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第29話 スパチャ怖い


『西園寺色蓮が複合試練をクリアしました。レベル未達。複合試練のクリアにより、第三階層主への挑戦権を獲得しました』


 ——どさっ


 そんな音が聞こえてきそうなほど、色蓮は大袈裟な動きでコロシアムの床に寝転がった。

 三体のゴーレムを相手に勝利しておいてこれとは、大した役者だ。

 

 ……もう一本いっとくか?


「先輩、先輩! マジでもう無理っスから! 度重なる前例による勘で言いますけど、マジでこれ連発とか無理なので! 死ぬので! フリじゃないっス、本心———ゴホッ」


〝草〟

〝草〟

〝喉枯れるくらい叫んで草〟

〝嫌な予感ビンビンしたんやろなww〟

〝マジでやりかねんからなww〟

〝覇星様「無傷じゃん、次行こう」〟

〝ポーションで治しただけなんだよなぁ〟


 ……まぁいい。無理強いはしない。


 色蓮はしばらく身構えながらその場に留まったが、俺が何もしないことを確信するとホッと胸を撫で下ろした。

 コロシアムの中央に陣取り胡座をかくと、ジトッとした目つきで配信画面を睨んでくる。


「先輩、なんでこんなことしたんスか」


@覇星斧嶽:〝いけそうだと思ったからやった。それがどうした〟


〝などと供述しており……〟

〝いや反省の色どころか開き直ってて草〟

〝開き直るどころか罪悪感の欠片も感じてねぇぞww〟

〝覇星様流教育その一・我が子を千尋の谷に突き落とす程度では温いので、積極的に死の淵まで落とすべし。但し死なせない〟

〝なお、苦しみは長く続いた方がお得とする〟

〝無間地獄かな?〟

〝誰か児童相談所に通報してあげて〟


 ……そこまでではない。というか誰が我が子だ。


 というよりも、俺にはなぜ色蓮が無理だと拒絶するのかが分からない。


@覇星斧嶽:〝最初は確かに手こずっていたが、『知の番人』のギミックを理解してからは問題なかっただろう。何が不満なんだ〟


〝たしかに〟

〝あの無敵ギミック解除してからは普通に勝ててたよな。それまでは結構怪我してたけど〟

〝怪我(腕ぷらーん)〟

〝怪我(吐血)〟

〝《陽炎》の使い方はおかげでめっちゃ上達したけどね〟

〝ゴーレムにも幻影って効くんやなと思いましたまる〟

〝いやあの所業を“おかげ”とは思いたくないやろww〟


「……まぁ、いいっスけどね。レベルも上がりましたし」

@覇星斧嶽:〝なら最初から文句を言うな〟

「そうなんスけどそれを先輩に言われるとめっちゃ腹立つっス!」


 画面、というより俺に向かってふくれっ面を見せる色蓮。

 彼女はしばらくそうして不機嫌そうにしていたが、ふと思い出したように顔を明るくさせる。


「そういえば、ようやくウチのチャンネルが収益化を認められたんスよ。これで先輩から借りた諸々を返せるようになるっスね!」


〝マジか!〟

〝おめ!〟

〝おめめ!〟

〝案外時間掛かったなぁ〟

〝いうて初回配信からそんな経っとらんからな〟

〝ほんまや、レベル50に騙されたわ〟

〝いや遅いわ、チャンネル登録者数が千人越えたら審査されて、大体そっから三日くらいやぞ〟

〝ホントはもっと早くに収益許可されてたやろ?〟

〝連絡きてたのいつや? ん? 言うてみ〟


「ぐ……えっと、一週間くらい前っス」


〝草〟

〝なについ最近許可されたみたいな言い方してんねん!〟

〝そういうとこズボラやな色蓮ちゃん〟

〝ええよ、ワイが管理したる。下心はないよ〟

〝みんな最初はそう言うんやで〟

〝いっぺいちゃん食べたくなってきた〟

〝でもちょい遅くて草なんだわ〟

〝チャンネル登録が爆増されすぎて混乱してたのではw〟

〝あり得そうで草〟


「と、とにかく、ウチの収益化が許可されたので、アレ、解禁しちゃいます!」


 ……アレとは?


 と思ったが、何のことはない。ただのスーパーチャット機能だった。


 色蓮は胡座をかいたままドヤ顔を浮かべる。


「ふふん、ウチに貢ぎたい人は貢ぐといいっスよ。まぁ? ウチは普段からいいもの食べてますし、適当な端お金では心が動かないので、質問に答えるくらいが関の山っスけどね」


〝なんだこのガキ……舐めてるフリして気遣いやがって〟

〝質問には答えるとか十分過ぎでは?〟

〝はしたおかねってなんだよ〟

〝隠しきれない良い子臭〟

〝今更小悪魔キャラ気取っても遅いぞ〟

〝質問には何でも答えてくれるんか?〟


「む……限度はあるっスけど、できる限りは答えるっスよ。あとウチは後輩キャラっス」


 ¥10000

〝ではさっそく。普段の服装はどんな感じ? 白のワンピース?〟


 ポンと出てきた赤いコメントに、色蓮の顔が少し引き攣った。


「い、一万円でその質問スか……まぁ、ありがとうございます。質問に答えると、ウチは普段きれいめなカジュアル系をよく着るっス。たまにアメカジやボーイッシュなのも。ワンピースとか、そういうガーリーなのはそんなに持ってないっス」


〝何語?〟

〝おれらにもわかる言葉で喋って〟

〝ガーリー系は好きじゃないのか。一番似合いそうなのに〟

〝動きにくいんやろ(適当)〟

〝一万円でしょぼい質問したから色蓮ちゃん困ってて草〟


 ¥20000

〝色蓮ちゃんにとって覇星様はどんな関係?

 1・ご主人様。2・師匠。3・恋人。4・お兄ちゃん〟


「なんスかその質問、しかも選択式とか。その中で言えば2の師匠っスよ。他はあり得ないでしょう。師匠というのも微妙っスけどね」


 そりゃそうだ。俺は色蓮に何も教えていない。

 というか、なんだこの流れは。


 ¥50000

〝どうやら本当に質問に答えるようだな〟


 ¥50000

〝有言実行とはやりますねぇ〟


 ¥50000

〝しかし耐えられるかな?〟


 ¥50000

〝気付いていないようだから教えてやろう〟


 ¥50000

〝今お前が相手をしているのは、スパチャ解禁を待ちわびた80万人以上の視聴者だということをな!〟


「ヴァ!?」


 怒涛の——それも全くの別人から投げられた一糸乱れぬ上限赤スパに、色蓮の口から出てはいけない音が噴き出した。


 しかし、彼女が我に返る隙をコメント欄は作らない。


 ¥50000

〝スパチャ祭りじゃ! おらくらえ!〟


 ¥50000

〝色蓮ちゃんの汚い声助かります!〟


 ¥2000

〝手帳集めるの趣味だって前に聞いたけどどんなやつ集めてるの?〟


 ¥5000

〝色蓮ちゃんパジャマじゃないと寝られないそうだけどどんなやつ? 短パンティーシャツとか?〟


 ¥20000

〝マジでレベル上げ早すぎて嫉妬なんだけど、覇星様のおかげとは言えんくらい色蓮ちゃん自体のセンスも高いと思ってる。普段どんなことしてる?〟


 ¥20000

〝ガチで失敗したと思った行動教えて。それだけは絶対に回避するから〟


 ¥20000

〝マジックバッグに沢山入れてるけど、これだけは絶対いると思ったアイテム教えて!〟


 ¥50000

〝とりあえず投げとけ〟


 ¥50000

〝覇星様にも半分いくと聞いて〟


 ¥50000


 ¥50000



「あわわわわわ、あわわわわわっ」


 過去一といっていいほど狼狽える色蓮。

 金額的には大したことなくとも、俺もこれには恐怖を覚える。

 

 何がまでかは分からないが、何となく怖い。


「ひ、非常識っスよ、そそ、そんなお金の使い方! ご、ごご、五万円もそうっスけど、千円とか二千円でも、そんなほいほい使っていいものではっ」


〝質問に答えてやくめでしょ〟

〝お嬢様ならこんなはしたおかね見慣れてるでしょう?〟

〝普段使ってる君のポーションの方が高価だよ?〟

〝あぁ〜、スパチャ祭りに狼狽える配信者からしか摂取できない栄養がこの世にあるんじゃぁ〜〟


 ¥50000

〝質問に答えようか〟


 ¥50000

〝はよ答えんかい〟


 ¥50000

〝ビビってんの?〟


「ぐ、ぐぬぬ……い、いいでしょう、そこまで言うのならウチも遠慮はしないっスよ!」


 何を遠慮しないのか分からないが、色蓮は宣言通り質問に答え始めた。


「手帳は手の平に収まるくらいのがかわいくて好きっス。今も持ってきてますよ、その日嬉しかった出来事を書き留めたりしてるっス」


 次。


「パジャマは上下一体のやつっスね。何がとかはあんまり気にしてないっス。着ぐるみとか、スケスケなのは持ってません」


 次。


「何がと言われるとアレですけど、ウチは陸上を少しやってたので体を動かすのは得意っス。種目は短距離メインで、走り高跳びも得意っスよ」


 次。


「失敗したと思ったのは、やっぱりキャップと一緒に二層のモンスター相手に暴れたことっスね。あれはもう二度とやりません」


 次。


「必要なアイテムはやっぱりポーションっスよ。それ以外は便利なだけで必需品ではありません。とはいえ、ウチには先輩がいるのでその辺は参考にならないかも。もっとちゃんとした人に聞いたほうがいいっスよ」


 次、と、色蓮は流れ作業のように質問に答えていく。


 そうして暴力的なまでに真っ赤なコメント欄をさばき続け、色蓮がふっと気を緩ませると、配信画面の端に目を移らせた。

 そこにはこう書かれている。


『現在のスーパーチャット総額:20890000』


「——————————」


 色蓮は固まり、震え出し、白目を剥いて、



「————————ヴォエ」



 奇声を発し、配信を切った。





【Tips】探索者の収益


 探索者がダンジョンから得る収益は、主に二つの柱で構成される。

・ドロップアイテムの売却

モンスターが死後に残す「魔石」や素材の売却益。これが探索者の最も基本的で安定した収入源となる。素材は西園寺グループが運営する「ダンジョンデポ」などが、市場価格に基づいて常時買い取っている。



・配信活動による収益

近年、急速に拡大している新しい収益源。人気配信者にもなれば広告収益や投げスパチャだけで、ドロップアイテムの売却益を遥かに上回る金額を稼ぐことも可能である。 


その他、特定の階層エリアを実力で支配する一部の巨大ギルドや派閥による、独占的な資源採掘など、公にはされていない収入源も数多く存在すると言われている。



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