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第11話 ところで、なんですの? この小さいのに凶悪な姿をした生き物は

 三人に指を突き付けられた後、積もる話は馬車でという事なのだろう。全員が馬車に乗り込んだ。

 といっても人を運搬する事を想定して座席を設けたような馬車ではない。幌のついた荷馬車というものだ。

 御者役はネイトが馬を扱えるのでという事で請け負い、今馬車の荷台にはぐるぐる巻きに縛られて転がされた手練れの男の他に、我と少女、テンガロンとヴィエタがそれぞれ座していた。

 ヴィエタが少女に詰め寄る。


「ところで、なんですの? この小さいのに凶悪な姿をした生き物は」


 ヴィエタは我の方を指さしているので、我の事を言っているのだろう。

 少女は答える。


「どらごんさん」


「確かに、姿は本で見たドラゴンとそっくりですね」


 テンガロンは顎に手を当て、考えるように言った。

 少女は頷く。


「本はわからない。でもどらごんさん」


「えと、でも、ドラゴンってもっと巨大で、一つの町を一晩で滅ぼす存在だって本には書いてたけどな」


 テンガロンは困ったような視線を我に向けながら言った。


「うん、ほんとはおっきい。かっこいい」


「要領を得ませんわね」


 この場に居る全員が困った顔をした。

 まあ、実は我、人間達が何をしゃべっているかわからないし、興味も無いのだがね。

 だから、まったく別の考え事に耽ってしまおうと思う。

 なんとなく違和感を感じたのは、人間共の髪の色だ。

 御者台に居るネイトは青い髪を伸ばしており、ヴィエタは根元が紫、先端になるにつれ色が薄くなって、毛先は水色に近くなっているような髪色だった。

 テンガロンは金、というよりは黄色に近い色をしている。少女は黒だ。

 我が過去に交流を持ったことがある人間達の髪色は、黒か黄か白だった。理由もちゃんとある。黒い色素のユーメラニンと黄色い色素のフェオメラニンの割合で髪色が黒か黄のどちらかに決まり、何らかの理由で色素が抜けると白くなるものだったと記憶している。

 したがって、少女やテンガロンのような髪色は存在したが、青や紫などという髪色の人間は存在しなかったのだ。

 いや、一人いた。

 過去に交流を持った文明に突如現れた、魔力を持った人間。彼は青い髪をしていたように思う。昔の事なので記憶違いかもしれないが。

 ただ、なんとなくではあるが魔力の有無と髪色は何か関連があるのかもしれない。

 少なくともこの場に居る人間は全員が魔力を有しており、色とりどりの髪色をしている。

 もしかすると魔力を発生させる細胞は、メラニンになんらかの作用を及ぼすのかもしれない。

 ただし、魔力を有していても黒髪や黄色い髪の人間もいるので、見当違いの仮説である可能性もあるし、作用はあるが、黒や黄色になる事もあるという事かもしれない。

 つまり、情報が少なすぎて有効な説を組み立てるには至らないという事だ。

 この何の役にもたたない考察は、役には立たないかもしれないが、我の良い気分転換にはなった。

 独りで過ごす事が長かった我にとって、少女と一緒に暮らす毎日は、一人で考えに耽る時間が減ってしまっているのである。

 というより、自分だけの時間が減ったという事かもしれない。

 それが嫌という訳ではないのだが、やはり時折自由な時間が欲しいとも思う。

 そして、そんな有意義なのか無意味なのかわからない考察を終えた頃、人間の会話はどうなっているのかと視線を向けると、少女が困った顔をしてこちらを見ていた。


『みんな、どらごんさんが悪い事するかもって言ってる』


『そうか。我は人間の味方という訳ではないから、的を射ているかもしれんな』


『どらごんさんは悪い人じゃないのに』


『そもそも人ではないのだが。まあよい、我も会話に参加しよう、通訳を頼む』


『うん!』


 少女は、皆に向かって口を開いた。


「どらごんさんにせつめいするから待ってて」


「その生き物と話せるのですか!?」


 テンガロンがとても驚いているようだが、まあよい。

 少女の話によるとこういう内容だった。

 これから町に行くが、我の姿は害ある魔物と捉えられる恐れがあるという事。テンガロン達の見解としても、少女の連れている生き物だから信用したいが、見た事もない様相をしているのでにも無害かどうかわからないという事。そして最後に、今町ではドラゴンに対して敏感になっている者も多いらしく、似た姿だと不都合があるという事。

 最後の内容は詳細不明だが、要するに我を信用できないという事だろう。


『なるほどな、大体わかった。ありがとう少女よ。しかし解決は難しい、我が町の人間に対して害意がないという事を証明する手段がない。ここまででこの人間達を皆殺しにしていない事が証明、と言っても納得しないであろうな』


 我が言葉を伝えると、少女はこの場の全員をぐるりと指差し、口を開いた。


「みんなを殺してない、だから大丈夫、って言ってる」


 かなり端折った通訳である気もするし、意訳が本来の意味を否定的から肯定的なものへと捻じ曲げているような気もしないではないが、大体合っている。よしとしよう。

 反応したのはテンガロンだ。


「あの、俺もそのドラゴンさんと直接話せるでしょうか」


 テンガロンの言葉に少女は顔を輝かせた。


「それ、いい考え。その方が楽」


「ありがとう。で、どうやればいいですか?」


「むむってどらごんさんを見てビビってするの。そしたらどらごんさんからもわぁって頭に言葉が返ってくる」


「……俺には無理だという事がよくわかりました」


「むー、できるのに」


 なんだかよくわからんが、我に話す方法を語っているのだろうか。その説明で分かるのは天才か、聡明なドラゴンである我くらいだぞ、少女よ。

 そこに、ヴィエタが我に顔を近づけて言ってくる。


「話す方法なんてなんでもいいんですの。そんな事よりあなた、もっと愛らしい姿になれませんの?」


 何を言われているのかわからないが、とても圧を感じる。ドラゴンたる我にプレッシャーを放つとは、中々やるな、この娘は。


『可愛くなれないのかと聞いてる』


 少女の通訳だ。我は反論する。


『一時的に姿を変える事は可能だ。だが、何故誇り高きドラゴンが、人間の為に姿を変えねばならぬ。貴様らが我を恐れるのは当然だ。寧ろ恐れるがよい』


「恐れよ、って言ってる」


「あなたねえ! そんな事で町の中に入れると思ってますの? 郷に入らば郷に従え、あなたは受け入れて貰う側でしてよ!?」


『それじゃ町に入れない。ごうにはいらばごうにしたがえ』


『む……、こやつ……! いや、我は誰にも従わぬ! 受け入れられぬというなら、受け入れる事ができる町以外は滅ぼしてもいいのだぞ!』


「受け入れる所以外滅ぼすぞーって言ってる」


「はあ!? なんですの!? 考える事を放棄しましたの!? あなたの負けって事でよろしくて!?」


『どらごんさんの負けって言ってる』


『なぜそうなる! 別に意見として破綻はしていないであろう! 共生しなくてはならないという貴様ら人間の歪んだ摂理を、自然に生きる我に通そうとするな!』


「人間と考えが違うだけ、負けじゃない、って言ってる」


「なんなんですの!? このトカゲは!」


『なんなのだこの小娘は!』


 睨み合う我とヴィエタ。疲れたような少女。

 そこに突如参加したのは、手練れの男だった。


「見つかってまずいなら、姿を変えるんじゃなくて隠せばいい」


 言って彼は、ロープでぐるぐる巻きにされたミノムシの様な様相でありながら、どこか余裕を感じさせる表情で僅僅かに笑った。

 今はフードは被っておらず、顔がはっきりと見えた。

 まるで雪国に住まう狼犬の様な濃い灰色の髪に、鋭いが澄んだ青い目。

 年の頃ならヴィエタと同じくらい、つまり16歳~17歳程度だろうか。つい先ほど刃を向けてきた彼が言葉を発した事で、場に緊張感が走る。

 その緊張の中、一番に声を発したのは馬を操っているネイトだった。


「私も思いました。街中を移動する時は大き目のバッグか何かの中に入っていてもらうというのはいかがでしょう」


 肩越しに言ってくるネイトの言葉に、一応の納得をするヴィエタ。

 こうして我とヴィエタの戦いは終わったわけだが、今度はテンガロンと手練れの男の番だった。

 口火を切ったのはテンガロンだ。


「お前の狙いはなんだ」


「襲撃の事か? それとも今の発言の事か?」


「どちらもだ」


「襲撃についてはお前たちもわかっているだろう。俺は暗殺者で、暗殺の指示を受けた。暗殺対象はそこのお嬢さんだ」


 言ってヴィエタに目配せする。

 ヴィエタは、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「そしてさっきの発言は、単にそれがいいと思ったからだ。他意はない」


「本当か?」


「嘘だとしたら、何を隠すための嘘なんだ。俺はどうせ死ぬんだろ? 別に、死んだ後に誰がどうなっても知った事じゃない。でも、その小さい奴が困ってそうだったし、言い合ってる二人が頭悪そうだったから提案しただけだ」


 男の言葉に、ヴィエタが目つきを鋭くする。言葉はわからないのに、何故か我も馬鹿にされたような気がするが、気のせいだろうか。

 少女が男をまっすぐに見て言った。


「困ってた、ありがとう。でも悪い事しちゃだめ」


「それは……難しいな」


 一瞬言葉を詰まらせた男は、調子を変えて少女に口を開いた。


「お前強いな、俺は生まれた時から地獄みたいな訓練を受けてきたのに、全然敵わなかった」


「んーん。あなたの方が強い。勝てたのはどらごんさんの助言のおかげ」


 二人は小さく笑い合った。どこか通じるものがあったのだろう。見れば、男の目は鋭さを残しつつも、柔らかいものを感じる。

 警戒の中に、奇妙な信頼感。馬車の中は一種異様な空気が漂っていた。

 それを一蹴するように、パンと手を叩く大きな音が響く。

 テンガロンだ。


「よし! 建設的な話をしよう!」

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