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第2話『舞とムーブ』

放課後の教室。

真堂レオは、拓真の隣の席に陣取っていた。


「ねえ、君ってさ、なんか変わった動きするって聞いたけど、何やってる人?」


拓真は少し迷ってから、低い声で答えた。


「……神楽。舞いの一種」


「カグラ?って、神社で踊るやつ?」


「踊りじゃない。舞だ」


その言い方にレオはニヤリとする。


「へえ。じゃあ、俺のブレイクと違って、ジャンプとかスピンとかないんだ?」


「ある」


「あんのかよ!」


レオは声を上げて笑った。

だがその笑いはバカにするものではなく、興味に満ちていた。


「じゃ、見せてよ。実物」



その日の夕方。

ふたりは神社の境内に立っていた。


拓真が持ってきたのは、木剣と鬼の面、そして白装束の舞衣。

レオは境内の石段に腰を下ろし、興味津々で見守っていた。


拓真が鬼の面をかぶると、空気が一変した。

足を踏み鳴らす。腰を落とす。

手にした剣を振るたび、静寂を裂くような風が吹いた。


跳ね、回り、切り裂くような一閃。


「……すげえ」


レオは思わず呟いた。


舞が終わると、拓真は汗を拭きながらレオの方を見た。


「どうだった」


「完全に……踊ってる、じゃなくて“闘ってる”って感じ。てか、マジでかっこいいじゃん」


レオは立ち上がり、ポケットからスマホを取り出した。


「ちょっと待って。音流すから、さっきの動きで一緒にやってみようぜ」


「は?」


「いいから。俺が音出す。君は、さっきの神楽の“型”で動く」


無茶苦茶だ、と思いながらも、拓真はなぜか拒む気になれなかった。


流れてきたのは、重くて早いブレイクビーツ。

神楽とはまるで違うリズム。

だが、身体は自然と反応した。


一歩踏み込む。

剣を構える。

腰をひねって、足を蹴り上げる。


「いい!もっと!」


レオが合いの手を入れる。


鬼の面はつけていなかったが、拓真の動きには確かな“神楽”の芯が残っていた。


そして次の瞬間、レオが音に乗ってブレイクのムーブを始めた。


ステップ、スピン、フリーズ。

その間に拓真の型が割り込む。


古と新。静と動。

ふたつの魂がぶつかり、混ざり合っていく。


気づけば、拓真は夢中で動いていた。

神楽ではタブーだった即興の舞い。だがそれは、新しい表現になっていた。


最後にふたりが同時にポーズを決めた瞬間、境内の空気が震えたような錯覚があった。


「……なんだこれ」


「な?面白いだろ?」


レオは満面の笑みを浮かべていた。


「君の動き、まるで“古代のストリート”だよ」


「……そんなもんじゃない」


「でも、融合させたら、絶対すげーことになるって。

 “神楽ブレイク”ってさ、世界に一つだけのスタイル、作れるかもよ」


拓真はしばらく黙っていた。

だが、その胸の奥には、確かな火が灯っていた。


面白い、と初めて思った。

神楽で舞うのが好きだった。でも今、この即興の舞いが、もっと自分を自由にしてくれる気がした。


「……もう一度、やってみるか」


「やった!」


レオがガッツポーズを決める。


神社の静寂に、再びブレイクビーツが鳴り響く。

こうして、“神舞”の胎動が始まった。

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