヴィエタが子供のように追加で質問をするが、マリは気を悪くした風でもなく、一つ頷いてから説明を続けた。

 

「ダンジョンの発生時の姿は、例えば空中にぽっかり空いた穴、見慣れぬ近づいただけで開く扉、吸い込まれる黒い点のような空間など、異様な姿で現れる。しかしそんな異様なダンジョンの入り口は、やがて廃村に存在する井戸の姿、洞窟の最奥に存在する遺跡のように見える扉、触れると吸い込まれる鏡などに姿を変えていく。つまり、この世界に存在しない不自然な形から、この世界に存在していてもおかしくない自然な形へと周囲の地形も含めて変化していくのじゃ」


 そう言いながら、一層目に入る力を強めたマリは言葉を続ける。


「この扉が奇妙に見えるなら、若いダンジョンだという事。そしてそれは中身も同じじゃ。奇妙な入り口であるならば、中身も我々の常識の通用しない奇妙な場所である可能性が高い」


 息を飲むような音が聞こえた。それが誰の者かはわからないが、誰であってもおかしくなかった。それほどに緊張感がこの場を支配している。

 マアナが我のマントをぎゅっと握りしめているのが見える。

 この場に居る誰もが、なんとかしないと先程のような魔物がまた多数現れて、森に被害を及ぼし、最終的には近くの村、町に被害が及ぶのだろうと考えているのだろう。

 我もそれには同意だが。我の意見としては、マアナ達だけでも帰してやりたいと思う。

 それを口にしようと我が口を開こうとしたが、テンガロンの方が早かった。


「魔物が現れる前にマリさんが説明してくれた内容だと、最奥には魔王がいて、それを倒すとダンジョンは消える。そうですね?」


「うむ、そうじゃが」


「では、俺が入ります」


 言って、テンガロンは剣の柄に手を掛けた。

 我は溜息をひとつ、テンガロンに向かって口を開く。


「バカを言うな。貴様では対処できないだろう」


「しかし!」


「これは我々の依頼ではない。勇者一行のものだ。そうだろう」


 我がそう言うと、テンガロンは歯噛みして下を向く。

 どうしてこんな事に拘るのだ。我には意味がわからない。

 確かにこのダンジョンの発生で森の生態系が崩れるかもしれないし、それで周辺の町が滅ぶかもしれない。

 しかしながらそれも自然な事なのだ。自然とは、何かの生命のせいで他の種族が絶滅する事も含めて自然である。

 これをコントロールする事ができるのは、力ある上位存在のみだ。つまり、我々ドラゴンのように、力で介入できる存在であれば可能だろう。ダンジョンであろうが中にいる魔王であろうが滅ぼしてしまえばいいからだ。

 ドラゴンでなかったとして、例えば勇者一行のような力ある存在であれば十分可能かもしれない。

 だけれど、リスクがある。相手の底が見えないのだから、ダンジョン内へ魔王討伐に行ったメンバーが全滅してしまう可能性がある。

 本来、自分たちの都合が良いように世界を保つなど、途方もない力が必要で、部分的に諦めて自然に任せるのがよい。

 その考えで言えば、町の一つ二つくらい別に滅んだところで、よいのではないだろうかと思うのだ。

 町が必要だというのであれば、またどこかで町を作ればいいだろうし、もしダンジョンのせいで命を落とす者が居るならば、それは弱いその者が悪いのではないだろうか。

 我はそう思う。けれど、人間はそうは思わないらしい。

 きゅっと握りしめられていたマントの皺が増え、少し震えていた。


「わたし、いく」


 マアナは、そう言いながら扉を睨むように見ていた。

 困ったものだ。しかし、それでこそ力ある存在だという誇らしさも同時に胸に生まれてしまった。

 本当に、この娘と出会ってから困ってばかりだ。

 我は知らぬ間に自分の口角が上がってしまっている事に気付いて眉をしかめながらも、マントを掴むマアナの手をそっと握った。

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