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第30話 しかし、何故我がこのような事を……

 昼食の準備は、まあ順調だった。

 背の高い木々の間に流れる小さな川を見つけた一行は、その近くに陣取り食事を用意する事にしたのである。

 食事はテンガロン達が用意していた携行食ではなく、川があるので現地で調達しようという事になった。川と言っても人が飛び越えて通れる程小さな川なのだが、それでも魚の姿がチラホラと見えたからである。


「しかし、何故我がこのような事を……」


 現在我は、燃えそうな枯れた木の捜索を命じられている。

 他の者達はワイワイと魚を狩猟したり、それを捌いたりしているのだが、どうやら我は食事の用意について戦力外通告を出されてしまった様子だ。


 原因はこうだ。

 我とマアナも出会ってから道中で魚を食べていたので、その時の思い出話などをした際に、テンガロンが不意に疑問を呈したのである。


「あの、ワタはどうしたんですか?」


 この言葉に対して我もマアナも返答を持っていなかった。そもそもワタとは何なのかが分からなかったからだ。

 そこでネイトが「内臓の事です」と補足してくれたのだが、何故そんな事を聞くのかがわからない。

 しょうがないので「丸焼きにして骨以外は食ったが、何か問題があったのか?」と聞いたところ、何故か我に非難の視線と、マアナに憐憫の視線が集まる事になり、我は常識が無いので料理に触れてはならないという事になった。


 納得がいかない。全くもって理解ができない。

 話の流れから、恐らく内臓を排除して食べるのが人間の作法なのかもしれんが、そんな事わかる訳がないのだ。

 テンガロンがマアナに「食あたり」がどうとか言っていたが、内臓を食べると当たり外れがあるというのだろうか。


 別段、調理が好きだとか、その輪に加わりたいと願っていたわけでもない。

 加わりたいのではなく、外された事が気にかかるのだ。

 普通であればこんな事で頭を抱えたりなどしない。気に入らない事があれば戦って変えればいいのである。

 けれど、それができないのはマアナの存在によるものだった。

 彼女は人間だ。人間とは群れる生き物だ。それに何より子供である。

 協力してくれる同族の庇護なしに幸せに生きられるとは到底思えないのだ。

 それは短い間とはいえ、人間の社会で身を置いて見て改めて実感した。

 我々ドラゴンとは根本的に違う、弱き生き物。

 我はマアナと出会ってから一貫して、マアナが人間社会で生きていく上で必要なものを揃えるためであれば、何でもしようと思っている。

 それは、もしかすると自分の死期が近い事と何か関係しているのかもしれない。

 我は子供を持たないが、もし子が居たとしたらこういう気持ちになるのかもしれないな。

 まあ、子供云々は置いて、そういう思いがあるからこそ、この屈辱にも耐えて人間の為に木を集めているのだ。

 しかし。

 どうしてもやるせない気持ちが、溜息と共に言葉に漏れた。


「「うまくいかないな」」


 なんだ?

 今、我と異口同音に言葉を発した者がいて、まるで合掌(ユニゾン)のような現象が起きた気がする。

 それも、聞いた事のある声だった気がするのだ。


 我は、ギギギと首から音を出してその声の方を向く。

 すると、相手も同じく首から油の切れた機械の出すような音をさせながら首を回転させ、こちらを向いたようだった。


 優し気で、戦闘など経験した事がないような目。黒髪、黒目、中肉中背と、普通にしていれば誰も見向きもしないであろう容姿。しかし、今は白銀で物々しい装備で身を包んだ人物。

 それは、誰あろう勇者クロウであった。


○○○


 さらさらと水が流れる細い川に、高く上った日の光がきらきらと反射している。

 鬱蒼と高い木々が並ぶ森の中において、ここは日差しを遮るものがなく、こと昼食をとる場所としては最適な場所と言えた。

 地面も、川の付近は少々ごつごつとした岩や石で固そうだが、少し離れれば座るのに最適とまでは言わないが、それでも岩に比べれば多少は柔らかい土が広がっている。

 そんな場所で、我が集めた木を使って焚き火をし、我が集めた木を使って簡単な串を作り魚を焼いているのである。

 その付近にテンガロンが持ってきていた布のシートを敷いて皆が座している。


 しかし、当初のメンバー。つまり我、マアナ、テンガロン、ヴィエタ、ネイト、テイルの6人以外にも昼食に加わっているメンバーが居る。

 それは、先日マリーザの店にてひと騒動あった、勇者一行の面々であった。


 一人は、大斧を片手に「もっと木が必要? 切ってこようか? ねえねえ、どうなの?」と火の番をしているネイトを困らせるツインテールの女、確か名前はネーアだったか。

 そして甲冑を着たままの姿なのに、どこか気品を感じさせる振る舞いで適当な岩に腰掛ける、髪を後ろで束ねた女、確か名前はソフィー。

 彼女は先程から目を瞑っている。まるで瞑想でもしているかのようだ。

 また、しげしげと我々の採ってきたキノコを観察し、しきりに「これは興味深いのぅ」などと言っているローブ姿も言動も全てが怪しい女、マリ。

 次いで、テンガロンが広げたシートに、せっせと持参したのであろう食料を広げているフローレンスという司祭服を着た女。

 かなり高価な服なのではなかろうかと思うのだが、汚れる事も厭わない様子だ。


 そして何より、先程から我に殺意の籠った視線を向けている女。名はピュエリだったと思うのだが、正直面倒臭い。

 ピュエリもかなりの実力者であろうから、たった一度刃を交えただけでも我の力の程は分かっているのではないだろうか。

 つまり、我とピュエリでは、圧倒的に我の方が強いという事実に、彼女も気づいているのだと思う。

 だからこそ、殺意の視線を向けながらも一定の距離を保ってこちらを伺っているのだ。


 後は──。

 勇者クロウだ。

 彼は何故かマアナを気にかけている様子だった。

 マアナは不思議な躍りを踊りながら魚を焼いている──いや、本当によくわからん踊りなのだ──のだが、その隣に位置取り、あれやこれやとマアナに話しかけている。

 そんなクロウに警戒して、テイルが殺気に近いものを発しているが、勇者に気付く素振りはなかった。


 かくして、一見すると平和な光景であるが、一歩踏み込むと混沌とした昼食は、今まさに幕開こうとしていた。

 その開幕の宣言は、フローレンスの声だ。


「さあ、準備できましたよ。よければ冒険者の皆さんも食べてください」


 並ぶのは得体のしれない食べ物。

 いや、食材そのものは別段特別という事でもない。

 勇者によると、勇者の故郷では一般的な食事である「サンドウィッチ」なる料理らしい。

 どうやら、パンの白い部分を三角に切って、パンとパンの間に様々な食材を挟んだ食べ物の様だ。

 永き時を生きた我だが、パンの白い部分だけを使うなどという贅沢な調理法を見た事が無かったし、匂いも独特である。

 

 勇者クロウが笑顔で我に勧めてきたのは、卵焼きサンドなるもので、マヨネーズという聞いた事のない調味料が味の決め手なのだという。

 我々冒険者一行は勧められるままにその卵焼きサンドなるものを手に取り、口に運んだ。


 そして、全員が一斉に吐き出した。

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