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第36話 どうして殺したんだ!

「どうして殺したんだ!」


 勇者クロウは責めるような問うような、詰問というよりも答えを求めている訳ではなさそうな顔をして、大声を吐きながら詰め寄ってくる。

 我は少々困惑しながらも一応答えを言っておく事にした。


「援護のつもりだったんだがな」


「彼女は……救えたかもしれなかったんだ!」


 勇者クロウはそう言いながら右手から飛び掛かってきた羊の魔物を、目も向けずに自然な剣筋で首を斬る。

 我と戦った時よりも少しは実践を積んだ様だ。その剣筋は単なる力業ではなく、狙いすましたような絶妙な角度から最小の力で斬った様に見える。

 そして、そのままクロウはこちらを睨むようにし、少し大げさな動きを伴って言葉うを続ける。


「彼女は、もっと生きたかったはずだ! どうしてそれを奪った」


 と、言われてもなと思わず言いかけたが、ここで口論する事に意味はない。戦いの最中だというのに余裕があるなと思うが、実際クロウの力量からするとこの辺りの魔物程度は余裕なのかもしれなかった。

 勿論我もこの程度の魔物相手であればそうそう危ない事にはならないが、周りの人間はそうではない。技術や連携でカバーしているが、基本的に身体能力が劣っている者が殆どだ。

 この状況で余裕でいられるのは勇者一行と、我、マアナくらいのものだろう。

 ただし、マアナに関しては皆を守る事に必死になっていて周りが見えなくなっているから、余裕とは言い難いのかもしれないが。

 この状況を終わらせるためには魔物を掃討する必要があるが、しかしながら、魔物は次から次へと援軍がやってきて、数が減らない状況だった。

 最早話す価値無しと思い、勇者から視線を外してテンガロンに目を向ける。

 彼は、その視線に気づいてこちらに声を発した。


「方向はわかります! 元を断たないと!」


 随分と端折った言葉の裏には、彼の焦りがあるのだろう。実際、彼ではこの魔物達を長時間捌き続けるのは難しいと思う。事実、魔物が繰り出した拳をすんでの所で剣の腹で逸らしたテンガロンの顔は、普段見る事ができない程に歪んでいる。

 ヴィエタは右肩から血を流しながらも、ネイトへ敵が向かわないように鬼神のような顔をして敵の攻撃を盾で弾いているが、もうそろそろ彼女の左腕が限界なのだろう。鬼気迫る気迫とは裏腹に、精彩を欠く動きだ。

 そんな彼女が相手の攻撃を逸らすでも弾くでもなく、まともに盾で受けてしまい、数歩よろよろと後退するのが見えた。

 あれは不味い。殺されてしまう可能性が高い。

 我はそう思って杖を構えた刹那、ヴィエタに追撃しようと迫った魔物に、残像さえも伴う神速の一撃が突き刺さる。テイルだ。

 彼は肩で息をしながらも、どこか気障な動きで細剣に着いた血を払う動作をした。

 その姿に不服な顔のヴィエタは、痛みに耐えるためなのか、それとも心に産まれた苦言を吐き出すためなのか、顔を歪ませて口を開く。


「あなた、私の護衛でしょう? 雇い主をちゃんとまもりなさいな」


「敵の数を減らす事で負担を減らそうと……」


「言い訳は聞きませんわ!」


「……すまない」 


 そんなやり取りをし、次に襲ってくる魔物の一撃をヴィエタが盾で弾き、ネイトが魔法でカウンター、最後にテイルが神速の突きで止めをさす。案外いいコンビなのかもしれない。

 人間共は弱いのだけれど、強い。一見相反する評価のように見えるが、その実妙にしっくりくる評価である。

 そして、勇者は、強いけれど弱いと言えるだろう。

 さすがに状況を理解しているらしく、戦闘に参加しているが、今も時折我に対して憎悪に近い憤りの視線を向けてくるのである。憎悪は我の専売特許と言える感情だが、そんな我でも何が気に入らないのかはわからない。憎悪を力に前に進む訳でもなさそうなその姿は、子供のような弱さを感じざるを得ない。

 しかしながら、迫りくる魔物達をさして大きな動作なく、まるで冗談の様に一刀両断にしていく様は人知を超えた強さを物語っている。

 不完全で、不自然な存在。我は今まで恐怖など感じた事がなかったのだが、マアナの事を思うと、恐怖のような気持ちが芽生えてくるのだ。

 この不気味な存在が、マアナの住む世界にどのような影響を及ぼすのだろうか。


 しかし、思考の渦に呑まれるには、現状が騒がしすぎる。先ほどのテンガロンの言葉に答える事から始めねばなるまい。

 彼が言いたかったのは、この絶え間なく訪れる魔物に対処し続ける事は出来ないから、敵の大将を探して倒すなど決着を急ぐべきだということだろう。まあ、大将を倒しても別に敵の数自体は減らないのだが。

 それでも、敵の全容や目的を知る必要はあるだろう。我は皆に聞こえるように声を張った。


「根本に対処する! 我が前に出る、付いてくるがよい!」


 我の声に、勇者クロウを除く全員が承諾の声を返した。

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