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第8話『全国大会前夜』

全国大会まで、あと三日。


廃校の体育館に、乾いたステップ音と神楽太鼓のリズムが響く。

拓真とレオは、いつものように神楽×ブレイクの“型ブレイク”を反復していた。


だが――その日のレオの動きは、どこかぎこちなかった。


「お前、どうしたん?」


そう問いかける拓真に、レオは言葉を濁したまま、視線を逸らした。



夜。レオは民宿の部屋でスマホを握りしめていた。

画面には、東京の母からのLINEメッセージが並ぶ。


「いい加減にしなさい。受験生なのを忘れてるの?」

「お父さんが帰京させるって言ってる」

「あなたの人生、踊りじゃないのよ」


視界がにじんだ。


(分かってる……分かってるけど)


レオは、自分の中で答えが出ないまま、拳を強く握りしめた。



翌日、拓真の元にレオがやって来た。

手にはスーツケース。


「……ごめん、俺、東京帰る」


「は?」


「親がマジでキレてさ。東京に戻って進学に集中しろって。これ以上は迷惑かけらんない」


「……全国大会、直前やぞ」


「分かってる。けど……親の言うこと無視したら、たぶんもう戻ってこれん」


拓真は言葉を失った。


レオがいなければ、「神舞-Breakers」は成り立たない。

けれど、それ以上に、友として――心の芯にぽっかり穴が空いたような感覚。


数秒の沈黙のあと、拓真はぽつりと言った。


「分かった。じゃあ、俺一人で舞う」


「……え?」


「最初はお前に引っ張られとった。でも今は違う。俺も……俺なりに、伝えたいもんがあるけん」


拓真の目は、まっすぐだった。

寂しさも、怒りもない。ただ、決意の色だけがそこにあった。


レオの胸に、何かがぶつかった。


(こいつ、ホントに……)



その夜。東京行きの新幹線に乗る直前、レオは最後にSNSを開いた。

神舞-Breakersの動画。コメント欄には全国の人たちからの応援が続いていた。


「地方の神楽がこんなにカッコよくなるなんて」

「伝統とブレイクの融合、マジで鳥肌」

「全国で見たい!」


(俺が、捨てようとしてるのって……)


次の瞬間、レオはホームに駆け戻っていた。

スーツケースを蹴り飛ばし、ポケットのスマホを取り出す。


「親父!俺、今は東京には行けない!全国大会、終わったらちゃんと受験するから!……今は、俺の“今”をやらせて!」


電話の向こうの怒鳴り声にも構わず、レオは叫び続けた。



全国大会前日。

廃校体育館に一人で立っていた拓真は、静かに舞の型を繰り返していた。


(……レオ、おらんのやったら、俺が全部背負う)


そこに、ガラッと扉が開く音。


「おーい、神楽小僧!」


聞き慣れた声。


「……は?」


拓真が振り向くと、スーツケースを転がすレオが立っていた。


「帰ってきたぞ、相棒」


一拍遅れて、拓真の顔が笑みに変わる。


「なんや、早かやん」


「言ったろ? 神、降ろすにはお前が必要。……でも、俺にも必要だった。お前がな」


ふたりの拳が、力強くぶつかる。


その夜、再び太鼓と笛とステップが廃校に響いた。

それは、神楽とダンスが未来へ羽ばたく“前夜祭”のように力強く、そして優しかった。

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