第50話 ゴール……
〝かっけぇぇぇぇえええ!!〟
〝やべぇええええええ!!〟
〝なに、なに、覚醒した!?〟
〝覚醒したというか覚醒してた!?〟
〝これもう色蓮ちゃんじゃなくて色蓮様やんけ〟
〝ぐぁああ認めたくねぇ様付けしたくねぇ嫌ってるとかじゃなくてむしろ超好きだけどキャラ的にっ!〟
〝というか空飛んでて草〟
〝調べたけどそんなスキルね—よまたユニークか!?〟
〝一人で二つのユニークてそんなんありかよ!?〟
……普通にありだ。
というより、ユニークスキルを一つしか持たない高レベルは一人もいない、と言った方が正しい。いわば色蓮の星環陣はユニークの低スキル、今回のこれは中間程度に該当する。
しかし早い。レベル70程度で二つもユニークスキルを手にするのは異例と言ってもいい。それは勿論誇るべきことではあるが、異例というのは何も良いことだけに使われる言葉ではない。
雨風をものともせず、一直線に天を駆ける色蓮。
その額から雨ではなく汗が流れると、バッグからマジックポーションを取り出して一息に呷った。そしてまた、加速する。
@四九椿:〝ポーションに余裕はありますか。そのスキルは貴方が使うには分不相応が過ぎます。死にますよ〟
「心配してくれてるんスか、意外と優しいっスね。でも余計なお世話ってやつっスよ」
色蓮は何者にも遮ることのできない空で、不敵に笑う。
「道標は見えている、そう言ったでしょう。これが闇雲に飛んでいるだけなら持ちませんよ、でもそうではありません。五層への転移石は特別な場所にある、でしたよね」
〝ワイのコメント覚えててくれてる!〟
〝良かったやん〟
〝良かったんかそれ、つまり特大のヒントになったってことだぞ。覇星様と四九椿様に目をつけられんことを祈った方がいいのでは〟
〝洒落になってないやん〟
〝ヒェ、許して_(_^_)_〟
〝煽ってるようにしか見えなくて草〟
「あっと、視聴者さんには怒らないでくださいね、キッカケはコメントですけど、自力で気付いたのには間違いないので」
彼女はいつものようにドヤ顔を披露し、そして言う。
「五層の転移石の場所——それは恐らく神殿です」
……合っている。
闇雲に探しただけで見つけた当時の俺。興味が薄くて今でもなぜそんな所にあるのか分からない俺は、答えが聞きたくなった。
@覇星斧嶽:〝どうしてそう思った〟
「ふふん、特別な場所といえば神殿でしょう。漫画とかではお約束です」
……次はどんな目に遭わせようか。
「冗談スよ!? 無言にならないでくださいなんか怖いので!」
色蓮は空中で器用に咳払いをした。ちなみに俺は冗談ではない。
「四層を歩き回っている時に気付いたんスよ、荒地なのにたまーに石畳っぽい欠片があるなと。こういう場所で石畳とかの人工物っておかしいじゃないっスか。それで気になって注意してみれば、何となく道のようになっている気がして」
色蓮は更にもう一本、マジックポーションを呷った。
「アレは多分、巡礼用の舗装、その名残なんだと思います。誰が巡礼するんだっていうのはダンジョンなので気にしないとして、そういうテーマなんでしょうきっと。巡礼といえば神殿です」
@覇星斧嶽:〝例えそうだとして、その神殿が雨季の雨で沈んでいたらどうする〟
「意地悪っスね」と、彼女は苦笑した。
「ないでしょう。この雨の中で攻略している探索者に対してそれは理不尽が過ぎます。もしそうだとしたらその人たち、というか私はこのモンスター溢れる川に潜る必要があるんスよ? いくら何でも死にますって。いえ、そういった理由もありますが、本当はもっと別の理由もあります」
そう言って、彼女は断言する。
「巡礼用の神殿が、雨で沈む場所に建てられるはずがないでしょう」
……それもそうだな、色々な意味で。
この程度のこと、どうして当時の俺は気付けなかったかな。
気付いていれば、もっと早く帰れたかもしれないのに。
@四九椿:〝だからといって、この雨の中強行しますか。貴方の仮説が正しいかなど定かではありません。人はそれを、無謀というのですよ〟
「無謀ではありませんよ。無謀で馬鹿なら、きっと先輩が何かしら一言いっています。だからこれは——無茶なんです」
そして更に、加速する。
「無茶なら通せ。きっと先輩も、そう思っているはずっスよ」
……さぁ、どうだろうな。
色蓮の言い方が面白くて、つい笑いが溢れた。
「“……中々、面白いお嬢さんを指導しているようですね”」
椿から届いた念話。
いつもなら必ずと言っていいほど無視をする奴からの言葉に、俺は珍しく反応した。
「“指導じゃない。手伝いだ”」
俺は何も教えていない。これまでも、そしてこれからも。
全てはあいつ自身が選び、勝ち取らなければ意味がない。あいつの道に俺という存在はノイズでしかない。そうあるべきだ。
それが、探索者だ。
「——高い場所を目指せばいい。この平地と見せかけて、緩やかに勾配の付いたエリアの、最も高い場所へ。そうすれば、きっと——」
マジックポーション、三本目。
残り本数が心許ないのか、色蓮が僅かにバッグをチラリと見た。
……大丈夫だ、お前は勝った。ひとまずは。
「——あった、あった! 神殿……本当に神殿でした!」
〝おおおおおおお!?!?〟
〝すげぇええええええ!!!〟
〝名探偵 いろはす!〟
〝いやこれはすげぇよ、新宿の四層で雨季攻略とか初めて見た〟
〝新宿ダンジョン四層はガチで攻略が推奨されてない上に雨季の中とかホンマ阿呆扱いでもはや非推奨なのに!〟
〝色蓮ちゃんの新ユニークチート過ぎんかダンジョンさんよぉ!〟
〝空飛んでただけだろ! 普通にあるわ!〟
〝むしろ空飛ぶだけなのに燃費悪過ぎ、魔法使いのレビテーションの方がもっと効率ええぞコラ!〟
〝おい本当に凄いところはそこじゃねぇだろ!〟
〝せやな!〟
「……っ!」
コメントに反応する余裕もないのか、色蓮がスキルを解いて朽ちて崩れかけた神殿の扉を潜る。薄暗く、意外と広いその中で目を眇めて転移石を探し——絶句した。
……さて。
どうして新宿ダンジョン四層において、雨季の中での攻略が非推奨になっているのか、豆知識を出そう。
それは荒地が川のようになって、歩くことすら困難になるから——違う。
乾季と違い、雨季はモンスターが様変わりするから——当然違う。
四層における実質的な頂点捕食者——『アリドレクス』。
乾季の四層で最強の彼は、雨季の中でどこに行くのか。
答えは————目の前。
【嵐の王】
【荒野の使者】
【滴り落つ餓声】
雨季の影響で渇きを癒やした、真なる暴君。
————【イグザレクス】
……彼が、色蓮を芯から見据えていた。




