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第19話 こういうの一度やってみたかったんスよ


 迷幻樹海を突破した色蓮が次に口にした言葉は、「ご飯!」だった。

 マジックバッグからやたら高級そうなレジャーシートを取り出し、その場に敷こうとしているのを視聴者達がこぞって止めている。


〝やめろめろめろイロハめろ!〟

〝その場で飯食うとか危機管理どこいった!? 〟

〝これがお嬢様の姿か?〟

〝一応レジャーシート敷こうとしてるし多少はね?〟

〝真面目な話、飯食うなら安全地帯にしとき、そこは危ないよ〟


「いいや限界だ、食うっス!」


 時止めの機能も内蔵していたらしいマジックバッグから、色蓮が小洒落た弁当箱を取り出した。


 ……今回は頑張ったからな。


 少しくらい、甘くしても問題ないだろう。


「よし、ではさっそく――ぅえ!?」


 俺は色蓮を強制転移した。

 これまでの経験から一瞬で警戒を上げた色蓮が、箸を武器のように構えて立ち上がる。それでどう戦う気だ?


 ……というか、戦わせる為に転移させたわけじゃない。


 周囲の確認を終わらせた色蓮が、きょとんと棒立ちになる。


「……一階層?」

〝@覇星斧嶽:そこなら安全だ。モンスターもこない〟


〝優しい〟

〝マジでデレてきてるやん〟

〝というか覇星様に暴言吐いたやつおったよな?〟

〝色蓮ちゃんが死にそうなのに情報すら与えず見殺しにしようとしてたから、多少はね?〟

〝そう聞くとほんま鬼畜やな〟

〝上位者の考えは分からん〟

〝あの時は推しの色蓮ちゃんが死ぬと思って気が動転してたんや許してクレメンス!〟


 ……別にその程度で怒ったりしない。


 俺への言葉はともかく、色蓮の死に目を見にきた、人としてどうかと思う野次馬根性丸出しの奴は考えるけどな。


「まぁまぁ、ネットのノリなので、きっと先輩も気にしてないっスよ。それより、ここにはモンスター来ないって本当っスか?」

〝@覇星斧嶽:本当だ。一階層にはモンスターがいないエリアが明確にある〟

「おお、なら初めてのアレにうってつけっスね」


 そういって、マジックバッグからいそいそと何かを取り出す色蓮。

 慣れない手つきで大きなシートにポールを通し、杭を足で地面に食い込ませていく。


 そうして完成したのは……テント?


「できた! 一度やってみたかったんスよ、ダンジョンキャンプ!」


〝草〟

〝なぜキャンプw〟

〝(行動力)ありますねぇ!〟

〝気持ちは分かるが今やるかw〟

〝まさか帰らないつもり?〟


「そうっス、せっかくなので今日はここに泊まろうかと。一,二階層は常に明るいんで時間の感覚が分かりにくいっスけど、もう夜も遅いですし」


 ……だからってわざわざテントまで張ってダンジョンに泊まるか?


疲れて帰りたいなら、俺に言えば地上どころか家の中まで一瞬だ。

 しかしそういうことではないらしく、色蓮が少し微笑を浮かべた。


「ウチはダンジョンに慣れる必要があると思うんスよ。今回みたいにどうしようもない事態になったら、自分で何とかしないといけないでしょう? 例えば先輩が忙しくてウチが帰れなくなったり」


 言いながら、自分が張ったばかりのテントを見上げ、満足そうに小さく頷いた。


「けれど、ウチはこういうの全く経験ないので、ここらでいっちょ経験積んどこうと思ったんスよ。丁度明日休みですし。ご飯も宿も地上からの持ち寄りなので、ちょっと格好付かないっスけど」


 ……まぁいい。俺がなにか口を挟むことではない。


 それにその考えは正しい。ダンジョンには、ルール上俺の手が届かない場所もある。今回よりもハッキリとした、針の穴すらも抜け道のないルールが。


その時の為に生きる術を学ぶのは、正しい。勝手に溜息が漏れてくるが。


 ……焼いただけで美味かったモンスターくらいは、教えてやるか。


〝えらい〟

〝意識高いの良き〟

〝一,二階層はともかく深い階層は泊まらないと無理だからね〟

〝今回はいいけど次からは守夜晶もってった方がいいよ。一昼夜くらいならモンスターこないから〟

〝それ高杉んご〟

〝ソロなら仕方ない、諦めて買わんと徹夜コース〟

〝覇星様タクシー(無料)は無しか〟


「毎回キャンプするわけじゃないっスよ! ぶっちゃけ良い機会なのでやってみたかっただけっス!」


〝草〟

〝行動が男子小学生なんよ〟

〝いやでも羨ましいわ〟

〝わかる。ワイなんちゃってキャンパーだけど憧れるわ〟

〝天候変わらないのも良い点。夜にならないのは人によっては嫌だろうけど〟

〝モンスターが絶対こないなら、ダンジョンキャンプ運営したら儲かりそう〟

〝ダンジョンを身近にするという意味でいい方法かも?〟

〝ひらめいた〟

〝おう役人か? 頼むわ〟


「その辺は好きにして下さい。というわけで、ウチがご飯食べてる間はちょっとした雑談回ということにしましょう。ウチがみんなの質問に答えるという形で。それで今日は終わりです」


〝りょ!〟

〝キター!!〟

〝待ってたぜ、この時をよう……!〟

〝俺の聞きたいことリストが火を噴くぜ!〟

〝ご飯食べてる間、つまり約十五分間で質問できる回数は七から十が精々だな〟

〝口に含んでる間は答えられないからもっと減るな〟

〝ガチ勢おって草〟

〝覇星様に対する質問はあり?〟


「先輩にっスか。あー、どうなんスかね?」

〝@覇星斧嶽:無しだ〟

「無しだそうっス!」


 これは色蓮の配信であって、俺の配信ではない。線引きは重要だ。

 

 色蓮は編上げのタクティカルブーツを脱ぎ、丁寧に揃えてからレジャーシートに上がる。

 どうやらテーブルはないらしく、横座りした膝の上に弁当を乗せた。


「いただきます」


 ……毎回思うが、食べ方きれいだな。


〝上品で草〟

〝なにも草じゃないが〟

〝やっぱお嬢様なんやなって〟

〝靴を揃える:百点。箸の持ち方がなんか綺麗:千点。背筋が伸びてる:一万点。顔が良い:十万点。十一万千百/百点 合格!〟

〝お前試験官やめろ〟

〝もう質問いい?〟


「あ、どうぞ。といっても答える内容はウチが決めるっスけど」


 コメント欄が五月雨式に質問で埋めつくされていく。

 探索者なら余裕で全て読めるが、それにしてもすごい数だ。

 

 色蓮も弁当を食べながらコメント欄を眺め、一つの質問を拾った。


「西園寺グループの西園寺なの? スか。なんか質問多いんで答えますけど、そんなに知りたいことっスか?」


〝知りたい〟

〝ぶっちゃけ確信してるけど一応〟

〝ほら、ダンジョンウィキに載せる情報としてね?〟


「はぁ、なんでもいいっスけど。その通り、ウチは西園寺グループの西園寺っスよ。あ、でもこの装備とかアイテムは横流しじゃないっス。きちんと購入されてるんで安心して下さい」


〝そんな心配しとらんよw〟

〝確定あり!〟

〝わかってはいたけどマジのお嬢様かぁ〟

〝ダンデポにはいつもお世話になってます〟

〝西園寺グループはここ最近日本トップになった企業だけど、色蓮ちゃんはなんか育ちいいな〟


「育ちが良いかはわからないっスけど、元々古物商やってたんスよ。パパがどこからかダンジョン産のアイテムを仕入れだして急に裕福になりましたけど、それより前もそこそこ良い生活してたっスよ」


〝新情報〟

〝いや調べれば普通にわかるわ〟

〝色蓮ちゃんでもダンジョン産アイテムの仕入れ先はわからんか〟

〝闇が垣間見える〟


 色蓮はコメントをスルーして食事を続ける。分からないことには何も言わないスタンスらしい。


「はい次いくっス。西園寺グループの社長令嬢が、なんで探索者になろうと思ったの、スね。これは色々ありますけど、一番の理由は、何もできない自分でいたくないから、です。ほら、世の中の流れが昔と今では大分違うでしょう? 探索者になるのが一番影響力高いんスよ」


〝せやな〟

〝マジのトップクラスは国脅せるからな〟

〝嘘松乙〟

〝↑現実を認めろ〟

〝日本くらいなんだよなぁ平和なの〟

〝その日本でもそこら辺の政治家より影響力あるのは間違いない〟

〝その風潮嫌い。なんで探索者が政治にまで影響持てんねん〟

〝武力が半端ないからしゃーない〟


「ウチもその風潮は好きじゃありません。武力があるから何でも好きにしていいなんておかしいでしょう。政治に限らず、そういうのは専門家がやるべきだと本気で思うっス」


〝そらそうよ〟

〝人として当然なんよなぁ〟

〝……なんか真面目な話になったな〟

〝(パンツ何色とか聞ける雰囲気じゃない)〟

〝なんで影響力持とうとしてるん?〟


 その質問に、色蓮は少し間を置いた。

 自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと口を開く。


「正しいことが、したいからっス」


〝????〟

〝なんやそれ〟

〝法律を守りましょうとか?〟

〝おっと……〟

〝言うね〟

〝大分言葉選んだけど、かなりぶっこんだな〟


 それだけで、おおよその視聴者は色蓮の言いたいことを察したらしい。

 当然だ。新聞とはいわずとも、ニュースを見ていれば世界情勢というのは大体わかる。


 ……探索者というのは本当に好き勝手してるからな。


 殺人を犯したところで、加害者が高レベルであればあるほど罪が軽くなる。

 正確には、軽くせざるを得ない。捕らえられないから。


 平和と言われる日本でもそういう事例はそこそこ起きている。表に出ていないだけで。

 あまりにやり過ぎた奴は他の探索者や高レベルの国家公務員に処分されるが、遅すぎる。


 ……意外と世間も、色々不安に思っていたということだろう。


〝大丈夫かこれ〟

〝そこそこ危ない発言だなぁ〟

〝ワイらからしたら嬉しいけどね〟

〝少なくとも一部の人からしたら邪魔な考え方よな〟

〝色蓮ちゃん狙われたりしない?〟

〝いくら金持ちでも護身には限度あるで〟


〝@覇星斧嶽:問題ない〟


〝あ、はい〟

〝最強のセ〇ム〟

〝世界一位に庇護されてる子に手出すやつおらんやろ〟

〝守られちゃってるね色蓮ちゃんw〟


「っ」


 色蓮が恥ずかしさを誤魔化すように弁当を食べる。心なしか箸のスピードが上がっている気がした。

 

 ……それに関しては、本当に問題ない。

 

 ダンジョンに関係ない雑事は、俺が全て排除する。


「そ、そんなことより次いくっスよ、次! えっと、どっちからアタックして覇星様が色蓮ちゃんを手伝うことになったの?……て、そんなのウチからに決まってるじゃないスか」


〝ですよね〟

〝ワンチャン覇星様が色蓮ちゃんにアタックした可能性も微レ存だった〟

〝かわいいから〟

〝マジで色蓮ちゃん顔が強いから〟

〝あるんですかね……恋とか……ふふ〟

〝ぶっちゃけ覇星様どんな人?〟


「言えないっス。知りたければ本人に聞いて下さい。あと先輩は先輩なのでそういう対象になりませんよ。そもそも恋愛は、そんなに興味ないっス」


 それからも、色蓮はいくつかの質問に答えていった。


「普段なにしてる、スか? アニメや漫画見たり、ゲームしたりっスね。他に趣味といえば文房具集めたり? かわいい付箋とかノートとかつい買っちゃうっスよね。茶道とかの芸事もやってますけどぶっちゃけ楽しくないっス」


〝好物なに?〟


「……ハンバーグとか、スかね。高そうなレストランとかも美味しいっスけど、ウチは家庭的な味がする方が好きっス。幼い頃はそうでしたし、先輩にご馳走になってたらそう思うようになりました」


〝覇星様の手作り料理⁉〟

〝プライベートでも付き合いあるんか〟

〝これもうデキてるやろ……〟

〝きゅぇ(唐突な脳破壊)〟

〝いや手作りの方が驚きやわw〟

〝コモディ〇イダで買い物する世界一位だぞ〟


「ご飯をご馳走になるだけで大げさでは?」


 いつの間にか当初の予定は越え、色蓮は弁当を食べ終えても質問に答えていった。

 というのもSNSで話題になったのか、「期待の新人探索者はここですか?」や「初心者なのに頭おかしいほど無茶すると聞いて」などと、次から次へと同接が増えていったからだ。


 ……このままだと明日、というか今日に響くな。


 うつらうつらと舟を漕いでいても応えようとするとは、ファンサービスが旺盛なやつだ。


〝@覇星斧嶽:もう寝ろ〟

「ん……そうっスね。お風呂……は無理っスか。ウチはパジャマじゃないと寝られないので、着替えます」


〝ガタッ〟

〝ガタッ〟

〝ガタッ〟

〝REC〟

〝おまえらw〟


〝@覇星斧嶽:まず配信を切れ〟


 色蓮はあくびをしながら「はーい」と間延びした返事をする。

 今にも落ちそうなほど目元を緩ませながら、配信画面に笑みを浮かべた。


「みなさん、おやすみなさい」


〝おつ!〟

〝おやすみ〟

〝10時間以上配信してたな〟

〝おやすみ〟

〝寝る直前まで一緒の時間を共有しておやすみを言い合うなんて、なんか僕たち付き合ってるみたいだね♡ あ、違うか、同棲してるんだったね^_^; おやすみ(-_-)zzz 明日も一緒に頑張ろうね、色蓮たん♡♡〟

〝怪文書やめろ〝

〝おやすみー〟


 色蓮が配信を切り、画面がブラックアウトする。

 これから寝支度を整え、ようやく眠りにつくのだろう。


「……」


 俺は色蓮が張ったテントの側に転移すると、一階層の草原に腰を落ち着けた。

 モンスターは来なくても、ダンジョンでの脅威はそれだけじゃない。


 ……ダンジョン内は、全てが自己責任。


 法律は、無いに等しい。


 俺は真っ暗じゃないと寝られないから、一階層に浮かぶ太陽は丁度良かった。





【Tips】ダンジョンデポ


 西園寺グループが運営する、日本最大手の探索者向け総合ショップ。

 ポーションや武具といった基本的な装備から、ダンジョン産の素材の買取、さらには探索者向けの保険や情報販売まで、ダンジョンに関わるあらゆるサービスを提供している。

 その最大の特徴は、全国の主要都市に店舗を構える圧倒的な利便性と、初心者向けの安価な量産品から、トップランカー向けの億を超える特注品までを取り揃える、その豊富な品揃えにある。

 今や、日本の探索者で、一度もダンジョンデポの世話になったことがない者はいない、と言われるほどの巨大な存在である。


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