第13話 ……えっち
色蓮が最後の一匹を弓で射殺すと、その場に大の字に転がった。
時間にしておよそ三十分。
ゴブリン集落殲滅にかかった時間としては、中々悪くない数字だ。
〝うぉおおおおおお!!〟
〝すげえええええええ!!〟
〝マジで攻略したよwww〟
〝しかも被弾0じゃんww〟
〝適正レベル以下での集落攻略なんていつ以来だ?〟
〝初期組以外は初じゃね?〟
〝わからんけど快挙というのはわかる〟
〝海外でもこんな狂ったことするやつあんまいないぞ〟
〝これには覇星様もにっこり〟
別ににっこりはしない。
「…………」
色蓮が言葉も発せずに肩で息を繰り返している。
ヘッドのいない烏合の衆とはいえ、それでもおよそ300匹のゴブリンはしんどいか。
少し休ませようかと思ったが……長いな。
〝@覇星斧嶽:立て。起きろ〟
「……」
色蓮が焦点の定まっていない目で画面を見ている。
なんだその目は。何か言いたそうだな。
〝@覇星斧嶽:言いたいことがあるなら言え〟
「……ウチ、頑張りました。他になにか、あるのでは?」
〝@覇星斧嶽:よくやった〟
「――――」
色蓮が思いがけない言葉を目にしたように、ぽかんと固まった。
口元をもにょもにょさせ、両腕を交差させて顔を隠す。
〝かわえええええwww〟
〝ぎょえ……(脳が破壊される音)〟
〝唐突なNTRに脳が震える〟
〝寝てから言え定期〟
〝ガチ恋勢は相変わらず判定厳しいなww〟
〝いやわかるわ。スポーツでもなんでもそうだけど、自分より圧倒的格上に褒められるとこうなる〟
〝嬉しいよね〟
〝ニヤニヤかわいい〟
……なんなんだ一体。
少し褒めただけでこうなるとは、今後は控えた方がいいか?
「……ま、まぁ? ウチもやればできるということで……えっと、どうもっ」
〝@覇星斧嶽:落ち着いたなら立て〟
「いや情緒っ⁉」
俺に転移されるのを恐れてか、色蓮が慌てて立ち上がる。
〝@覇星斧嶽:ステータスはどうなった〟
「あ、そ、そうっスね、ちょっと確認します」
〝wktk〟
〝いうてそんな変わらん〟
〝ゴブリン集落落としたからって称号とかもらえるわけじゃないからね〟
〝でもレベルはかなり上がったやろ〟
「うーんと、レベルが3つ上がって17になりました。あとスキルが……ん? なんスかこれ」
色蓮が自前のステータスを眺め、首を傾げた。
「スキルはちゃんと覚えてる……でも使用不可? んん? どういうことっスか?」
〝???〟
〝(・・? 〟
〝何を言っているの?〟
〝わけがわからないよ(◕‿‿◕)〟
……なんだ、意外と早く覚えたな。
それだけダンジョン側も、色蓮がゴブリン集落を攻略するのは無茶だと判断していたということか。
前提の前提レベルとはいえ、これは本当によくやった。
〝@覇星斧嶽:見せてみろ〟
「え゛!?」
色蓮が露骨に反応した。それはどちらかというと拒絶に近い。
確かにステータスは簡単に他人に見せるものではない。だが、絶対に改竄ができないステータスは、状況によっては免許証以上の身分証明になる。つまり、見せること自体に問題はない。
そうでなくとも、俺が色蓮のステータスを見るんだぞ?
低レベルのステータスで、気にすることがどれほどある。
〝@覇星斧嶽:どうした〟
「いや……その、だってステータスには……し、身体情報、す、スリーサイズも載るじゃないっスか」
「……」
「え、え、えっち、では?」
〝草〟
〝速報 色蓮ちゃんやっぱり勇者だった件〟
〝世界一位をエッチ呼びとは恐れ入る〟
〝いやん、覇星さんのえっちっ!〟
〝ああ^〜〟
〝スリーサイズごときでエッチ判定するお嬢様は堪んないべ〟
……こいつ、この。
……もういい。
〝@覇星斧嶽:いいから見せろ〟
「ちょ――!?」
色蓮を俺の近くに強制転移させる。俺の姿が万が一にも映らないよう、配信画面を黒く塗り潰すのも忘れない。
突然視界が真っ暗になった視聴者が何か慌てているが、俺の知ったことではなかった。
「……先輩、ウチの配信なのにどうやって干渉してるんスか」
「レベルが上がればわかる。それよりステータスを見せろ。あと、身体情報は非表示にでもしとけ」
「そんなのできるんスか?」
……そこからかよ。
色蓮にステータスの非表示機能を教えた後、早速そのステータスを確認した。
スキル:《星環陣》
星の環を象りし魔力陣。使用者の意により自在に形を変える。
消費MP:???
※使用条件未達
力や敏捷とかのステータスは至って普通なので特筆すべき所はないが、目立つのはやはりこのスキルだろう。
これはいわば、ご褒美だ。
全てにたいして平等なダンジョンでも、いやだからこそ、偉業や快挙を成し遂げたものを祝福する。
……とはいえ、ゴブリン集落程度ではこれくらいか。
「なにか分かりました?」
「ああ。恐らくだが、お前個人のユニークスキルだろう」
「え!?」
〝え!?〟
〝え!?〟
〝ま!?〟
〝スキル名なんや、調べる〟
色蓮の近くにいるせいで俺の声も配信に乗ったらしい。
声くらいは何回か出てるし今更か。
「あ、はい。えっと、星に循環の環で魔法陣の陣です。星環陣て呼ぶのかな?」
色蓮が馬鹿正直に答えると、すぐに反応が返ってきた。
〝見てきた。探索者統制庁のホームページで検索かけたけどヒットしなかったわ〟
〝こっちもダンジョンウィキで調べたけど出なかった〟
〝グーグルンで検索したけど創作物しかでんかったわ〟
〝てことはマジで初出?〟
「マジで初出だ。さっきそう言っただろ……恐らくだがな」
〝ファーwwwwww〟
〝すげええええ!? 〟
〝なんで!?!? 〟
〝ユニークスキルなんて持ってるの高レベルくらいだろ!? 〟
〝ゴブリン集落落としたから!? 〟
〝その程度で!? 〟
〝ゴブリン集落なんてこれまで何回も落とされてるやろ!!〟
〝いや低レベルでの攻略はどこにも情報ないぞ〟
「えーっと、ウチのことなのでウチがずばり聞いちゃうっスけど、これってやっぱり特別なことなんスかね?」
「特別といえば、特別か。誰にでも起こり得る特別だけどな」
「というと?」
「ダンジョンからのご褒美だ。快挙、なんだろ?」
俺の言葉に、またコメント欄が沸き立った。今度は先ほどの比ではない。
というより画面真っ暗なのによく盛り上がれるな。ある意味すごい。
……これ、言っていい情報だったか?
ダンジョンから制限はかけられていないから、多分大丈夫か。
ユニークスキルを得ようと無茶をする探索者が出るかもしれないが、俺の知ったことではない。
ダンジョン内は何があろうと、絶対に自己責任だ。
「てことは、ウチだけ? ウチだけの特別……ふへへ」
色蓮がだらしない笑顔を浮かべる。
「うんうん。ダンジョンさんも中々見る目があるようっスね。確かに今回は肉体的にも精神的にも苦痛を伴いましたし、妥当な判断と言えるでしょう。とはいえ? それでもウチ的にはそこそこでしたし? そこそこの頑張りでしたし? やはりウチが天才だったということなんでしょうねきっと!」
……うざい。
〝うぜぇwwwwww〟
〝調子乗りまくってんなwww〟
〝この子たまにウザくなるなwww〟
〝ワイらはええけど同年代の友達いるか心配〟
〝↑やめろ〟
〝やめろ。その術は俺に効く〟
……あまり調子に乗られて失敗されても下らないし、釘を刺しておくか。
「言っておくが、これはそんなに珍しいことじゃない。高レベルになるような奴は大抵持ってる。むしろ当然にな」
「ということは、ウチには高レベルになる才能があるってことっスか。ふふん、どうも、低レベルでユニークスキルを覚えた西園寺色蓮です! これ次からの配信挨拶で使えそうっスね!」
「……高レベルになるのに才能は必要ない。そもそもダンジョンの才能なんか存在しないぞ」
「純粋にウチが凄かったってことっスか?」
「……凄いとか凄くないとかじゃなくて、単純に功績が評価されただけだ」
「つまり、ウチが凄いということでは?」
「…………」
「先輩? どうなんスか? せ、」
転移させた。
ついでに画面の塗りつぶしを解除する。
第二階層――『翠映の森』
そこは、空気そのものが淡く緑色に染まった、底知れぬ森。
木々はどれもまっすぐには伸びず、ねじれ、重なり、地表から空へと絡み合うようにそびえている。幹には艶やかな苔や、どことなく青白い光を帯びた蔦が張り付く。
頭上は厚い樹冠に覆われており、外の太陽はほとんど届かない。その代わりに、無数の小さな蛍光体――星のような虫たちが、葉の隙間をふわふわと舞っていた。
「……え、どこっスか、ここ」
〝@覇星斧嶽:進め〟
そんなに凄いなら、楽勝だろ。
【TIPS】ステータス
探索者として覚醒した者が、自らの意思で視界に呼び出すことのできる、半透明の情報ウィンドウ(UI)。
自身の能力が、レベル、ジョブ、力、防御、敏捷、器用、精神、魔力といった形で、客観的な数値として表示される。
この数値は、ダンジョンという理不尽な世界における、唯一絶対の「物差し」である。
パーティの編成や、依頼の受注、装備の選定に至るまで、探索者の世界の全てが、このステータスの数値を基準に回っていると言っても過言ではない。
この数値は、ダンジョンシステムによって直接管理されているため、いかなる手段をもってしても改竄は不可能とされる。
【名前】 西園寺色蓮
【レベル】 14
【ジョブ】 弓士(見習い)
【種族】 人間
【称号】 無し
【MP】 50
【力】 48
【防御】 35
【敏捷】 85
【器用】 92
【精神】 60
【魔力】 45
【スキル】
パッシブ: 《静歩》《観察》《持久》
ユニーク: 《星環陣》※使用条件未達
【魔法】 無
※ 身長: 154cm
・ 体重: 47kg
・ スリーサイズ: B88 / W57 / H89
・バスト(カップ): E




