第30話 結構真面目に話してたのに
〝お〟
〝お〟
〝繋がったwww〟
〝お早いご復帰でwww〟
〝なに突然切っとんじゃワレェ!〟
〝爆笑したから許してやるけどよぉ!〟
「す、すみません。その、色々衝撃的だったもので」
配信を再開させ、視聴者に向かって平謝りをする色蓮。
その姿を近くで見ながら、俺は溜息をこぼすのを止められない。
……全く何をやっているんだ。
あのあと、配信を切られたことで状況の把握ができなくなった俺は、すぐに色蓮の側へと転移した。
三層という特殊な構造上イレギュラーが起こる確率は極めて低いが、それでもゼロということはない。俺が見ていない間に何かあっても困るというのに、一体どういうつもりだと。
そうどつき回してやりたかったが、胡座をかいたまま放心している彼女を見たらその気も失せた。
アレだ。FXで有り金全部溶かした顔をしていたから。
「なので、先輩と話し合ってスパチャに上限を設けさせてもらいました。一万円ほどで」
〝は?〟
〝なんで?〟
〝マジだ、上限越えの表示でたwww〟
〝スパチャ制限とか中々聞かないぞww〟
〝探索者はお金いるんだから貰っとけばいいのに〟
〝西園寺のお嬢様なのに大金に耐性なさ過ぎww〟
「いや、パパがお金持ちなのとウチがお金持ちなのはイコールではないっスよ。というかあんなのやり過ぎっス!」
ついにというべきか、謎に色蓮が逆ギレした。
「広告費で運営からお金を取るのは全然いいスけど、あんなやり方でお金を貰うのはなんか不健全です! よって制限! 文句ありますか?」
〝運営から取るのはええんかw〟
〝そらお前企業やし〟
〝母数が違うんよ母数が〟
〝ポーション類どうするんや、パパのお金か〟
〝覇星様にポーション返さなくていいの?〟
「ポーション類は変わらずパパにお願いします。制限は設けたとはいえ、それでもスパチャや広告費の収入はあるのでそれを充当する形で。先輩は探索に邪魔なら切っとけ馬鹿が、と……」
〝怒られてて草〟
〝そこはかとなく優しさが見えてて脳破壊〟
〝最初から魔石や素材集めとかさせんかったからな覇星様は。マジで金に興味ないんやろ〟
〝色蓮ちゃんの成長にしか興味なさげ〟
〝レアドロしてもスルーさせてて血涙流れたわ〟
〝まぁレベル100越えたらちまちま魔石拾いせんでも軽く億いくしな〟
「というわけでこの話しは終わり! スパチャは一人一万円まで! いいっスね?」
〝はーい〟
〝はーい〟
〝おけ〟
〝わかったよママ〟
〝嫌がることはしたくないからしゃーない〟
〝ヴォエ〟
〝ヴォエー〟
「そ、それは忘れてください! 切り抜きとかもしたらダメっスよ、絶対ですからね!?」
……あの程度で狼狽えたお前が悪い。
そうして火消しに必死になった色蓮——いや、恐らく俺に向けて、コメント欄にまた赤いコメントが投稿された。
内容は、含意が広すぎて俺には答えようがない。
¥10000
〝異常領域対策本部が発表したダンジョン崩壊時のガイドラインについて、どう思いますか〟
「スパチャありがとうございます。ダンジョン崩壊時のガイドラインについて、スか」
律儀にも、色蓮は顎に手を当てて唸った。
「まず、ウチはあのガイドラインを熟読しました。その上でウチの考えを言いますと、皆さんもあれを読んでその通り行動してください、としか言えないっス」
〝せやな〟
〝色蓮ちゃんに聞いてもな〟
〝多分覇星様に聞いとるんやろうけどな〟
〝同じことやろ、答えようがない〟
〝マジレスするとダンジョン崩壊はほんまに起こるんかな〟
〝それもわからんとしか言えんわ〟
〝(ワイのパンツ何色スパチャが無視されてる件について)〟
〝一回起きたし二回目もあると警戒せんと〟
〝実際超局所的にやけどモンスターは地上に出てきとるよ。この間それで一人○んだ〟
〝↑いや、それはガイドラインが発表される前にもちょくちょくあったよ。それとダンジョン崩壊を結びつけるのは無理じゃない?〟
〝それにあの動画はあいつが馬鹿だっただけ〟
「それはウチも見ました。もう動画は削除されてますけど。被害者の方にはご冥福をお祈りしますが、皆さんは絶対にあんな真似しちゃ駄目っスよ」
少し、真剣な顔で色蓮が言う。
「ここでかなりぶっちゃけちゃいますけど、第二次ダンジョン崩壊は確実に起きます。なんでそう言い切れるかは、ウチの伝手で察してください」
〝!?!?〟
〝マジ、か……〟
〝覇星様か?〟
〝色蓮ちゃんの伝手というと西園寺グループか覇星様よな。どっちも信憑性が高い情報源やんけ〟
〝いやだわ、聞きたくなかった〟
〝こんなとこで確定させちゃって良い情報なんかこれ〟
〝今更やろ。ガイドライン発表の時点で物価上がっとるしトイレットペーパーは品切れや〟
〝むしろ配信を楽しんでるワイらが異端まである〟
「なので、皆さんはホントに自分の命と大切な人を守るために、ガイドラインを熟読して備えてください。こんなところでお金使ってる場合じゃないっスよ、真面目に」
〝了解〟
〝しゃーない、魔道具買うか〟
〝守夜晶とかええよな、三日くらいモンスター寄せ付けんぞ〟
〝あれ百万くらいするやん。しかも使い切りだし〟
〝命には代えられんやろ〟
〝第一次は何層までのモンスター出たっけ?〟
〝三層までや〟
〝おお。じゃあ色蓮ちゃんメイン戦力やな〟
〝ガイドラインといえばパーティー編成が原則やけど色蓮ちゃん含めてソロ勢どうするんやろか〟
〝覇星様もだぞ〟
〝というか三層程度なら覇星様が対処しただけで解決しそう〟
「む……それは」
色蓮が何か言いたそうにこちらを見ている。
わかっている。俺も誤解されたままなのは気分が良くない。
……最悪どうでもいいし俺にたてつける訳もないが、行き場を無くした矛を別に向けられても面倒だしな。
@覇星斧嶽:〝全国規模の崩壊に俺だけで対処できるわけもない。それと俺に原則は適用されない〟
〝おうふ……〟
〝まぁ、残当〟
〝マジで残当〟
〝残念過ぎる当然だわ……〟
〝しれっと原則無視よ〟
〝ま、まぁ原則は原則やから〟
〝原則とは例外を作るためにある〟
〝色蓮ちゃんは?〟
「ウチは無難に臨時のパーティーを組まされると思います。ホントはウチも先輩と……いえ、なんでもないっス」
〝(マジ唐突なのやめて)〟
〝いやそういうのじゃないだろwww〟
〝それにはまだ色蓮ちゃんは弱いかなぁ〟
〝レベル幾つくらいで例外やろか?〟
〝ランク百位以内じゃない?〟
〝レベル400が最低条件か〟
〝先は長いなぁ〟
〝言ってもこのペースだと後半年くらいでいっちゃうぞ〟
〝はやwww〟
「と、とにかく、ウチはウチでいち早く強くなる為に頑張るので、皆さんも必ず有事に備えてくださいということで! 以上っス!」
以上と言ってからも、彼女はコメント欄と共に崩壊時の対策を話し合っている。
その横顔は真剣そのものであり、声音は心の底から視聴者の安否を願っている。
決して力あるものの義務や、配信者としての責務で話しているのではない。
ただ純粋に、人を想っている。
……眩しい。
やはり、お前を強くするのが、俺にとっての優先事項で上にある。
「なのでそれは——ん? なんか地面揺れてます?」
〝地震?〟
〝こっちは揺れてないよ〟
〝いやダンジョンに地震て届くんか〟
〝確かに画面揺れてるな〟
〝またイレギュラー?〟
〝三層は試練形式だしそれしかないけど、そんな何回もあるか?〟
〝あ〟
〝あぁ〟
〝草〟
〝(察し)〟
〝わろたwww〟
「え、なに、なんスか!?」
訳も分からず狼狽える色蓮の耳に、ダンジョンからのアナウンスが無慈悲に届く。
『申請が受理されました。西園寺色蓮による、第三階層主への挑戦を開始します』
「————」
@覇星斧嶽:〝長話はそれくらいでいいだろ〟
いち早く強くなるというからには、三層程度は楽にクリアしてもらわないと困る。
そうではないと、俺が手伝う甲斐もないだろう?
「————先輩のバカぁぁぁぁ!!」
色蓮の絶叫が、三階層に空しく響いた。
@覇星斧嶽:〝頑張れ〟
——その日、色蓮は四階層への挑戦権を手に入れた。
最後辺り泣きそうになっていたのは、わざわざ言わなくてもいいだろう。
【Tips】マジックバッグ
ダンジョンから産出される特殊な素材を用いて作られる人工魔道具の一つ。アイテムボックス、〇次元ポケットなどとも呼ばれる。
内部が亜空間に繋がっており見た目以上の容量と重量のアイテムを収納できるため、探索者の必須装備とされている。
その性能はランク付けされており、安価なもの(Fランク)はリュックサック程度の容量しかないが、最高級品(Sランク)にもなると家一軒分ですら丸ごと収納できるという。
また、内部の時間の流れを遅延させ、食料の鮮度を保つ「時間停止」機能などが付随した特殊なモデルも存在する。
……黎明期、ある探索者が瀕死の仲間を救うため、気密性の高いSランクのマジックバッグの中に彼を入れ、地上へ連れ帰ろうと試みた。
しかしダンジョンの外に出た瞬間、亜空間の座標がリセットされ、中にいた仲間は原子レベルにまで分解されて消滅した。
それ以来、「生物の収納」は探索者たちの間における最大の禁忌となっている。




