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第20話 野生の素直でかわいい馬が現れた!


 六時間ほど睡眠をとった色蓮が、実に眠そうな顔で配信を開始させた。


「おハスー。みなさんよく眠れましたー?」


〝おハスー〟

〝おハスー!〟

〝色蓮ちゃんよりよく寝たよ〟

〝寝起きで草〟

〝髪下ろしてるの114514点〟

〝サイドテールが髪下ろしてロングになると、こう、クるよね〟

〝寝癖すごいなw〟


 突然の配信にも関わらず、同接数が一秒ごとに伸びていく。

 あっという間に千人を越え、勢いはまだ止まらない。


 さすがにその人数に寝起きを見られるのは恥ずかしいのか、彼女は髪と顔を手で押さえた。


「ちょ、みなさん早くないっスか? 日曜七時にゲリラ配信で千人集まるとか暇すぎっスよ!」


〝んだと……〟

〝久々にキちまったぜ、トサカによぉ!〟

〝覇星様やっちゃって下さいよ!〟

〝むしろ日朝だからこそなんだよなぁ〟

〝というか覇星様いるの?〟


「あ、そこ考えてなかった。先輩います?」

〝@覇星斧嶽:いる〟

「よかった。ちなみにどこに?」

〝@覇星斧嶽:家〟

「あ、はい。朝食の支度っスね……」


〝見てるだけでありがたいやろw〟

〝一家の大黒柱(多分)なんやから当然やろおオン!? 〟

〝ううむ、10代後半から20代前半で、夕食、朝食ともに自炊するとは偉いな〟

〝家族がいるってことは一緒に暮らしてるのか〟

〝嫁か、両親か、はたまた義理の妹か。妄想がはかどるな〟

〝最後のは確率低いやろw〟


 唯愛とは普通に血がつながっている。そんな複雑な家庭環境ではない。

 色蓮はコメントが盛り上がっている間にテントを片付け、荷物を片っ端からマジックバッグに放りこんでいた。配信を開始する前にやっておけと言いたい。

 一段落したところで軽く息をつき、どこかそわそわした空気で辺りを見回している。


 ……一応女性だからな。


 仕方ない。


〝@覇星斧嶽:顔でも洗ってこい〟

「さすが! ありがとうございます先輩!」


 俺は彼女を二層深部の泉に転移させる。

ここは静謐な空気に包まれていて、砂漠にとってのオアシスに等しい場所だ。勿論モンスターも滅多に寄ってこない。

「綺麗っスねー」と色蓮がはしゃいだ声を上げる。

 

〝二層か〟

〝ほぇー、神秘的やなぁー〟

〝ポーション泉やんけ〟

〝ちょっとだけ回復効果がある二層の名物か〟


 正確には《リリカの泉》だが、レベル500未満は知る術がないし名前なんてどうでもいい。


「ポーション? 回復効果あるんスか?」


〝せやで。ちょっとだけやけどな〟

〝ちな持ち帰ったら効力なくなる〟

〝ダンジョンはこういうところいっぱいあるぞ〟

〝せやせや、汚い辛いだけじゃなくてこういうのが見れるのも探索者だけや〟

〝ガチ探索者は5Kやからな。危険、汚い、帰れない、気が狂う、稼げない〟

〝ガチはポーションとかで散財するからなぁ。楽しいとこ探しせんとやってられんわww〟

〝モンスターが食えるのも探索者だけやぞ〟

〝それはいらない〟


「へぇ、まぁウチは自前のがあるんで綺麗な水ならなんでもいいっスけど。でもこれだけ綺麗だと水浴びしたくなるっスね。どう思います?」


〝エッッッッ〟

〝良いと思います!〟

〝是非やるべき〟

〝はやくぬいでやくめでしょ〟


「いやそうではなく、水浴びできるほど安全なのか聞いたんスけど……というかそんなとこ配信に映すわけないっスよ、当然切ります」


〝なんだ(落胆)〟

〝じゃあどっちでもいいよ〟

〝いけるんじゃね? 知らんけど〟


〝@覇星斧嶽:止めとけ。滅多にモンスターはこないが、絶対じゃない〟


 全裸で戦う覚悟があればいいが、そんなもの無いだろうし必要ない。

 色蓮がその時の光景を想像したのか、露骨に顔をしかめた。


「ぅ……残念ですが諦めましょう」


 ……というか配信を切ったら俺はお前の近く、最低でも把握できる場所にいないと万が一の時に対応できない。


 そういうのは、俺から完全に手が離れた時にやってくれ。


 色蓮は泉にタオルを突っ込み、濡れタオルで顔や髪を拭っていく。水浴びを諦めきれなかったのか、防具を外して服の隙間に軽く差し込んでいた。少し渋い顔をしている。

 

 ダンジョンに慣れる、というからには、こういうことにも慣れなくてはいけない。


「――ん、なにかくる? 知らない音っスね」


 警戒は解いていなかったのか、色蓮がモンスターの気配を敏感に察知した。

 すぐにマジックバッグから弓を取り出し、構える。


 ……妙だな。


 リリカの泉にやってくるモンスターは、基本的に怪我を負って死にかけたやつだ。

 だが配信越しに聞こえてくる音に、そういった兆候は見られない。


 ……まさか、こんなところで?


 そうして森の奥から現れたのは、純白の毛並みに美しいたてがみをなびかせた一頭の馬。その姿は芸術的とさえ言えるほど荘厳で、額には一本の角が伸びている。


 俺が危惧した通り――ユニコーンだった。


「……馬?」


〝!!???!?!?!?〟

〝でっっっっっか!!〟

〝競争馬の二、三倍あるんちゃう??〟

〝ユニコーン先輩! ユニコーン先輩じゃないか!〟

〝ふぁ⁉ ユニコーン⁉〟

〝超希少種やんけ⁉〟


「ユニコーン……?」


 ユニコーンはその巨躯をもって、色蓮にゆっくりと近づいた。

 瞳には知性を宿し、顔を立てて色蓮に角を向けていない。歩く姿も恐る恐る、どちらかというと彼女を怖がらせないような動きだった。

 

 ……大丈夫そう、か?


 俺は人知れず小さく息をついた。


 ユニコーンは階層という概念に囚われない超希少種だ。極端な話、一階層にも、更に深い階層にも出現することがある。

 そんな存在だからこそ、ユニコーンは今の彼女が太刀打ちできる相手では絶対にない。もし敵意を持っていたらと思うと恐ろしい存在だ。


 低階層に現れる時は色々制約があるらしいが……どちらにせよ戦闘にならなくてよかった。


「戦意は……なさそうっスね」


 色蓮が警戒を緩め、弓を降ろす。

 ユニコーンは安堵したように「ブヒン」と鼻を鳴らすと、馬体をくの字に曲げて彼女に寄り掛かった。


「――ちょ、お、おもっ! む、むり、むりっスから!」


 まだ一トン以上の馬体を支えるほどの力がないのか、色蓮がユニコーンの頭を抱きながら後ろに倒れる。

 後頭部からかなりまずい音がしたが、そんなことは些事とばかりに、ユニコーンは幸せそうな顔をして目を閉じた。


〝処 女 確 定〟

〝ユニコーン歓喜〟

〝めっちゃ幸せそうにしてやがるw〟

〝おい!! それは僕のだぞ!!〟

〝こっちのユニコーンも出ちゃったよ〟


「い、痛い……重い……え、なに?」


 ユニコーンは角を色蓮の肩に押し当てている。

 その動きは甘えているようにも、そして角を差し出しているようにも見えた。


「えっと……くれるってこと?」


〝おいおいおいおい〟

〝これマジ?〟

〝あかんこれ貴重映像過ぎる〟

〝色蓮ちゃんかなり気に入られたなw〟

〝ユニコーンの角はポーションに漬けるとエリクサーになる〟

〝エリクサーは出回ってないし、たまにオークションに出品されても百億はいく代物やで〟


「エリクサー……いいんスか?」


 言葉がわかるのか、ユニコーンは「ブルン」と頷いた。


 ……色蓮と一緒に潜っていれば、間に合ったのかもしれない。


 いや、止めよう。

 そんな選択肢は、何回繰り返しても出てこない。


〝【公式✓】メルク製薬 日本支社 〝西園寺色蓮様。素晴らしい発見を拝見いたしました。ユニコーンの角について、ぜひ一度お話を伺いたく存じます。後ほど、西園寺グループ様宛に正式にご連絡差し上げます〟

〝【公式✓】日本探索者統制庁(JDA) 〝西園寺探索者。貴重なダンジョン産出物の確保を確認しました。そのアイテムの取り扱いについては、政府として最大限の支援を約束します。詳細は担当者よりご連絡致します〟

〝うわガチのやつでてきた〟

〝そらユニコーンの角はそれだけの価値あるわ〟

〝てか公式見てるんかいwww〟

〝暇な奴らやなww〟


「まぁ、細かいのは後でいいっス。それでは失礼して」


 マジックバッグから短刀を取り出し、ユニコーンの角を根元から切る。

 角は案外あっさりと切れ、すぐに治癒されて元通りになった。


「……これ、無限採集できるのでは?」

〝@覇星斧嶽:止めろ。そいつを怒らせたら俺が助ける前に死ぬぞ〟

「……止めときます」


 色蓮がしおらしく謝ったあと、困ったように眉を寄せた。

 力尽くでユニコーンをどかすことはできるだろうが、俺に忠告された以上怒らせるようなことはできない、そんな顔だ。


 ユニコーンはその雰囲気を察したのか起き上がると、色蓮の目の前で優雅に前脚を折り、跪くような姿勢をとった。そして大きな瞳でじっと色蓮を見つめ、背中をポンと軽く揺らす。「さあ、どうぞ」とでも言いたげな静かな催促だった。


「乗れってことっスか?」


〝!!?!?!?〟

〝ファ!?!? 〟

〝ユニコーンに乗る!? 〟

〝おいおいそんな前例知らんぞ〟

〝覇星様どういうこと!? 〟


〝@覇星斧嶽:知らない。そもそも俺はユニコーンに会ったことがない〟


〝ファーwwww〟

〝てことはマジの初!? 〟

〝ローカルにはあったかもしれんけど、映像としてはマジで全世界初かも〟

〝すごすぎんごwwww〟


「よく分からないっスけど、乗せてくれるのなら遠慮なく」


 色蓮が軽い動作で跳躍し、ユニコーンに乗る。

 その瞬間、ユニコーンが「ブヒヒィン!」と嘶いた。


〝ユwニwコwーwンwww〟

〝喜び過ぎやろwww〟

〝マジで処女厨なんやな……〟

〝キモ過ぎワロタ〟

〝顔やばいってぇ……〟


 ……確かに、ここまでとはな。


 荘厳な雰囲気は消え失せ、歓喜するユニコーンを見て俺は思った。

 これは、俺がその場にいたら手が滑って殺してしまうかもしれない。


〝てかユニコーンにマジで乗ったよ〟

〝なんで? これまで何人かユニコーンに会った人おるけど、乗せてくれたなんて誰も言っとらんぞ〟

〝マジレスすると、ユニコーンに好かれる条件は別に処女ってわけじゃないぞ。処女でもそっぽ向かれた事例はある〟

〝(自称だったのでは?)〟

〝そうじゃなくてユニコーンは好意が減点方式なんやろ。処女+なんかで百点みたいな〟

〝つまり役満の色蓮ちゃんでようやく乗せてもらえたってこと?〟

〝どっちにしろキモ過ぎやろww〟

〝そのままの君でいて(色蓮ちゃんの方)〟


「どうどう! 良い暴れっぷりっスね。よし、お前はキャップっス! ユニコーン界の頂点、ユニコーンキャップ! 良い名前でしょう?」


 幸か不幸か、色蓮はユニコーンに夢中でコメント欄を見ていなかった。見ていたらあまりの気持ち悪さに降りていただろうから間違いない。

 というか競走馬みたいな名前は止めろ。


「では早速いきましょうか!」


 手綱は無いが、色蓮が催促するようにその背に体を預ける。

 それだけでユニコーンは喜びの声を上げ、弾けるように駆け出した。


 ……予想外過ぎる。






【Tips】ユニコーン


 特定の階層に属さず、神出鬼没に姿を現す「超希少種」。

 その存在は古くから幸運の象徴とされている。

 ユニコーンは魂が清らかで、かつ、強大な魔力ポテンシャルを秘めた者の前にのみ姿を現すと言われている。単に「処女である」というだけでは不十分であり、これまでユニコーンに遭遇しながらも全く相手にされなかった探索者の例は数多く報告されている。

 その角は万病を癒す伝説の秘薬「エリクサー」の原料であり、折られても瞬時に再生する。しかしその角は「与えられる」ものでしかなく、力尽くで奪おうとした場合、塵となって消えるという。


 ……黎明期、ある心優しい低レベルの探索者が、ユニコーンから角を授かるという幸運に恵まれた。

 彼はその角でエリクサーを作り、故郷の病院にいる難病の子供たちを救うと涙ながらに語った。

 しかしその日の夜。彼の野営地をハイエナのように嗅ぎつけた中レベルの探索者パーティが襲撃した。

 彼はなすすべもなく殺された。

 だが襲撃者たちが彼の亡骸から角を奪い取ろうとした瞬間、角はまるで砂のようにサラサラと崩れて消え失せたという。

 ユニコーンの祝福は、清き心を持つ者にしか、微笑まない。


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― 新着の感想 ―
おはようございます。 確かユニコーンってバージンじゃない女性が近付いたら「バージンちゃうやん!騙された!」って角で刺し殺すヤバいやつだったような? そんな処女厨な輩が背に乗せる→相当好みにドストライ…
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