第2話『舞とムーブ』
放課後の教室。
真堂レオは、拓真の隣の席に陣取っていた。
「ねえ、君ってさ、なんか変わった動きするって聞いたけど、何やってる人?」
拓真は少し迷ってから、低い声で答えた。
「……神楽。舞いの一種」
「カグラ?って、神社で踊るやつ?」
「踊りじゃない。舞だ」
その言い方にレオはニヤリとする。
「へえ。じゃあ、俺のブレイクと違って、ジャンプとかスピンとかないんだ?」
「ある」
「あんのかよ!」
レオは声を上げて笑った。
だがその笑いはバカにするものではなく、興味に満ちていた。
「じゃ、見せてよ。実物」
*
その日の夕方。
ふたりは神社の境内に立っていた。
拓真が持ってきたのは、木剣と鬼の面、そして白装束の舞衣。
レオは境内の石段に腰を下ろし、興味津々で見守っていた。
拓真が鬼の面をかぶると、空気が一変した。
足を踏み鳴らす。腰を落とす。
手にした剣を振るたび、静寂を裂くような風が吹いた。
跳ね、回り、切り裂くような一閃。
「……すげえ」
レオは思わず呟いた。
舞が終わると、拓真は汗を拭きながらレオの方を見た。
「どうだった」
「完全に……踊ってる、じゃなくて“闘ってる”って感じ。てか、マジでかっこいいじゃん」
レオは立ち上がり、ポケットからスマホを取り出した。
「ちょっと待って。音流すから、さっきの動きで一緒にやってみようぜ」
「は?」
「いいから。俺が音出す。君は、さっきの神楽の“型”で動く」
無茶苦茶だ、と思いながらも、拓真はなぜか拒む気になれなかった。
流れてきたのは、重くて早いブレイクビーツ。
神楽とはまるで違うリズム。
だが、身体は自然と反応した。
一歩踏み込む。
剣を構える。
腰をひねって、足を蹴り上げる。
「いい!もっと!」
レオが合いの手を入れる。
鬼の面はつけていなかったが、拓真の動きには確かな“神楽”の芯が残っていた。
そして次の瞬間、レオが音に乗ってブレイクのムーブを始めた。
ステップ、スピン、フリーズ。
その間に拓真の型が割り込む。
古と新。静と動。
ふたつの魂がぶつかり、混ざり合っていく。
気づけば、拓真は夢中で動いていた。
神楽ではタブーだった即興の舞い。だがそれは、新しい表現になっていた。
最後にふたりが同時にポーズを決めた瞬間、境内の空気が震えたような錯覚があった。
「……なんだこれ」
「な?面白いだろ?」
レオは満面の笑みを浮かべていた。
「君の動き、まるで“古代のストリート”だよ」
「……そんなもんじゃない」
「でも、融合させたら、絶対すげーことになるって。
“神楽ブレイク”ってさ、世界に一つだけのスタイル、作れるかもよ」
拓真はしばらく黙っていた。
だが、その胸の奥には、確かな火が灯っていた。
面白い、と初めて思った。
神楽で舞うのが好きだった。でも今、この即興の舞いが、もっと自分を自由にしてくれる気がした。
「……もう一度、やってみるか」
「やった!」
レオがガッツポーズを決める。
神社の静寂に、再びブレイクビーツが鳴り響く。
こうして、“神舞”の胎動が始まった。