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第1話 最強の竜って何なの?

 邪竜カオスドラゴン。それは既に絶滅したと思われていた。

 だが、この最強の竜と言われるカオスドラゴンには生き残りが居たのだ。

 その爪は鋼鉄を紙のように引き裂き、その体は城を砂の様に押しつぶし、その牙は果実をもぐ様に命を奪う。

 そう、我こそはそのカオスドラゴンの生き残り、この世界で誰も敵うものなどいない圧倒的強者である!

 ……その筈である。


「何故だあああああああああああああああ!」


 我の放った爪による斬撃は相手の剣にはじかれ、どういうわけか此方が押し返されるように仰け反ってしまう。

 おかしい! 絶対におかしい! 相手は普通の人間だ。なんの変哲もない黒髪黒目の、鎧すら着ていないまるで農夫の様ないで立ちの人間。

 ただ、剣だけはやたらと禍々しく、力を感じる魔剣であった。


「あれー? 俺、やっちゃいました?」


 相手はそんな事を言っている。

 というかどういう事だ。ここは我が誰にも見つからないように気を付けて作った洞窟の最奥である。こんな所に人間が来ること自体がおかしい。

 そも、人間は我々ドラゴンに比べ脆弱な存在のはず、こんな事、認められぬ!

 頭に血が上った我は思わず口の前に魔法式を展開し、ありったけの魔力を物理的なエネルギーに変換し口から飛ばす。

 ドラゴンが扱う最上級の魔法、その中でもひと際魔力に秀でたカオスドラゴンが放つブレスだ、相手はひとたまりもあるまい!


 我の放ったブレスは、一本の光線のようになって空気を切り裂き、耳をつんざく轟音を伴って男にぶつかり大爆発を起こした。

 その爆発は、洞窟そのものを大きく揺らしたほどだ。

 いかん、怒りに身を任せて住居を破壊してしまう所だった。

 まあ、これで人間も死んだだろうし、ゆっくりと補修作業をすればよいか。


「あー、死ぬかと思った」


「なんだとぉおおおお!?」


「意外とノリいいんだね、魔王さん」


「魔王? いや、我は魔王ではないが」


「え?」


「え?」


 数秒の沈黙が訪れる。それは、体感では永遠とも感じられる沈黙だった。


「魔王、じゃない?」


「ああ、我は魔王ではない。そも、魔王とやらがどのような存在かよく知らぬ」


「あちゃー、女神さまに『この魔剣グラムを持って、魔王を討伐してください』って頼まれちゃったんだよね」


「女神? 貴様は神と対話したのか。しかし成程、その剣は人間が作るにしては強力に過ぎる」


「やっぱりそう? それでさ、折角チート能力あるんだし、先に魔王を倒して平和な感じになってからハーレム展開を楽しもうって思ったんだけどね」


「ちーと? 知らぬ能力だな。ともあれ、我は別段争いを好む訳ではない。帰ってそのハーレム展開とやらを楽しむがよい」


「あれ? 凶悪そうな竜なのに、意外と温和?」


「我は最強種だ。そもそも戦うべき相手なぞおらん。我の闘争本能が騒ぐのは憎悪に駆られた場合のみ。……貴様に恨みも何もない、戦う理由がない」


「そうなのか」

 

 興覚めである。いや、そもそも我は興に乗っておらんのだが。

 だが、相手は違ったようだ。


「でも、悪い竜っぽいし、狩っときましょうかね」


 刹那、パシィンと鞭を打ったような音が鼓膜を叩く。

 男がこちらに飛び掛かってきたのだが、その速度が音速を超え、ソニックブームを起こしたのだ。


「貴様……!」


「まだまだいくよ!」


 袈裟斬りに振り下ろされた剣を爪で受け止めた我に、男は素早く反転し、今度は下からすくい上げるような斬撃を放ってくる。

 早い! これは! 躱せぬ!

 鋼より硬い筈の我の体は、男の斬撃に血しぶきを上げて切り払われる。

 最強種と言われたカオスドラゴンの我が、ここまで圧倒されるなど! あり得ない! あり得る筈がない!

 我はもう一度ブレスを吐くため、一旦距離を取ろうと頭突きを放ったが、それも剣で払われいなされてしまう。

 頭からはどくどくと血が流れ、意識は一瞬白くなった。

 だが、その一瞬が致命的だった。

 男は剣を縦横無尽に振り回し、腹と言わず頭と言わず切り付けてくる。その振り方は、剣技と呼べるものでは決してない、児戯とさえ呼べるほど稚拙な剣だ。

 なのに、無茶苦茶だった。圧倒的な力で振るわれるそれは、目にも止まらぬスピードを備え、硬い鱗を簡単に切り裂いてゆく。


「なんなんだ……! なんなんだお前は!!」


「わかんないけど、多分、これから勇者とかそういうのになるんじゃないかな」


 どこまでもふざけた男だ! 度し難い! しかし、圧倒的な力の差はなんともならない。

 どうしたものか。

 そう考えた一瞬。我はどうやら、強者の驕りが抜けきれないようだ。先ほども一瞬の隙をついて劣勢に押し込まれたのに、また隙を作ってしまった。

 その一瞬で、男は尋常でない突進をしてきて、我の心臓のあたりに剣を突き刺す。

 いや、我にはわかる。これは、心臓に届いている。

 我は死ぬのか。悠久の時を生き、その存在理由を見つける事もできないまま、こんなふざけた男に、人違いで殺されてしまうのか。


「舐めるな人間!」


「いて!」


 我の放った右の拳が男を捉え、男は壁まで吹き飛んで行った。

 時間がない。心臓が機能を停止してしまったら、脳に酸素が供給されなくなる。

 そうなると、意識を失う。意識を失った後は、永遠に目覚める事はないだろう。

 だが、我は魔力を熟知した竜だ。体内の魔力を総動員し、心臓の貫かれた箇所を魔力壁で覆い、魔力でポンプを動かし続ける。


「いてて、マジいてえよ、回復系のスキルってないのかなあ」


 男は余裕そうに何かを言っているが、こちらにはそんな余裕はない。最速で魔法式をくみ上げ、魔力を注ぐ。


「我の全力の魔力! 受けてみよ!」


 生まれて初めてだった。全力の魔力でブレスを吐くなど。そんな相手と相対したことなどなかったのだ。


「え? ちょっとまってそれここも吹き飛ぶんじゃない?」


「くたばれええええええええええええええええええ!!」


 我が放った全力のブレスは、黒い閃光となり稲光を伴って洞窟を貫く。

 もはや、我の先の視界には、見慣れた岩壁も何もなかった。

 丸くぽっかりと空いた穴からは、外の景色が見える。

 これなら、奴も。


「あーびっくりした」


「な!?」


 あり得ない。地形すら変化させるエネルギーだぞ。どうしてただの人間が耐えることができるのだ。


「おかえしだよ」


「な、なんだと」


 そう言って、男は剣を掲げるようにした。

 そして、振り下ろす。


「魔剣グラム! 力を開放しろ!」


 その声に呼応して、魔剣から極太の力の奔流が我に向かって飛び出した。

 その本流はすさまじく、嵐の中を泳いでいるような感覚になる。


「ぐう……人間よ……! 覚えていろ……! 我は必ず……! 貴様を……!」


 その力の奔流は、我のブレスと同じように洞窟をぶち抜き、我を洞窟の外、森の中へと吹き飛ばした。

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