第4話:世界親族大運動会、まさかの開幕! ~赤組VS白組で世界が一つに!?~
――世界全体の親族会議が終わってから一か月後。
俺、坂本ユウタは魔王城の中庭を見渡して絶句していた。
「……なにこのグラウンド!?」
魔王城の庭が、完璧な運動場に変貌していた。
トラックには白線が引かれ、テントが立ち並び、万国旗が風に揺れている。
魔族も人間も勇者ギルドの連中も、せっせと飾りつけやリハーサルに励んでいた。
「ユウタお兄ちゃん、ハチマキは赤と白どっちがいい?」
金髪の勇者いとこ・リリアが、両手にハチマキを持って駆け寄ってきた。
「え、なにそれ?」
「赤組は魔王軍、白組は勇者ギルドと人間側! 私は白組だから、お兄ちゃんは赤組に入ってね!」
「勝手に決めるな!!」
そこへ叔父さん(魔王マルバス)がやってきた。
胸板の厚い体に真っ赤なTシャツ、そして赤ハチマキを額に巻いている。
「ユウタ、我が赤組に加わってもらうぞ!」
「いやそんな部活みたいに誘わないで!?」
当日。魔王城の庭に世界中の親戚が集まった。
観客席はぎゅうぎゅう詰めで、見渡す限り親戚・親戚・親戚。
「これ、世界人口の8割くらい来てない?」
「たぶんそうだと思う……」
リリアが苦笑した。
そこへおばあちゃん(創造神)が、湯飲みを片手に入場。
「みんなー! よく集まったわねー!」
会場が一斉に静まり返った。
おばあちゃんは高らかに宣言する。
「これより――世界親族大運動会を開催します!」
「おぉぉぉぉ!!」
会場に割れんばかりの歓声が響き渡る。
「え、こんなに盛り上がるの……?」
「だって優勝チームには世界中の資源と権限の分配権が与えられるんだよ!」
「重すぎるぅぅ!!」
最初の競技は借り物競走だった。
スタート地点に並ぶ選手たち。俺も赤組代表として出る羽目になった。
「ユウタお兄ちゃん、がんばってね!」
「なんで俺が……」
ホイッスルが鳴り響き、一斉にスタート!
俺はお題カードを引いた。
(……『一番恥ずかしい秘密を持つ親戚を連れてくる』!?)
「無理ゲーだろこれ!!」
とりあえず観客席を走り回って探す。
そこにいたのは――魔王軍の副司令官、おじいちゃんだった。
「おじいちゃん、恥ずかしい秘密ってある?」
「ワシ、昔プロレスラー目指してたんじゃ」
「それ全然恥ずかしくない!!」
仕方なく次の候補を探す。
竜人のおじいちゃんがこっそり耳打ちしてきた。
「ワシ、夜な夜な魔法少女アニメ見て泣いておる」
「これだぁぁ!!」
俺は竜人おじいちゃんを連れてゴール。
だが白組のリリアは、すでにゴールしていた。
「一番恥ずかしい秘密? 伯母さん(ギルド長)の昔の黒歴史で勝ち!」
「お前容赦ねぇな!!」
結果:白組勝利。
次の競技は騎馬戦だった。
俺は赤組の叔父さん(魔王)・狼獣人いとこ・竜人おじいちゃんと騎馬を組むことに。
「ユウタ、しっかり掴まれ!」
「いやもう俺完全にお荷物じゃん!」
開始の合図とともに、赤と白の騎馬が入り乱れる。
リリアが白組のトップに立ち、こっちを狙ってきた。
「ユウタお兄ちゃん、覚悟!」
「無理無理無理!!」
だが叔父さんが俺の腰をガシッと掴んで持ち上げた。
「我が甥を簡単に落とすわけにはいかん!」
「持ち上げるの!? これ騎馬戦!? 重量挙げじゃなくて!?」
最終的に叔父さんの怪力で赤組が勝利した。
「やった! 赤組1勝1敗!」
「おぉぉぉ!」
第三競技はパン食い競走。
……のはずが、なぜか吊り下げられていたのは辛子入りシュークリームや激マズ薬草パン。
「誰だこれ仕込んだの!?」
「ワシじゃ」
「おばあちゃんかよ!!」
俺は死ぬ気でシュークリームを咥えてゴール。
だがその後30分くらい胃痛に苦しむ羽目になった。
結果:白組勝利。
赤組はまたも追い詰められた。
そして最終競技は全員リレー。
これで勝った方が総合優勝だ。
スタート地点に立った俺は、緊張で手汗が止まらなかった。
「ユウタお兄ちゃん、落ち着いて!」
「リリア……」
「お兄ちゃんが笑って走れば、みんな楽しくゴールできるよ!」
「……お前、いいこと言うな」
スタートの合図が鳴る。
「行けぇぇぇ!!」
俺は全力で走った。
バトンを渡し、次の親戚が走り、さらに次の親戚へ。
最後の走者は――赤組は叔父さん、白組はリリアだ。
「ユウタ、見てろ!!」
「負けないよ、お兄ちゃんのおじさん!!」
全力疾走の末、二人がほぼ同時にゴールテープを切った。
「……どっちが勝った!?」
会場が静まり返る。おばあちゃんがゆっくりとマイクを持ち上げた。
「優勝は――」
「「「「引き分け!!」」」」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
優勝は赤白同時、つまり引き分け。
会場中が笑いと拍手に包まれた。
「まあいいじゃない。楽しかったんだから」
おばあちゃんが湯飲みを片手に言った。
「世界は親戚同士。これからは協力していきましょうね」
「「「おぉぉぉぉ!!」」」
魔族も勇者も人間も、みんなが手を取り合っていた。
「……結局、世界平和になっちゃったな」
俺は呆然と呟いた。
リリアが横でニコニコしている。
「よかったじゃん、お兄ちゃん。これでみんな笑って暮らせるよ」
「……まあ、そうだな」
叔父さんが俺の肩をバン!と叩いた。
「よし、次は温泉旅行だ!」
「え、もう次のイベント!?」
こうして世界親族大運動会は幕を閉じた。
だが俺たちの親族カオスな日々は、まだまだ続いていく――。