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第10話 えっと、君の名前は?

 テンガロンと名乗った長剣の男と少女が握手を交わした後、次々と自己紹介大会が始まった。

 恐らく庶民ではないと推察される女はヴィエタと名乗り、そのヴィエタの護衛と思われる女はネイトと名乗った。

 勿論、それを我が知ったのは少女の通訳があってこそなのだが。

 テンガロンは手練れの男の息がある事を確認し、拘束をしながら少女に聞く。


「えっと、君の名前は?」


 少女は、少し考えてから答えた。


「人間です」


「あー、ええっと、それは疑ってないよ。名前を教えてくれるかな」


「? ……少女、です」


「俺……嫌われてるのかな……」


 何故か落ち込むテンガロン。何を話しているのだろうか。少女の言葉は念話も同時に発してくれていてわかるので、予想では、貴様本当に人間か、などと疑われているのではなかろうか。

 そこで少女が自分は人間の少女だ、と答えているといったところだろうと思うのだが、そこに落ち込む要素などあるのだろうか。

 人間の女、ヴィエタとネイトも気になっているのか、会話に参加すべきか悩んでいる様子だ。

 いや、ヴィエタは割って入るようだった。


「なんですの? 名前を隠す必要でもありますの?」


「?」


 少女はただただ不思議そうな顔をする。人間の慣れ合いや会話になど興味がないので、翻訳も不要だと思っていたが、我も介入すべきだと感じた。


『少女よ、何を話しているのだ? ちなみにだが、声に出さずとも我に向かって言葉を念じれば会話ができる。試してみよ』


『あー、あー、聞こえる?』


『うむ、一度で覚えるとは、大したものだ』


『えへへ、すごい?』


『ああ、凄いとも。それで、この下等な人間共は何と?』


『えっとね、名前はなに? って聞いてきた』


『ほう』


『でも、私名前がない。どらごんさんがいつも私を人間とか少女って呼んでるから、それを答えた』


『なるほどな。そんな会話だったのか』


 我が思っていた会話とは全く違って少し安心する。しかし、人間とはよくわからない。


『危害を加えないという事、種族は人間であるとわかったならそれで構わんだろうと思うのだが、この人間共は納得しないという訳か』


『うん、困った』


『なら、名前はないと答えるがよい。人間というのは種族名で、少女は年齢で分別した呼称だ。彼らが聞いているのは個体名だろう』


『どらごんさんの言葉、むずかしい』


『貴様にもいずれ知識の教育が必要かもしれんな。それよりもほら、人間共が困っておるぞ。親に捨てられて名前は教えて貰っていないとでも答えてやれ』


『うん』


 少女は、口を開いてヴィエタに答えた。


「かくしてない。名前がない。親に捨てられたけど、名前、教えてくれなかった」


 少女の言葉に、三人は何故か絶句する。

 ヴィエタは、俯いて言葉を返した。


「……そう、ごめんなさい。嫌な事を聞いてしまいましたわね」


 不思議そうな少女の顔、そのほかの三人の顔は、どこか暗く、何かに耐えるようであった。

 人間は子育てをする生き物である。ドラゴンもそうだ。

 ただしドラゴンの場合は、基本的に生まれたその瞬間から一人で生きる強さが求められるのだが、親が子を見捨てる事は絶対にない。

 ドラゴンを害す存在などそうそう居ないが、そういった存在に遭遇したなら、命を懸けて子を守るだろう。

 これは、ドラゴンの種族がもつプライドの一つだ。

 この少女の親を見て、人間はそうではないのだろうかと感じていたが、今の三人の顔をみると、少女の親が特別なのだろうなと理解する。

 これから少女が人里で住む事を計画しているが、正直不安ではあったのだ。けれど人間も子供に対する愛はあるのだなと少し安心した。


「馬車は壊れていないようですね」


 話を変えるようにネイトが言い、少女が翻訳して伝えてくれる。

 馬車どころか、馬も逃げ出していなかった。馬というのは本来とても臆病な生き物である。これだけ争いがあったのに逃げずに留まるとは、余程訓練された馬なのだろう。

 テンガロンが手練れの男を馬車に積み込みながら少女に向かって口を開いた。


「俺たちはこれから近くの町まで行くのですが、その後助けてくれたお礼にどこへでも案内するから、とりあえず一緒に町まで行きませんか?」

 

「うん」


 恐らく同行してほしいと言われたのだろう。少女は肯定をした。

 

「ところで、その、聞いてもいいかい?」


 テンガロンのその声に、少女は小首をかしげて回答とする。

 そして、テンガロンはもとより、何故かヴィエタ、ネイトも少女の頭の上に乗った我にビシっと指を突き付けてこう言ったのだ。


「「「その生き物はなん(ですか)(ですの)?」」」

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