第3話:世界全体の親族会議、ついに開催! ~おばあちゃん(創造神)本格参戦~
――第二回・異世界親族会議が終わってから、約一週間後。
俺、坂本ユウタは魔王城の中央広間を見渡しながら、思わずため息をついた。
「……どう見ても世界会議じゃん……」
天井まで届く巨大な柱、赤い絨毯が敷かれた大広間。そこにズラリと並ぶのは、魔王軍幹部(親戚)、勇者ギルドの幹部(親戚)、各地の有力者(やっぱり親戚)……。
もう、ここにいないのはモブ一般市民くらいのものだ。
「ユウタお兄ちゃん、緊張してる?」
横でリリア(勇者いとこ)がひそひそと声をかけてきた。金髪がふわりと揺れる。
「いや緊張とかじゃなくて、集まってる人間がほぼ親戚って状況が理解できない」
「うん、わかる」
リリアも苦笑した。
叔父さん(魔王マルバス)は玉座の前に立ち、堂々と宣言する。
「ではこれより――世界全体の親族会議を始める!」
「おぉぉぉぉ!!」
大広間に拍手と歓声が響き渡った。
……これ、世界の命運がかかってるんだよな? なのになぜこんな家庭的な空気なんだ。
そこへ。
「ちょっと通るわよー」
声が響いたかと思うと、大広間の中央に光の柱が降り注いだ。
光が晴れると、湯飲みを片手にした小柄な女性――おばあちゃん(創造神)が立っていた。
「お、おばあちゃん!」
「ほっほ、久しぶりねぇユウタ」
相変わらずマイペースに笑っているが、周囲の人々は一斉にひざまずいた。
勇者ギルド長の伯母さんも、魔王軍副司令官のおじいちゃんも頭を下げる。
「この方こそ我らの創造主……!」
「え、ええぇ……」
おばあちゃんが両手をパン!と打った。
「じゃ、会議始めるわよ。お茶菓子持ってきて」
「「「はい!」」」
世界全体の命運を握る会議が、おばあちゃんの一声でスタートした。
おばあちゃんはちゃぶ台を取り出し、その前に座ってお茶をすすり始めた。
その落ち着きように逆に不安になる。
「さて、世界がこんなに親戚だらけになった理由を説明するわ」
会場がシン……と静まり返った。
「この世界を作るときね、めんどくさかったのよ」
「え?」
「だから最初に作った人間たちを、血縁でどんどん繋げちゃったの」
「……雑ゥ!!」
俺は心の中で叫んだ。
リリアも目を丸くしている。
「でもそれだと戦争とか無駄でしょ? だから、血縁意識が働いて大きな戦争が起きないようにしておいたのよ」
「いや、魔王叔父さん世界征服してましたけど!?」
「ストレス溜まってたんじゃない?」
「軽ッ!!」
「……すまん、俺もやりすぎた」
叔父さんが立ち上がった。
大柄な身体を小さくしながら、深々と頭を下げる。
「勇者が次々と討伐に来るわ、部下が裏切るわで……全部嫌になって世界を滅ぼそうかと……」
「叔父さん……」
リリアが心配そうに見上げる。
おばあちゃんは湯飲みを置いて立ち上がった。
「まあ、失敗するのも人生。大事なのは今後よ」
「おばあちゃん、それで済むんだ……」
「はい次、勇者ギルド長のクラリス」
「は、はい!」
伯母さんが立ち上がる。
「魔王討伐の総攻撃を計画してましたが、もうやめます! 親戚ですし!」
「即決かよ!!」
「じゃあ今後はどうするの?」
おばあちゃんが全体を見回す。
魔王軍の幹部(親戚)が手を上げた。
「魔族と人間の壁をなくしましょう!」
「いいねぇ」
勇者ギルドの幹部(親戚)が続いた。
「共通のイベントを作りませんか? 例えば……親族大運動会とか!」
「運動会!?」
「だってほぼ親戚なんですし!」
会場がざわついた。
俺は思わず手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待って! 世界の命運を決める場で運動会ってどうなんですか!?」
おばあちゃんがにっこり笑った。
「面白そうじゃない。決まりね」
「決まっちゃったー!!」
こうして、「人間・魔族・勇者ギルド・全部親戚大集合の世界親族大運動会」が決定してしまった。
魔王軍の狼獣人がガッツポーズする。
「俺、リレー得意なんで!」
「私、借り物競走で活躍しますわ!」
「お前らノリノリかよ!!」
リリアがニコニコ笑って俺に耳打ちした。
「でもこれ、世界が一つになるいいきっかけになるかもね」
「……そうかもな」
俺は深くため息をついたが、心の奥が少し温かくなった。
会議が終わると、おばあちゃんが最後にこう言った。
「世界はね、親族なんだから助け合っていけばいいのよ。簡単でしょ?」
その言葉に会場の全員がうなずいた。
こうして世界全体の親族会議は幕を閉じた。
親族パワーで戦争は回避され、世界は一応の平和を取り戻した。
だが――
「ユウタお兄ちゃん、運動会の選手宣誓よろしく!」
「は!? なんで俺が!?」
「創造神の孫なんだから当然でしょ!」
世界親族大運動会、開幕まであとわずか。
俺は世界の命運よりも、自分の胃の痛みの方を心配することになったのだった。