第5話『動画再生、1万回』
昼休みの教室。
ざわめく声の中心にいたのは、ひときわ目立つ女子――**星野愛梨**だった。
茶髪のポニーテールに、まつげの長い瞳。
学年一のSNSフォロワー数を誇る“映え系女子”であり、拓真とは小学校からの幼なじみでもある。
「ねぇ拓真、ちょっと!」
弁当を広げようとしていた拓真の机に、スマホを片手に愛梨が駆け寄ってきた。
「えっ、なに?」
「この動画、ヤバくない? あんたたち、昨日あの体育館で踊ってたやつでしょ? レオくんが投稿したやつ、今うちのSNSでリポストしたら――再生数、1万回超えたんだけど!!」
「はあっ!?」
教室がざわつく。
愛梨が掲げたスマホ画面には、例の“神楽ブレイク”の練習動画。
レオが何気なく投稿したそれを、愛梨が「これ絶対バズる」と直感して、フォロワー5万人のアカウントで紹介していたのだ。
『#和風ブレイク』『#神舞ステップ』『#鬼面ダンス降臨』
軽いノリのタグに反して、コメント欄には熱い感想が溢れていた。
「初めて神楽ってもの見たけど震えた」
「動きに魂入っててすごい。これが舞ってやつか」
「日本文化とストリートが融合するとこうなるのかよ……天才か?」
拓真は目を見開いた。
バズるなんて思ってもいなかった。
そもそも、誰に見せるためでもなく、“ただ舞いたかった”だけだったのに。
「すげーじゃん拓真!あたしさ、正直最初は“また変なことやってる”って思ったけど……今は普通に、超カッコいいと思ってる」
「……マジで?」
「うん。ガチで。
ていうかあんたってほんと、昔から変わんないよね。人がなんと言おうが、やりたいことやるんだもん」
愛梨は笑って言った。
その言葉に、ちょっとだけ昔の記憶がよみがえる。
小学校の頃、秋祭りの神楽で、鬼の面をつけて舞ったとき――
一番最初に「かっこよかった!」って言ってくれたのも、愛梨だった。
「……ありがとう」
拓真は小さく頭を下げた。
*
放課後、廃校の体育館。
今まで静かだった空間に、何人かのクラスメイトが見学に来ていた。
「ほんとに踊ってる……」
「神楽って、あんなに激しいんだな」
「レオの動き、なんか忍者みたいでカッケー」
最初は茶化し半分だった視線が、次第に真剣なまなざしに変わっていく。
レオが言う。
「“届ける”って、こういうことなんだろうな。
ネットが悪いとか良いとかじゃなくて、“伝わるかどうか”がすべて」
拓真は頷いた。
「……祖父ちゃんの言ってた“魂を込める”って、こういうことだったのかもしれない」
*
その夜。
レオが書いた文字が、白いTシャツの胸元に浮かび上がった。
『神舞-Breakers』
「チーム名、仮だけどさ。俺、もうエントリーしたよ。ダンス甲子園の地方予選。今週末、行ける?」
「……行く。やるって決めたからには、舞う」
「お、拓真くん、だいぶノリ気じゃーん」
「うるせぇ」
ふたりは笑い合った。
SNSの波は、ただの始まりにすぎない。
舞は、ここからが本番だった。