第5話:世界親族温泉旅行編 ~やっぱり宿の女将も親戚だった~
――世界親族大運動会が引き分けで幕を閉じてから数日後。
俺、坂本ユウタは魔王城の一室で呆然としていた。
「……温泉旅行ってマジで言ってたんだな」
赤組(魔王軍)も白組(勇者ギルド)も、世界の要人も一般市民も、「次は親族全員で温泉旅行だ!」と声を揃え、あっという間に計画が立ち上がったのだ。
叔父さん(魔王マルバス)が意気揚々と荷物をまとめ、リリア(勇者いとこ)はすでに浴衣の試着をしていた。
「ユウタお兄ちゃん、何色がいいかな? ピンク? 紫? 水色?」
「まだ行き先も着いてないのに浴衣選んでんの!?」
そこへおばあちゃん(創造神)が湯飲み片手に入室。
「温泉はね、世界の北部の秘境にある“龍神温泉郷”よ」
「龍神温泉郷……」
「古くから坂本家と縁がある場所なの。大丈夫、宿の女将は親戚だから」
「その説明が一番信用ならんのよ!」
魔王軍の巨大飛行船で半日。俺たちは険しい山々の間にある龍神温泉郷へ到着した。
そこには立派な木造の旅館がそびえ立ち、湯けむりが立ち上っている。
「すごーい!」
リリアが目を輝かせた。
叔父さんはすでに足湯にダイブしそうな勢いだ。
「ユウタ、温泉はいいぞ! 心身が整う!」
「待って、まだチェックインしてないから!」
玄関をくぐると、笑顔の女将が出迎えてくれた。
「まぁまぁユウタ坊じゃないの!」
「えっ……あの……女将さんもしかして……?」
「そうよ、母方の遠い親戚よ!」
「やっぱりかぁぁぁ!!」
夕食は大広間で大宴会だった。
魔族も人間も入り乱れ、テーブルには豪華な料理が並ぶ。
「かんぱーい!」
おばあちゃんの掛け声で宴が始まると、叔父さんは一升瓶を抱えて酒をあおり、リリアは刺身を頬張りながら隣の伯母さんと談笑していた。
「……これ、もう完全に親戚の法事とか結婚式のノリだな」
俺は小声で呟きつつ、唐揚げをつつく。
隣の席では竜人のおじいちゃんが突然立ち上がった。
「ではここでワシの余興を披露しよう!」
「いやいいですって!!」
だがおじいちゃんは構わずド派手な炎のブレスを吐き出し、大広間の天井を焦がした。
「火災報知器ォォ!!」
宴会の後はお楽しみの温泉タイム。
だがここで問題が発生した。
「混浴ですって!?」
リリアが顔を真っ赤にして叫んだ。
「いや、旅館の大浴場がひとつしかないんだよ……」
「お兄ちゃんと一緒とか絶対いや!」
「いや俺も気まずいわ!」
結局、入浴時間を男女で分けることになった。
しかし魔王軍の狼獣人いとこがひょっこり顔を出す。
「ユウタ、湯けむりで迷子になったらどうする?」
「俺ガイドじゃないんだよ!?」
その後、竜人おじいちゃんが湯船に飛び込み、「熱ッ!」と叫んで出てきたのはいい思い出だ。
温泉を堪能して部屋に戻ると、どこからか不気味な声が聞こえた。
「……ユウタ……」
「ひぃっ!? 誰!?」
布団をかぶって震えていると、障子がスパーン!と開いた。
「ユウタ、お夜食だよ!」
「おばあちゃんかよ!!」
おばあちゃんが笑顔でおにぎりを差し出してきた。
「夜中に食べるおにぎりは格別なのよ」
「太るんだよ!!」
そこへリリアと叔父さんもやってきて、結局3人+おばあちゃんで夜中におにぎりをつまみながらトランプ大会が始まった。
翌朝、旅館全体が騒がしくなった。
「なんか大浴場に“龍神様”が出たらしいわよ!」
女将が慌てて駆け寄ってくる。
「龍神様!?」
俺たちは急いで大浴場へ向かうと、湯けむりの中に巨大な龍の姿があった。
「……ユウタ、久しいな」
「え、知り合い!?」
「ワシ、お前の高祖父じゃ」
「また親戚かよォォ!!」
龍神様――高祖父はゆっくりと頷いた。
「温泉の管理をしておったのだが、親族会議が盛り上がっておると聞いて顔を出したのだ」
「わざわざ出てこなくていいんだよ!」
結局、龍神様は「お主らが楽しそうで安心した」と言って帰っていった。
温泉旅行の最後は全員で集合写真を撮ることに。
「はい、ユウタ坊真ん中ね!」
「え、俺が真ん中!?」
「創造神の孫なんだから当然よ!」
おばあちゃんが俺の背中を押す。
魔王叔父さんやリリア、竜人おじいちゃん、伯母さん、龍神様まで並んでカメラのシャッターが切られた。
「……完全に親戚の大集会だな」
でも不思議と嫌じゃない。
世界が平和になった今、こうして笑っていられるのが一番だと心の底から思った。
「次はどこに行こうかしらねぇ」
「え、次!? もう次の旅行!?」
こうして世界親族温泉旅行は幕を閉じた。
だが俺たちのカオスな親族の日常は、まだまだ続いていく――。