第43話 返事が無い、ただの……返事が無いなぁ side色蓮
いきなり「そのまま攻略を続けていろ」などと当たり前のことをコメントした先輩に、私は首を傾げざるを得なかった。
「どうしたんスかね、一体」
〝色蓮ちゃんでも分からないならワイらにも分からん〟
〝ドS様のことや、また何か企んでると見た〟
〝鬼畜様だからね、常に身構えた方が良さげ〟
〝様を付ければ全てが許されると思うなよ?〟
〝いやいやこんな状況で何かはせんやろ、それこそマジの鬼畜様になってまうで〟
〝色蓮ちゃん疲れてるし発破かけただけでしょ〟
〝(二度寝すると思ったのでは?)〟
「二度寝なんかするわけないっスよ!?」
いつものように軽い調子の視聴者と会話し、少しずつ頭を覚醒させていく。しかし肝心の一愛先輩からは何も無かった。
……まぁ考えても仕方ないか。というかいまだに西園寺呼びだし。
誰に対してもああなので特に気にすることはない。特に気にすることはないけれど、うん。
寝不足からか少し乱雑に髪を結び、大弓を背に掛けた。新しい矢筒——魔道具から矢がきちんと出ることも確認する。
「さて、準備もできたのでいきますか」
……四層は想像以上に過酷な階層だった。
広大な土地。暑すぎる環境。二層以上に闊歩している強力なモンスター。トドメに人工魔道具禁止に伴うマジックバッグの使用不可。これが本当に痛い。
持ち出した物資を全て使えないということは、生きていく為に必要なものを全て現地調達しなければいけないということ。少し前までただの、どちらかというと温室育ちである私には難易度が高い。それこそ、視聴者と馬鹿げた会話をしなければ音を上げてしまいそうなほどに。
……そしてなにより、ここはダンジョンだ。
「——《レインアロー》!」
遠距離から矢の雨を降らせる。無数に転がっていたタンブル・ウィードらしきものは、当たった端から枯れ草のようにくしゃっと潰れた。
〝おお、タンブル・ニードラーを初見回避か〟
〝やりますねぇ〟
〝危険度は低いけどあいつら擬態してるから気付いたら囲まれてて結構厄介なんよね〟
〝毒とかは無いけど棘飛ばしてきてかなり痛いわ。色蓮ちゃんその防具効果失ってただの鉄だから気を付けて〟
〝せやった、それただの鉄やんけ、モンスターの攻撃なんて紙切れみたいに通るぞ、ヤバない?〟
「あ、いえ、これはパパが特注で頼んでくれた、め、メタング? とかいう素材を使っているので、そう簡単に壊れるものではないっスよ。流石に直撃すれば森鬼の攻撃でも凹むくらいはしますけどね」
〝……メタングってなに? 進化しちゃうポ○ットなモンスター?〟
〝ちゃう、それダンベルや〟
〝ダ○バルな。それにメタングも合ってるわ。いやそんな素材ないわ〟
〝わけわからんくなってきたけどこれだけは言える。その素材は『タングメタル』や〟
〝レベル120相当の素材じゃないですかヤダー〟
〝色蓮ちゃん固有名詞に弱すぎん?〟
「ニュアンスさえ伝わればいいんスよ! それに人工魔道具としての効果は自己修復と着心地に全振りしたので四層くらいなら問題無しっス!」
〝着w心w地w〟
〝自己修復はともかく着心地とかどうでもええやろwww〟
〝いやぁ案外馬鹿にできんよ、結果として特殊エリアの影響を薄くしてるからね〟
〝せやなwww〟
盛り上がってくれるコメント欄。しかし一愛先輩からは反応がない。
……いや、元々コメントする頻度はそんなに高くなかった。気のせい気のせい。
タンブル・ウィードをモンスターだと判断出来たのは、先輩が魔力の可視化を常時使えと言ってくれたから。そのお礼を言う機会を、私は少しだけ欲しかった。
その後も、私は五層への転移石を探す道すがら、レベルを上げるためにモンスターを倒していった。
トリケラトプスのような見た目をした——ストーン・ヘッド。
プテラノドンのような大型の飛行モンスター——サンダイバー。
小型の肉食恐竜型モンスター——ヴェロキ・スピアー。
初日に強敵と当たりすぎたせいで少し怯えが走っていたが、これらのモンスターを倒せたことで少し自信が戻ってきた。私はここで必ず強くなれる。
モンスターの名前を教えてくれたのは、視聴者達だった。
「しかしアレっスね、四層は何というか、ジュラ紀みたいっスね。恐竜多いですし」
〝恐竜? 恐竜か?〟
〝正確には恐竜型モンスターやけど、せやな〟
〝明確に食物連鎖あるからなここ。モンスター同士で食い合っとる〟
〝環境は過酷やけど楽しいところよ。幼い頃の冒険心くすぐられる〟
〝色蓮ちゃんもそういうの経験あるやろ、昆虫図鑑眺めたり蝶をピン刺ししてみたり〟
「いえ、ウチはどっちかというお人形遊び派だったので」
コメントに苦笑を返すと、晴れ渡った上空にサンダイバーが一体で飛んでいるのを見つけた。チャンスだ。前回は三体の群れだった為に少し苦戦している。
私はサンダイバーを撃ち落とそうと大弓を構え——足元が沈んでいることに気付いた。
「——な!?」
流砂——いや蟻地獄!?
一瞬だけ見えた二本の鎌。アリジゴクとカマキリを足して2で割ったようなモンスターが、私を地面の下から狙っていた。抗う間もなく一気に腰まで引きずり込まれる。
加えて——ヒュ、と。
それまで私に背を向けて飛んでいたサンダイバーが急激に方向転換し、そして太陽を背に私目掛けて急下降してきた。
嵌められた——いや、まだっ!
「——《星環陣》!」
足周りに星屑達を可能な限り集め——解放。
地面が爆発したように弾け飛び、それに巻き込まれる形で私は罠から脱出する。そして勢い止まずサンダイバーの太い首を掴み、背中から抜き取った矢を直接首にぶっ刺した。
「——キュアアァッ!」
暴れるサンダイバーから手を離し、落下。
私は空中で大弓に矢を番え——放った。
「ぐ……っ」
私が受け身も取れずに落下するのと、矢がサンダイバーを射抜くのはほぼ同時だった。即死だったのか慣性に従って落ちてくる。
カマキリみたいなモンスターは、地面の下で焼け焦げていた。
……まずい、無茶な使い方でMPがごっそり持ってかれた。
ユニークスキルは諸刃の剣。まだ私には便利扱いできるほど練度もMPも足りていない。可能な限り温存しなければいけないのに、こんな所で使ってしまった。
……マジックポーションはまだある。でももっと慎重にいかないと。
しかも無理過ぎる脱出方法だったのか、防具を貫通して足にまでダメージが入っている。自傷だ。これはポーションを飲まないと今後の探索に支障がでるほどに。まさに踏んだり蹴ったりと言える。
〝あ、あぶねぇ……〟
〝サンドシックルは四層で最悪の罠に分類されるからね、回避できて良かった〟
〝死亡率でいえば二層の迷幻樹海の方が高いけど、危険度はこっちの方が断然上。あっちは魔力さえ扱えれば怖くないけど、こっちは地中深すぎて見えんからね〟
〝戦闘IQが高くないと死んでたな今の〟
〝色蓮ちゃん大丈夫?〟
「大丈夫っスよこれくらい。ウチは慣れっこです」
私を心配するコメントに笑顔で返し、名前を待った。
……一愛先輩は……何も言ってこない。
「Excellent work……お見事、素晴らしい戦いでしたよ」
唐突に、私に気配を感じさせず、背後からそう声が聞こえてくる。
驚いて振り返れば、三者三様の顔が並んでいた。
……誰?
【TIPS:ダンジョンの加工用素材について】
ダンジョンから産出される素材は現代科学では再現不可能な特性を持つものが多く、武具や道具の性能を飛躍的に向上させるため、国家レベルで管理される極めて重要な戦略物資である。
それらは大別して、以下の四種類に分類される。
【金属素材】
ダンジョンの鉱脈から採掘される鉱石。ミスリルやアダマンタイトといった有名なものから、今回の騒動で名前が挙がったタングメタル、更にはヒヒイロカネのような伝説級までその種類は多岐にわたる。階層が深くなるほど硬度や魔力伝導率が高い、優れた金属が産出される傾向にある。
【魔獣素材】
モンスターから剥ぎ取れる、骨、皮、牙、鱗など。素材ごとに「火に強い」「軽い」「毒を防ぐ」といった多種多様な特性を持ち、武具に特殊な効果を付与するために用いられる。高レベルモンスターの素材ほど強力な特性を持つ。
【自然素材】
ダンジョン内に自生する特殊な植物や鉱物。世界樹の枝やマンドラゴラの根といったものが有名。武具の素材だけでなくポーションや魔法の触媒としても広く利用される。
【魔法素材】
魔力の結晶(魔石)や特定の条件下でしか採取できない「光の雫」「闇の欠片」といった、魔力そのものが物質化したような素材。エンチャントの核として武具に魔法的な効果を付与する際に不可欠となる。
これらの素材を組み合わせることで、探索者たちは己の命を守る武具を作り出す。




