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第1話:異世界親族カオス ~転生したら魔王が叔父さんで勇者がいとこでした~

――俺は、死んだ。


いや、こう書くと大げさに聞こえるが、事実だった。

ブラック企業に搾取され続けた俺、坂本ユウタ(28歳)は、連日の残業明けの深夜。

睡眠不足でふらつきながら横断歩道に足を踏み入れた瞬間、信号無視のトラックが突っ込んできたのだ。


「――えっ」


クラクションもブレーキ音もなく、衝撃だけが全身を貫いた。

そして意識は暗転した。


(……あぁ、もうちょっとだけ生きて……休日に積みゲー崩したかったな……)


最後に浮かんだのは後悔でも涙でもなく、ただ休日のゲーム時間を奪われたことへの深い未練だった。

心の中でしみじみとそう呟いたところで、気がつけば俺は真っ白な空間に立っていた。


「……ここは、どこだ?」


辺りを見回すが、上下左右すべてが白い。

現実感のない景色に困惑していると、前方にふわふわと浮かぶ光の玉が現れた。

サイズはバスケットボール大。ぼんやり光るその存在が、神様っぽい何かだと直感した。


「ユウタよ」


俺の名前を呼んできた。声はどこか響くような荘厳な響き。


「お主は異世界に転生し、世界を救う使命を背負うのじゃ!」


「……はい?」


急にそんなことを言われても理解が追いつかない。

ゲームやラノベで見たことのあるテンプレ展開が、まさか自分に降りかかるとは思わなかった。


「魔王が世界を滅ぼそうとしておる。お主は勇者として戦い、平和を取り戻すのじゃ」


(うわ、ガチでテンプレ来たよ……!)


頭の中で「チュートリアル開始」的な文字が浮かびそうになった、その時――


「あらユウタ、来たの?」


「……え?」


聞き覚えのある声に振り向いた俺は、思わず二度見した。


そこにいたのは――おばあちゃんだった。


「お、おばあちゃん!? なんでここに!?」


「あら、なんでって……私がこの世界の管理者だからよ?」


「管理者!?」


腰を抜かしそうになった。俺の知るおばあちゃんは庭の畑でトマトを育ててる普通のおばあちゃんだ。

それが世界の管理者? 世界ってそんな家庭的に管理されてたの?


「あんたが転生するって聞いて、ちょっと顔出しただけよ。勇者とか魔王とか全部、まぁ……親戚みたいなもんだから安心しなさい」


「いや安心できるか!!」


神様っぽい光の玉までペコペコと頭を下げる。


「この方は我らの創造主……世界を作ったお方なのです……!」


「え、ええぇぇぇぇ!?」


目の前のおばあちゃんが創造神!? 俺の頭は混乱でパンク寸前だ。


おばあちゃんはそんな俺をよそに、ちゃぶ台を出して湯飲みを取り出し、お茶をすすっている。


「とにかく、転生先で会う人たちはみんな親戚筋だから」


「いや、それが一番怖いわ!!」


「困ったことがあったら"親族会議"を開きなさい。みんなそうやって解決してるんだから」


「親族会議で世界救えるの!?」


「じゃ、がんばって」


――そんな適当な説明を最後に、俺の身体は眩しい光に包まれた。


ドンッ!!


地響きとともに目を開けると、そこは暗くて広大な謁見の間のような場所だった。

天井は高く、巨大な柱が立ち並び、壁には禍々しい装飾。

俺の目の前には漆黒の玉座が鎮座していた。


そしてその玉座に腰掛け、こちらをギロリと睨む巨大な男。全身から溢れ出る禍々しいオーラ。


(……こいつが魔王か……!)


「勇者ユウタ……貴様を始末する!」


「ひっ……!」


背筋が凍る。

しかし、魔王の顔をよく見た瞬間、俺はぽつりと呟いてしまった。


「……あ、あれ? 叔父さん……?」


「な、なぜそれを知っているッ!?」


「いや、だって……母さんの兄貴だよね?」


魔王が固まった。いや俺も固まった。


「……お前、ユウタか!? 坂本家の!」


「そうです……」


次の瞬間、魔王の目に涙が滲んだ。


「お前、小さい頃よく私の家でスイカ食ってたユウタじゃないか!?」


「覚えてたんですね!?」


「そりゃ覚えてるわ! お前の母さんから『社会人になったら一度くらい顔出せ』って言われてたのに……まさか異世界で会うとは……!」


緊張感が一瞬で吹き飛んだ。


「……あの、世界を滅ぼそうとしてるって聞いたんですけど」


「ああ……ストレスでついな……」


魔王――叔父さんは深いため息をついた。


「勇者が私を討伐に来るし、部下は裏切るし……全部嫌になったんだ」


そこへ、重厚な扉がバァン!と開かれた。


「魔王マルバス! 討伐に来たわよ!」


凛とした声と共に現れたのは、金髪碧眼の美少女勇者。だが俺は思わず叫んだ。


「……え、リリア?」


「……ユウタお兄ちゃん?」


「やっぱり親戚か!!」


かくして、俺・魔王叔父さん・勇者いとこのリリアの三人は、魔王城の応接室で向かい合っていた。

テーブルの上にはお茶とクッキー。誰がどう見ても魔王城の雰囲気ではない。


「……えー、つまり。叔父さんはストレスで世界征服を始めて、リリアはいとことしてそれを止めに来た。合ってる?」


「うむ……」


「合ってるけど、ユウタお兄ちゃんはなんでここに?」


「俺も転生してきたんだよ! おばあちゃんが『親族会議で解決しろ』って……」


三人でしばし沈黙。


「……じゃ、会議するか?」


「そうね……」


第一回・異世界親族会議がこうして始まった。

世界の命運がかかっているはずなのに、出てくる議題は驚くほど家庭的だった。


「そもそも叔父さん、部下に優しくしてる?」


「……耳が痛い」


「あと働きすぎ! 休暇取った方がいい!」


「勇者に言われたくないわ!」


「でも叔父さん、スイカ食べると元気出るタイプじゃない?」


「それは……ある」


(俺たち、今なに話してんだろ……!?)


会議の末、叔父さんは世界征服計画を一時中断し、まずは「心身の健康を取り戻す」ことを優先することになった。

勇者リリアも了承し、俺たちは和解の握手を交わした。


……いや、いいのかこれで? 世界の命運ってもっとシリアスなもんじゃないの?


俺は心の底から叫びたくなった。


――親戚多すぎて世界がカオスだ!!


だが、この親戚パワーがなければ俺は間違いなく生き残れない。

そしてきっと、親族の絆こそが世界を守る唯一の鍵なのだろう。


「よし、次はおばあちゃんも交えて全体会議だな!」


「「「賛成!」」」


こうして俺たちは今日も親族会議を開き続ける。

世界の平和を守るため、そして……親戚関係をもっと複雑にするために。

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