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第14話 野生のエリアボスがあらわれた!


 色蓮を通して映った光景に、コメント欄が一気に沸き立った。

 ずっと黒背景だったのも影響しているのか、流れが早い。


〝wwwwwwwww〟

〝二階層やんけ草ァ!〟

〝ウザすぎたからね。しょうがないね〟

〝覇星様が色蓮ちゃんを諭そうと頑張ってたのに、ウザキャラムーブするから……〟

〝因果応報にも程があるw〟

〝言うほど程か?〟

〝ウザキャラムーブの代償でかすぎやろw〟

〝転移芸がお馴染みになりつつあるなw〟

〝↑今更〟

〝覇星様(鬼畜)の代名詞やぞ〟

〝鬼畜(ムカついて死地に転移)〟

〝そうじゃないんだよなぁ〟

〝そうでもあるがなw〟

〝二層で森か。新宿ダンジョンで確定〟

〝↑特定厨空気読め〟


「い、いやいやいや! 百歩譲って転移はもういいです! でも二階層に飛ばすのはないでしょう!? これは難易度がどうこうじゃなくて!」

〝@覇星斧嶽:難易度が問題ないなら問題ないだろ〟

「えぇ……ポーションとかのアイテム報酬って階層移動の時にしか受け取れないんスよ? それにウチ、これが初めてなのに……」


 色蓮はあからさまに不満げな表情を浮かべている。

  

 ポーションや魔道具などのアイテム報酬は、その階層での活動に応じて決まり、次の階層へ移動するときにまとめて受け取る仕組みだ。


 そんなのは当然知っている。


〝覇星斧嶽:進め〟

「……」


 一階層の報酬なんてどれだけ倒そうがたかが知れてる。

 レアポーションすら気軽に使用するほどなのだから、要らないだろ。


「だから情緒をもう少し……はぁ、もういいっスよ」 


 色蓮が少し気落ちしながらも、気分を切り替えるように深く息を吐いた。


「ふん、ゴブリン集落を低レベルで攻略したウチが、為せば成ることを教えてあげましょう!」


 やや怖気付きながらも、色蓮は意気揚々と二階層を進んだ。

 木の枝を適当にかき分け、踏みしめる際の葉擦れの音をまるで気にもしていない。

 その姿はまるで、恐れ知らずの小動物を見ているように不遜で、滑稽だった。


 ここでの色蓮は、狩られる側だというのに。

 

 自分以外の気配を感じたのか、色蓮がぴたりと動きを止めた。

 しかし、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「さっそく第一村人がきたみたいっスね。では手早くこいつを狩って、ウチの栄光なるウイニングロードの糧に……して……やります…………」


 現れたのは、森鬼(フォレストオーガ)

 色蓮が一層にて異常事態に見舞われた際に、こっぴどくやられたモンスターだった。


「――――」


〝でちゃ!!〟

〝フラグ回収早すぎんよ!〟

〝これはわからせ腹パン案件〟

〝レベル上がったし勝てるでしょ(適当)〟

〝勝てるわけない定期〟

〝適正レベル40近いぞ〟

〝それなのに二層では当たり前のように徘徊してるからな。ソロ探索者は大体ここで折れる〟

〝エリアボスみたいなのが徘徊してるとかクソゲー過ぎでしょ〟

〝エリアボス(複数)が徘徊してるから現実なんだぞ〟


 その通り、二層では強力なモンスターが当たり前のようにそこら辺にいる。ゴブリンヘッドみたいに集落で待ち構えていたりはしない。

 大体は、見つかったら終わりだ。


「――ハッ!」


 色蓮が衝撃から復帰し、ショートボウで森鬼の頭を即座に射抜いた。


 レベル17に上がったことで、人工魔道具製の武器を多少なりとも扱えるようになっている。今ならゴブリンヘッドとサシでやり合ってもそこそこ相手になるだろう。


 森鬼(フォレストオーガ)はヘッドの数倍は強いが、それでも棍棒で撃ち落とされることなくその頭に命中した。


 結果は――無傷。


 蚊に刺されたかのように、当たった箇所を指で掻く余裕まで見せてきた。


「むり!」


 瞬間、色蓮が転進する。

 攻撃が一切効かないことを確信してからの逃げは落第だ。

 逃げるなら、気配を感じた瞬間に逃げないと遅過ぎる。


「グゥゥ……ォゥゥアァァ!」


 森鬼が腹の底から響くような音を上げ、逃げる色蓮を追いかけた。

 その動きは巨体からは想像もできないほど素早い。

 樹木の根元を蹴り飛ばし、地面を割る勢いで一直線に突進してくる。

 走るというより、転がる巨岩のような質量で一帯の木々をなぎ倒し、色蓮との距離を一気に詰めていく。


 色蓮も負けじとダンジョン内の木々を縫うように駆け抜けるが、足音とともに迫る圧力が、背中を焼くように追い立てているのは想像に難くない。


〝よう逃げるw〟

〝パルクールの才能あるよ!w〟

〝どこに逃げてるん?〟

〝とりあえずダッシュでしょ〟

〝森鬼は超しつこい性格してるから、完全に撒くか安全地帯に逃げ込まないと一生追ってくるよ〟

〝探索者ニキチッス!〟

〝安全地帯=一階層〟

〝あ……(察し)〟

〝色蓮ちゃん上層に逃げた方がいいって〟


「転移されたんだから逃げられるわけないっスよ!?」


 ……しまったか。


 流石に逃げられない状況を作るのはよくない。

 だが……いや、しかし。


 俺が迷っている間も状況は進む。


 色蓮がバッグから短剣を取り出し、進行方向で絡み合っている邪魔な蔦を切りとばそうとした。

 

 ――蔦がまるで生き物のように動き、色蓮の足首に絡みつく。


「――は!?」


 一度絡まった蔦は逃げ場を塞ぐようにさらに幾重にも巻き付き、膝、腰、腕へと這い上がった。


「な、なんスかこれ!?」


〝オワタ〟

〝これはもう駄目かもしれんね〟

〝ちょい食い込んでてスケベやん〟

〝罠か〟

〝二層で一番簡単な罠にかかるとは〟

〝二層の情報調べてないのか?〟


「まだ行くつもり無かったですし、そもそも先輩から情報収集を止められてて……!」


 色蓮が絡みつく蔦から逃げようと必死にもがくも、余計に身体に食い込むばかり。その罠はよほどの力がなければ振りほどけない。正攻法はじっと動かず、拘束が解除されるのを待つだけだ。


 当然ながら、そんな時間はない。


 色蓮がもがくその目前、轟音とともに森鬼が現れる。

 その影が色蓮を覆い隠し、蒸し暑い息を吹きかけた。


「……くっさ」


 言ってる場合か。


 ……まぁ、仕方ない。


 無骨な棍棒が持ち上がった所を見届けると同時、俺は色蓮から一キロ程離れた地点に転移した。


 つまり、範囲内。



「……《星墜》」



 翠映の森が、世界ごと沈黙した。


 瞬間――色蓮を除いた全ての生き物が頭から地面に押し潰される。

 まるで最初から何もいなかったかのように。


「先輩……?」


 拘束から解放された色蓮が前のめりに倒れた。

 座り込んだまま、きょろきょろと辺りを探すように見回している。


〝@覇星斧嶽:一層に逃げられない状況にした件は、これで許せ〟

「あ、はい」

〝@覇星斧嶽:ついでに周辺のモンスターは全て消しておいた。まずは二層の動き方から学べ〟

「あ、はい」


 ……急に素直になって気味が悪い。


 色蓮は座り込んだまま、戸惑ったように画面を見上げる。


「……あの、二層の動き方とは、具体的になにを?」

〝@覇星斧嶽:自分で考えろ〟

「う゛……そこをなんとかなりませんか」

〝@覇星斧嶽:ならない。自分で考えろ〟

「うぅぅ……」


〝色蓮ちゃんわからせられたら急にかわいくなるやん〟

〝おじさん教えて上げたい、でも二層の情報て買うといい値段するんだよね〟

〝厳しくて草〟

〝これ指導じゃないなw〟

〝助けただけでオールオッケーでしょ〟

〝助けたと思ったら今度は突き放してて、どういう感情で見ればいいのかわからんw〟

〝二層は森鬼、鉄嘴鳥、森羅樹に気を付ける必要がある。こいつら(森羅樹以外)は二層を徘徊してて、二層に来たばかりのレベルじゃまず勝ち目が無いよ。四.五人パーティーなら単体相手に勝ち目はあるけど〟

〝ソロじゃ無理〟

〝そいつら以外を倒してレベルを上げるしかないね〟


 二層の情報がコメントを通じて色蓮に伝わる。

 概ね言っていることは正しいが、一部同意できない内容もある。


 探索者は、基本一人だ。


「なるほど。では森鬼とかの強い敵は回避して、他のモンスターを倒してレベルを上げればいいんスね……合ってます、先輩?」

〝@覇星斧嶽:自分で考えろ〟


〝(´・ω・`)〟

〝教えたのはワイらなのに……〟

〝覇星様に許可を得たい気持ちはわかるけど、なんか凄い寝取られた感ある〟

〝ワイらが信じられないなら自分で考えなさいっ!〟

〝もう教えて上げないわよ!〟

〝ママ許してあげて〟


「い、いいじゃないっスか、別にっ」


 しょぼくれた顔をする色蓮だが、すぐに頬を叩いて気持ちを切り替えた。

 

 自分の道は自分で切り開くのが探索者だ。


 ……まぁ、頑張れ。






【Tips】ダンジョンの罠


 ダンジョン内に存在する、モンスター以外の脅威の総称。

 単純な落とし穴や、毒矢が飛び出すといった物理的なものから、探索者の精神を蝕む幻覚を見せるもの、そして今回のように獲物を捕らえる植物型のものまで、その種類は多岐にわたる。

 高位階層になるほど、罠はより巧妙に、そして悪質になっていく。

 あるトップランカー曰く、「モンスターは殺せば終わる。だが悪意ある罠は、殺すことすらできずに、じわじわと心を殺しにくる」とのこと。

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