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第33話 突然何をするんですか! どらごんさん!

 轟音と爆発音が耳を突き刺し、次いで熱気と炎の花火が肌と目を突き刺した。

 パチ、パチと木が爆ぜる音が聞こえる程に燃え盛る光景は、程なくして煙で消化されていき、青臭く、焦げ臭い匂いが鼻をつく。木々が枯れていて空気が乾燥している時期にこの魔法を同じように放ったなら、山火事になってしまったかもしれない。

 我が放った人の頭程の大きさの火球は、平和な光景だった森の一角を地獄のような光景に変えたのである。


「突然何をするんですか! どらごんさん!」


 テンガロンが裏返った声で避難の声を上げるが、知った事ではない。我は爆発によって黒焦げになりながら木々が折れ、少し開けた視界の先に目を向け続けた。

 しかし、何をしたのかについては答えてやらぬ事もない。そう思って我は目を正面から動かさずに口を開く。


「基本的な炎系力術の魔法だ。薄い球の形をした岩の中に可燃性ガスを圧縮させていて、表面は炎で覆っている。ぶつかった際に岩が割れて中の可燃性ガスが飛び出し、爆発する仕組みだ」


「そういう事を聞いているんじゃないんです!」


 真摯に答えた我に向かって否定の言葉を叫ぶテンガロン。 

 しかし、我の放った火球の先から現れた存在に、テンガロンを含めた全員が息を飲んだ。


「バカな……あれは……僕の世界のスーツなのか……?」


 小さな声でそう言った勇者クロウの顔は、驚く程に狼狽している様に見える。スーツというくらいだから上下が一式になった衣服の事だろうか。

 見やると、その存在は人間でいうと女のようだ。我にとっては人間の男女など体の丸み程度でしか見分ける術はないが、恐らく間違いないだろう。

 黒髪を後ろで束ね、その顔は怒っている様にもふてくされている様にも見える。そういうつもりはないのかもしれないが、吊り上がった切れ長の目のせいで少なくとも不機嫌そうに見えた。

 着ている紺色の衣服に目を向けると、それは体の線が分かる程にタイトであるが、どこか儀礼用の軍服を思わせる形をしているにもかかわらず、働く事を前提に動きやすさと最低限の格式と意匠を凝らした給仕服の様にも見える。

 そして、その存在は恐らく人間ではなく魔族だろう。

 そう思う理由は二つ。一つは人間にしては強大な魔力を有している事。もう一つは人間にしては不健康な、青白いというよりは薄い紫に近い肌の色をしている事だ。

 我は、そんな存在に笑いかける。


「挨拶のつもりだったが、気に入らなかったか? 我はドラゴン。貴様如きに興味はないが、何者だ?」


「……タナカ」


 魔族の女、タナカは忌々しいとでも言う様に顔を歪めて答えた。


「ほう、変わった名前だな。それは個体名か? それとも種族名かな? ともあれ、そんな事はどうでもいい。どういう目的で我を包囲していたのかな。返答次第では、命はないと思うがいい」


「……シゴト。シゴトで、シゴトだから、シゴト、シゴト」


 ぶつぶつとタナカと名乗った女は口の中で吐き捨てるようにつぶやき続ける。

 そして、その声はだんだんと大きくなり、ついには怒号のような、あるいは絶叫のような声へと変わる。


「シゴト! シゴト! コレハ仕事ナノ! トテモ面倒クサイ! スゴク面倒クサイ! デモ仕事ダカラショウガナイ! アア! アア! ナンデコンナ事ヲ私ガ……


 そこで言葉を切った女は、俯き、ポツリと「オ前ラノセイダ」とつぶやく。

 その言葉はまるで魔法の様に、我らを囲んでいる未だ姿の見えない存在達の身震いの気配を伝えてきた。

 女は、我々ではなく、そんな震える何者かに向かって怒号を発した。


「オ前ラノセイダ!! ナンデ私ガコンナ事シナキャイケナインダ! 会社ニ飼ワレタ畜生ノクセニ!! オイ! オ前ラノ仕事ダロ! 早クシロ!! コイツラヲ捕マエロ! ソレカ殺セ!」


 テンガロン達、そして勇者達が武器を構えた。

 その理由は明らかだ。


 森の陰から現れたのは、無数の存在。皆一様にタナカと名乗った女と似たような服を着ており、色さえも同じ紺色だった。

 ただ、首から先はそれぞれ個性豊かだ。

 ある物は羊の顔をしており、ある物は豚の顔をしている。そしてまたある者は牛の顔をしている。

 様々な動物の様であるが、奇妙な統一性を感じる。


(こやつらは、人間の飼育する家畜の顔をしている?)


 そして、異様なのは目だ。全員が死んだような目をしており、焦点すら定まっていない。

 テンガロンの決して大きくない声が、不思議と大きく響いた。


「まずいですね」


 それもそうだ。どこにそんなに数が居たのか、見渡すだけで4~50人は出てきている。戦うとすれば、かなり厄介だ。

 それでもこちらには我や勇者が居るのだから、数は負けていても戦力としては十分だろう。問題は。


 マアナがヴィエタやネイトの一歩前に出て、二人を守ろうとしているのが見えた。

 そうだ。殲滅は容易かもしれない。だが、守るには数が足りないのだ。

 どうしたものか、と我が目を瞑った刹那、タナカが絶叫に近い声を上げた。


「私ヲ煩ワセルナ! オイ畜生ドモ! ボサットシテナイデ早ク殺セエエエエエエ!!」


 そして、一斉に周囲を囲んでいた魔物達が動き出した。

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